歴史・文化観光に関する国内旅行市場調査(その1)

概要

歴史・文化観光に関する国内旅行市場調査(その1)
韮山の反射炉

1.国内市場における歴史文化観光の需要構造

当財団では2014年度から「歴史文化観光とその振興施策に関する基礎的研究」を進めている。既に「アジア市場における歴史文化観光への関心度」については、2014年7月に調査を行い、当財団ホームページで公表しているので参照されたい。[1](参照先:https://xb069601.xbiz.jp/research/resource-cultural-heritage)。

本稿では、2015年の2月中旬に実施した「歴史文化観光に関する国内旅行市場調査」の15,754人のデータを基に、歴史文化観光への関心度、実施状況等について紹介する。

次回以降は、歴史文化観光に一定の関心があり、年間2回以上の宿泊を伴う歴史文化観光を実施した人(1,901人)を対象とした2次調査結果を基に、歴史文化観光の実態と志向について解説する予定である。 (文中の写真は筆者撮影)

1. 調査の概要

「歴史文化観光に関する国内旅行市場調査」は2段階に分かれ、1次調査で歴史文化観光への関心度、関心分野、実施回数等を聞いた上で、中関心度層以上かつ歴史文化観光地を目的地に含む国内宿泊旅行を年に2回以上実施した層に絞って、2次調査として30問に及ぶ詳細な質問を行っている。調査概要は以下の通りである。また、図表1は各段階での調査対象と標本数を整理したものである。

調査の概要

図表1.調査対象と標本数

調査対象と標本数

2. 歴史文化観光の市場構造(1次調査結果より)

①歴史文化観光への関心度 ~高関心度層は18.9%。若年層の関心度高い

最初に、1次調査(スクリーニング調査)の結果を用いて、歴史文化市場の全体構造について整理する。

歴史文化観光地を目的地に含む国内旅行についての関心度は、高関心度層(「非常に関心がある」)は18.9%、中関心度層(「ある程度関心がある」)は55.6%、低関心度層(「あまり関心がない」18.4%+「関心がない」7.1%)は25.5%となっている。

図表2は属性別の関心度層の分布をみたものである。

先ず地域ブロック別にみた歴史文化観光への関心度は、東高西低の傾向がみられる。高関心度層の比率が最も高いのは関東で20.6%、九州は15.7%、沖縄は14.9%に留まっている。

性別では、高関心度層が男性で19.8%と、女性の18.0%をやや上回っている。

年代別では、20代で22.5%、30代で20.6%と若年層で高い傾向がある。40代から60代は比較的低い。70代は19.8%と平均よりも高い。

世帯年収別にみると、年収が高い層ほど高関心度層が高くなる傾向がみられる。

図表2.属性別にみた歴史文化観光への関心度の分布

属性別にみた歴史文化観光への関心度の分布

②宿泊を伴う歴史文化観光旅行回数 ~関心度の違いで顕著な差

2014年に実施した歴史文化観光地を目的地に含む国内旅行回数は平均0.8回であった。1回以上実施した人の比率は39.9%である。

関心度別にみると、高関心度層では平均1.7回、中関心度層では0.8回、低関心度層では0.2回と、関心度の違いにより大きな差異がみられる(図表3)。

延べ回数ベースのシェアを計算すると、高関心度層が39.8%、中関心度層が52.7%、低関心度層が7.5%となっており、高関心度層は人口ベースでは2割弱だが、回数ベースでは約4割を占める重要なマーケットとなっている。

図表3.歴史文化観光の市場構造と関心度別の特性

歴史文化観光の市場構造と関心度別の特性

③宿泊観光旅行における歴史文化観光のシェア ~宿泊観光旅行の47%が歴史文化観光地を訪問

スクリーニング調査では、1年間の宿泊観光旅行回数(歴史文化観光地を目的地としない旅行を含む)について聞いている。その結果、宿泊観光旅行を実施した人の比率は63.0%で、平均回数は1.72回であった(図表3)。

全宿泊観光旅行回数のうち、歴史文化観光地を目的地に含む旅行回数のシェアを計算すると46.8%となり、約半数の宿泊観光旅行で歴史文化観光地が目的地に含まれていることがわかる。このシェアを関心度層別に計算すると、高関心度層は64.1%、中関心度層は44.3%、低関心度層は23.1%となっている。 

④日帰り歴史文化観光の回数 ~約4割の人が実施

宿泊旅行だけでなく、歴史文化観光地への過去1年間の日帰り旅行回数についても質問している。

その結果、歴史文化観光地への日帰り旅行の平均回数は0.91回、1回以上実施した人の比率は39.9%となった。

関心度別にみると、高関心度層で1.9回、中関心度層で0.9回、低関心度層で0.2回となっており(図表4)、関心度別の市場シェアは、高関心度層39.7%、中関心度層53.6%、低関心度層6.7%であった。宿泊を伴う歴史文化観光旅行と、ほぼ同様の傾向となっている。

図表4.宿泊観光旅行・宿泊歴史文化観光・日帰り歴史文化観光の実施回数

宿泊観光旅行・宿泊歴史文化観光・日帰り歴史文化観光の実施回数

3. 関心のある歴史文化資源・歴史文化観光地の訪問経験(1次調査結果より)

①関心のある歴史文化資源の種類 ~「伝統的建造物が残る町並み」がトップ

10種類の歴史文化資源について、それぞれの関心度を「非常に関心がある」「ある程度関心がある」「あまり関心がない」「関心がない」の4段階で選んでもらった。

図表5は、全体及び歴史文化観光への関心度別に、各種資源に対して「非常に関心がある」と回答した人の比率をみたものである。

回答者全体でみると、「伝統的な建造物が残る町並み」18.7%(高関心度層62.7%)、「城下町」15.5%(同56.0%)、「神社」14.9%(同53.0%)、「お寺や仏像」14.3%(同51.9%)、「古い街道」12.4%(同43.6%)、「古い洋風建築」11.6%(同36.3%)の順で高い。

全般に歴史文化観光の高関心度層では、各種資源について「非常に関心がある」の比率が高く、中関心度層では「ある程度関心がある」の比率が高い傾向がみられる。

図表5.歴史文化観光への関心度別にみた種類別歴史文化資源への関心度
     (各種資源に「非常に関心がある」と回答した人の比率

歴史文化観光への関心度別にみた種類別歴史文化資源への関心度

次に図表6は、各種資源に対して「ある程度関心がある」と回答した人を加えた比率をみたものである。

回答者全体でみると、関心のある人の比率は、「伝統的な建造物が残る町並み」73.1%、「城下町」68.3%、「神社」64.1%、「お寺や仏像」62.7%、「古い街道」60.5%、「古い洋風建築」55.4%、「伝統工芸や産業遺産」55.4%の順で高い。

図表6.歴史文化観光への関心度別にみた種類別歴史文化資源への関心度
     (「非常に関心がある」+「ある程度関心がある」)

歴史文化観光への関心度別にみた種類別歴史文化資源への関心度

②関心のある歴史文化資源の時代 ~戦国から江戸、幕末・維新に関心

日本史を10の時代に分けて、そのぞれの時代の歴史文化資源への関心度を「非常に関心がある」「ある程度関心がある」「あまり関心がない」「関心がない」の4段階で選んでもらった。

図表7は、全体及び歴史文化観光への関心度別に、各時代に対して「非常に関心がある」と回答した人の比率をみたものである。人気が高い時代は、戦国時代から江戸時代を経て幕末・明治維新にかけてということがわかる。

回答者全体でみると、「江戸時代」16.7%(高関心度層51.9%)、「戦国時代・安土桃山時代」15.6%(同49.3%)、「幕末・明治維新」13.4%(同48.5%)、「平安時代・源平合戦」11.0%(同40.7%)となっている。中関心度層では、最も高い「幕末・明治維新」でも12.7%に留まっている。

図表7.歴史文化観光への関心度別にみた時代別歴史文化資源への関心度
      (各時代の資源に「非常に関心がある」と回答した人の比率)

歴史文化観光への関心度別にみた時代別歴史文化資源への関心度

図表8.歴史文化観光への関心度別にみた時代別歴史文化資源への関心度 
      (「非常に関心がある」+「ある程度関心がある」)

歴史文化観光への関心度別にみた時代別歴史文化資源への関心度

また、各時代に「ある程度関心がある」と回答した人を加えた比率は、図表8のようである。中関心度層でも、「江戸時代」は76.2%の人が関心を持っている。低関心度層では、「昭和時代(戦後)」が21.2%と、現代に近い歴史文化資源への関心の方が高い。

■属性別にみた特性~20代と70代で高い関心度

地域別に時代別歴史文化資源への関心度(ここでは「非常に関心がある」人の比率)をみると、「戦国時代・安土桃山時代」は中部地方で17.2%、「江戸時代」は関東地方で18.4%、「幕末・明治維新」は東北地方で17.1%と、それぞれ最も高くなっている。全般にその土地と縁が深い時代への関心が高い傾向がみられる(図表9)。

性別では、「平安時代・源平合戦」を除き、男性で関心が高い。年代別では、20代と70代で各時代全般に関心が高い傾向がみられる。

図表9.歴史文化観光への関心度別にみた時代別歴史文化資源への関心度
     (「非常に関心がある」+「ある程度関心がある」)

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③主な歴史文化観光地への訪問経験 ~中関心度層でも比較的高い訪問率

地域ブロック毎に著名と思われる歴史文化観光地を2箇所ずつ18箇所選んで、観光目的での訪問経験の有無を聞いた。

全体でみると、鎌倉57.1%、神戸52.5%、長崎47.4%、金沢46.0%、伊勢45.8%などの訪問率が高くなっている(図表10)。当然ではあるが、訪問経験率は、資源が所在する地域ブロックで最も高い傾向がある。

図表10.属性別にみた時代別歴史文化資源への関心度
     (「非常に関心がある」人の比率。太字は最も回答率が高いセグメント)

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歴史文化観光への関心度別にみると、高関心度層の訪問率が全般に高いが、種別資源や時代別資源への関心度の図に見られたような、中関心度層との大きな差異は見受けられない(図表11)。ここに掲げた歴史文化観光地が、自然やグルメなど歴史文化資源以外の多様な資源を含んでいることや、修学旅行や職場旅行等で訪れやすい地域であることも一因と思われる。

図表11.主な歴史文化観光地の訪問経験(歴史文化観光への関心度別)

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■京都への訪問経験率 ~88%が来訪経験あり

歴史文化観光地として最も人気の高いと考えられる京都については、別途観光目的での訪問回数を聞いている[2]。

その結果、訪問経験率は京都在住者と在住経験者を除いて計算すると88.0%と非常に高い経験率となっている。平均訪問回数は4.45回に上る。

歴史文化観光への関心度別にみると、高関心度層で95.1%(平均5.94回)と高いが、中関心度層でも92.0%(平均4.77回)、低関心度層でも74.5%(平均2.66回)と高い経験率となっている。


[2]「旅行者動向2013」(公財)日本交通公社で、京都は「歴史・文化観光」で行ってみたい旅行先の1位である。

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発注者 公益財団法人日本交通公社
プロジェクトメンバー
実施年度 2015年度