No.114 日韓国際観光カンファレンス2021を開催しました
2021年11月19日(金)、日韓国際観光カンファレンスを開催しました。このカンファレンスは、研究協定を結んでいる韓国文化観光研究院(以下、KCTI)と毎年共催しているものです。新型コロナの影響により、2年連続でのオンライン開催となりました。
当日は両機関の研究員5名による研究発表と質疑応答を行いました。
第1部のテーマは「旅行者調査からみたコロナ禍の旅行市場への影響」です。
昨年度のカンファレンスにおいて、日本と韓国の旅行者動向・意識の共通点と違いについて、共同研究してはどうかという提案がありました。これを受け今年度両機関では、通常の調査に日韓共通設問を加えて調査を行っています。当日は、この調査結果の概要を報告しました。
第2部は「ワークライフバランス」を共通テーマとし、韓国政府の労働者休暇支援事業と日本におけるワーケーションの現状を取り上げました。
韓国からは、休暇取得の促進と地域観光の活性化を目的に、国内旅行の実施に対して政府と企業が旅費を支援する「労働者休暇支援事業」について報告しました。日本からは、コロナ禍における働き方の変化を踏まえ、ワーケーションの実施状況や意識等について報告しました。
研究発表後は、日本人と韓国人とで旅行者動向や意識の違いが生じている要因や、ワークライフバランスと観光をめぐる両国の政策推進の状況等について、質疑応答を行いました。
■当日のプログラム
- 両機関代表の挨拶
- 発表1. 新型コロナ感染症による韓国人の国内旅行及び海外旅行への影響分析(KCTI)
制作情報センター統計管理チーム キム・サンテ氏 - 発表2. コロナ禍における日本人の国内旅行動向・意識(JTBF)
観光文化振興部 企画室長/上席主任研究員 五木田 玲子
観光地域研究部 地域戦略室 研究員 仲 七重 - 発表3. 労働者休暇支援事業の推進状況と政策への示唆(KCTI)
副研究委員 アン・ヒジャ氏 - 発表4. 日本におけるワーケーションの現状(JTBF)
観光地域研究部 地域戦略室長/上席主任研究員 守屋 邦彦 - ディスカッション
■各研究発表要旨
【発表1】新型コロナ感染症による韓国人の国内旅行及び海外旅行への影響分析
制作情報センター統計管理チーム キム・サンテ氏(KCTI)
- 韓国は10月末現在ワクチン接種率70%を達成し、旅行需要の回復に対する期待が高まっている。今回は、「国民旅行調査」「コロナ禍における国内旅行行動調査」の調査結果を報告する。
- 新型コロナの拡大により、2020年の国内旅行回数は、前年に比べて34.7%p減少した。2021 年2月から徐々に回復しつつあるが、まだ2019年のレベルまで回復していない。年齢別にみると、70歳以上での減少幅が最も大きい。国内における日帰り旅行と宿泊旅行の構成比をみると、新型コロナ以降は宿泊旅行の割合が減少している。
- 旅行情報の取得先にも変化が現れていて、過去の訪問経験に基づいて旅行する割合は増加した一方で、周りの人から情報を取得する割合は減少した。同行者数は減少傾向にあり、団体旅行は減少している。移動手段は、自家用車の利用率があがり、公共交通の利用率は減少した。旅行先での活動は、自然と風景鑑賞、グルメ観光の割合が高い。
- 直近の第3四半期調査で、「日常生活と比べ国内旅行が危険だ」と答えた割合は55.4%で、前期と比べ8.6%p減少した。危険と答えた割合の減少幅が大きいのは、男性、30第、ワクチン1回目接種完了者であった。なお、危険だと感じる割合が高い場面は、「祭り・イベント」や「観光地訪問」、「公共交通機関」であった。
- 約8割が新型コロナの拡大前に比べて外出頻度が減少した・活動範囲が狭くなったと回答した。男性20代、30代、40代において、コロナ禍前とほぼ同じという回答が増加傾向にあった。
- 旅行先を決めるにあたって重視した点は、密回避が継続して高い。居住地からの近さも重視しており、前期に比べて増加傾向にあった。また、ワクチンの接種済みの場合、旅行先の感染者数や感染対策を気にする割合が前期に比べて大幅に減少した。
- 韓国人の海外旅行の意向率は過去3ヶ月間と比べて大きな変化はなかった。海外旅行先の選択時感染予防対策を考慮する割合は減少し、楽しめるものを考慮する割合が増加した。旅行先については、日本、ハワイ、西欧、南欧の順で訪問意向が高い。日本への訪問意向は前期に比べ1.7%p増加しており、特に20代男性未婚の割合が高かった。
- コロナ禍において、我々は社会的な緩和と適応に対応しながら暮らしている。今後も観光を取り巻く環境は変化することから、継続的な調査・データの分析をしていくことが必要である。
【発表2】コロナ禍における日本人の国内旅行動向・意識
観光文化振興部 企画室長/上席主任研究員 五木田 玲子
観光地域研究部 地域戦略室 研究員 仲 七重 (JTBF)
- コロナ禍の影響による国内旅行のとりやめは、2020年3月に急増し、20年4~5月にピークとなった。その後は、感染状況の変化にともない減少している。当初の予定通りの実施は、感染拡大期に減少しているものの、その割合は高まっており、コロナ慣れの傾向が見られる。
- 19年、20年、21年の8月を比較したところ、20年は19年と比べて密や接触を避け分散し同居の家族と短期間で行く旅行が多かったが、21年もその傾向は続くものの徐々にコロナ禍前(19年)の水準に戻りつつある。域内旅行も増加しており、北海道・東北、九州・沖縄では、域内旅行率が8割以上と高い水準で推移していた。
- 21年のコロナ禍収束後の旅行意向は「旅行に行きたい」が20年に比べて高まった。コロナ禍の長期化にともない、「自粛してきた分、旅行に行きたい」という思いがこれまで以上に増してきていることがわかる。特に、10~20代の男女では「これまで以上に旅行に行きたい」という意向が他の性年代に比べて高い。
- 旅行の動機は、「旅先のおいしいものを求めて」「日常生活から解放されるため」が最も多く、「日常生活から解放されるため」や「食」はコロナ禍前に比べて増加した。また、行ってみたい旅行タイプは、コロナ禍前に比べてほぼすべてのタイプで増加していた。「温泉」「高原リゾート」「リゾートホテル」の増加幅は特に大きい。
- 新型コロナ流行による行動の変化は、混雑する場所や時間などの密回避や、身近な人との少人数旅行などプライベート性の高い旅行が意識されていた。
- コロナ禍前と比較した外出の頻度・行動の範囲は、すべての年代で「減った」「狭まった」と回答した割合が高い。特に、女性・高齢者・高所得者層でその傾向がある。日韓の調査結果を比較したところ、日本では高齢層、韓国では中年層で減少した(狭まった)と回答した割合が高い。
- 国内旅行に対する危険認識は、「日常生活と同程度危険」「危険」がそれぞれ半分程度を占めた。危険だと思う場面は、「イベント」「公共交通機関」「街や都市への訪問」など不特定多数との接触がある場面が挙げられた。日韓比較では、韓国の方が国内旅行に対する危険の認識が強い。
- 旅行先を決めるにあたって重視した点は、密回避や公共交通機関や旅行先での感染対策などが挙げられた。また、宿泊先の滞在環境など、宿泊先での過ごしかたについても重視されていた。日韓ともに密回避が最も重視されていたが、韓国では居住地からの近さが日本よりも重視されていた。
【発表3】労働者休暇支援事業の推進状況と政策への示唆
副研究委員 アン・ヒジャ氏(KCTI)
- 韓国政府は、2018年から「労働者休暇支援事業」を推進している。韓国はOECD諸国に比べて非常に労働時間が長く、ワークライフバランスの改善が求められている。また、年次有給休暇を取得できない要因として、職場内に取得しづらい雰囲気があるという調査結果も出ており、“企業の休暇文化”改善の必要性を指摘する声が高まっている。
- 2018年発足の文在寅政権により、ワークライフバランスの実現が重要な政策課題として位置付けられ、労働時間の短縮、休暇取得の支援、家族に対するケアの拡大が推進された。
- 「労働者休暇支援事業」はこうした流れの一つに位置づけられるもので、①労働者の休暇機会の拡大および休暇文化の改善、②国内観光実施の拡大と地域観光の活性化、を事業目的としている。
- 本事業では、労働者による国内旅行に対して、政府と企業が旅費を支援する。負担率は、労働者2:企業1:政府1。2018年から2121年までの事業で、事業対象は中小企業を中心に次第に拡大され、参加企業数も増加傾向にある。
- 本事業で支援される旅費は、宿泊施設に使われることが多く、滞在型観光の促進に効果があることがわかった。本事業に参加した労働者と参加していない労働者を比較したところ、旅行総支出額、国内観光回数、国内観光日数ともに事業参加者の方が上回っており、本事業の観光促進の効果が認められた。
- 自由な休暇文化の醸成、ワークライフバランスの改善、休暇の質向上といった点についても、事業参加者の方が前向きな回答をしており、本事業が休暇文化の改善に寄与していることがわかった。また、国内旅行に対する関心や他地域への訪問意欲も高まっており、観光に対する認識面でもプラスの効果があることがわかった。本事業が国内旅行の目的地を再発見する機会となっている。
- 韓国では、大手企業と中小企業の間で労働者に対する福利厚生制度に大きな差があるのが現状。その点、中小企業を主たる対象として実施された本事業が、中小企業の休暇文化改善に大いに役立っていることは、非常に意義のあることだと捉えている。
- 今後の課題として事業対象者の拡大が挙げられる。観光活性化のためには、観光を享受できる権利の拡大が必要であり、政府の政策として推進する意義がある。また、本事業を持続可能にするための官民協力モデルの構築が必要であり、KCTIにて引き続き研究を行っている。
【発表4】日本におけるワーケーションの現状
観光地域研究部 地域戦略室長/上席主任研究員 守屋 邦彦(JTBF)
- 日本は韓国と同様、労働時間が長いという状況の中で、2010年頃から徐々に仕事と休暇が重なり合うようなライフスタイルへの注目が高まっていた。
- 2017年の日本航空株式会社(JAL)や和歌山県白浜町の取組を先駆けとしてワーケーションへの取組が徐々に行われていたが、コロナ禍となった2020年7月、政府としても新たな旅行や働き方のスタイルとしてワーケーションなどの普及に取り組んでいくとの発信がなされて以降、日本各地で積極的な取組が展開された。
- 日本においてワーケーションは、個人型(個人が休暇の合間に業務を行う)と団体型(遠隔地のサテライトオフィスで業務を行う、社員研修としてミーティングや地域との交流などを行う)が見られる。また、出張前後に休暇を付け足すブレジャーも新たな旅のスタイルの一つと捉えられている。
- 内閣府の調査では、日本におけるテレワーク実施率は30.8%(2021年4-5月時点)とコロナ以前の10.3%と比べると3倍程度に上昇した。
- テレワーク実施率が最も高いのは「情報通信業」の76.9%で、次に実施率の高い「金融・保険・不動産業」の46.0%を大きく上回る。またワーケーションの実施希望は20代、30代が40%以上と他の年代に比べ高い(2020年12月内閣府調査より)。
- 当財団が2021年3月に実施したアンケート結果では、コロナ前の2019年以降で休暇の旅行中に業務(会議出席や資料作成等本格的な業務実施のみ対象)を行ったことがあると回答した割合は7.5%であった。
- 観光庁は、2022年度も「新たな旅のスタイル」促進事業として、国民全体の認知と理解の促進とともに、企業と地域をマッチングしトライアルを行うモデル事業を進めることとしている。
- その他、内閣官房や総務省、厚生労働省、農林水産省、環境省においてもテレワークやワーケーション推進のための施策を推進することとしている。
【ディスカッション】
仲(JTBF):外出頻度の変化について、日本では5月の調査時点で頻度増加は1%未満だが、韓国では3%程度であった。これについて意見を伺いたい。
キム(KCTI):韓国では、(コロナ禍と関連して)日常生活に比べて国内旅行が危険だという回答は日本に比べて10%程度高い。一方で、外出頻度はコロナ拡大前に比べてあまり変わらないという回答は韓国のほうが高かった。興味深い結果である。
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守屋(JTBF):勤労者休暇支援事業について、参加申請できる企業の条件は何かあるのか。また、企業が政府からの支援金を使い切れなかった場合は返金をするのか。
アン(KCTI):企業の参加条件としては、韓国における中小企業基本法の基準を満たしている中小企業・小規模事業者であることで、そこに勤めている労働者・勤労者が対象となる。勤労者と企業、政府が2対1対1という割合で積み立てた金額が使い残された場合は、同じ比率で返還される。
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キム(KCTI):旅行先を決めるにあたって重視した点について、韓国では「同行者の意向」が高かったのに対し、日本は「旅行先での感染対策」を気にするという傾向が高かった。これについて意見を伺いたい。私見としては、韓国における社会的関係の重視を反映した結果とみている。
五木田(JTBF):我々も興味深い結果だと感じた部分。日本では、平時でも旅行先を決めるときの重視項目として同行者の意向は高くはない。韓国と日本との違いが、コロナ禍に限ったことではなくて表れたのだと思う。また、感染対策については、特に高齢層で重視するという意見が多かった。日本では、高齢層でコロナへの不安を大きく感じる方が多いことから、このような結果となっている。このように比較することで、日韓での様々な相違点が明らかになる。今後も適宜情報交換しながら研究を進めていきたい。
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アン(KCTI):日本では密回避の傾向が非常に高いことが大変興味深かった。日本ではこういった傾向について、どのような対策を打ち出しているのか。また、ワーケーションを進める上で企業の参加を促すことができるような方策はあるか。加えて、ワーケーションについて、観光庁と関連省庁とで政策に違いがあれば知りたい。そして、観光庁と関係機関、宿泊施設等とのコラボレーションはどのように行われているのか。
五木田(JTBF):観光庁では、旅行会社や交通事業者と連携して、時と場所が分散される「分散型旅行」を促進している。例えば、お寺は朝がいい、パンフレットは端に置いてあるものを選ぼうなど、混雑を避けたずらした旅の楽しみ方を旅行者に具体的に伝える取り組みを進めている企業もある。
守屋(JTBF):観光庁では、ワーケーションを通じて企業と地域の継続的な関係性を構築することで取組の定着へとつなげるため、企業と地域をマッチングしトライアルを行い、効果検証するというモデル事業を行っている。まずは試してみることが重要だと考えている。また、関連省庁の政策は、ワーケーションを実施するにあたっての制度面や地域の受入環境整備などを支えるために行っていると捉えている。具体的には、厚生労働省が労務管理という制度の中で、自宅やサテライトオフィス以外の場所での勤務も労働としてきちんと見なす、要は、何か事故があったりしたときの労災などに含めることで企業が参加しやすくするといったことを制度面でフォローをしているというのは、一つ大きな最近の動きだったと思っている。そして、関係者間でのコラボレーションについては、観光庁が検討委員会を立ち上げており、有識者あるいは関係省庁が参加する会合を年に3~4回開催し、情報共有あるいは政策の議論などを行っている。今回紹介をいただいたような勤労者休暇支援事業のような制度は日本にはまだないので、韓国での研究や知見等を共有させていただきながら、日韓両国のワーケーション、あるいは休暇の促進といったものの研究を進めていければと思う。