[巻頭言]風土色を磨く「本物の味」 フードジャーナリスト・エッセイスト 向笠 千恵子
一度は珍しさで買っくれても、二度目はほんとうにおいしくないとお金を使ってくれない。これは食ビジネスの鉄則。当然、食による「地産地消」つまり地元食材を活用した食べもので稼ぐ場合も、“食業人”としての研鑽とセンスが欠かせない。地産地消とはいっても、地元消費だけでは成り立たない。あくまで観光客や街の人に買ってもらうことが前提である。地方に行くと道の駅や農産物直売所が並び、首都圏では県のアンテナショップで物産展が開かれているのは、それが理由なのだ。
ところで、たとえば銀座の歌舞伎座前。岩手県のアンテナショップ・銀河プラザでは、朝一番で岩手から届くお弁当を売っていて、歌舞伎を見るときはここの弁当でというファンも少なくない。これも地産地消のうちである。
地元食材活用の製品は「手づくりの味」を売りものにしている。それなのに、トマトケチャップ、ジャム、ドレッシング、漬けもの等々、どれもちょっと見には素朴そうだが、裏返して表示をみるとずいぶん添加物が多い。せっかく新鮮な野菜や果物を使って素朴な味をうたっているのに、小手先のごまかしばかりが目立つ。惜しいことである……。
地産地消の素材自体は京野菜、加賀野菜などが復活するなど、いい動きがある。山形の庄内地方では、出羽宝菜と名づけて在来種の継承に懸命である。スローフードという言葉も後押ししてくれている。
だが、ごく一部を除いて、料理は「地元素材」の上にあぐらをかいているようだ。農家民宿や農家レストランは新鮮感一本やりで、盛りつけも味も素朴すぎる。かといってプロの料理人が関わっている店や旅館は、料理テクニックに走りすぎている。どちらも地産地消の盛り上がりをしぼませるのではないかと気にかかる。
ともあれ、これからは安全性が最重要になる。とはいえ、鮮度とか無農薬栽培とか、天然ものという点を強調するだけでは、消費者の信頼は得られない。
河原に生える葦を堆肥にする葦農法で、佐賀の武富勝彦さんはイタリア本国のスローフード大賞を受賞しているが、こういった独自農法などの強烈な個性こそが地元素材のバックアップにつながるだろう。
食材がせっかく地元なら、調味料も地元メーカーの伝統製法のほんとうの本物にこだわってほしい。もしかすると、地産地消のキーワードは「身の回りの指差しチェック」ではないかしら。
(むかさ ちえこ)
掲載内容
巻頭言
風土色を磨く「本物の味」 フードジャーナリスト・エッセイスト | 向笠 千恵子 |
特集
特集1 「市」は交易と交流の原点 | 結城 登美雄 |
特集2 おこしやす 味と心で魅せまひょ京野菜 | 久保 功 |
特集3 食のまちづくりの「年中まちごとグリーンツーリズム」 ・・・地産地消のネットワーク構築に向けて |
高島 賢 |
特集4 環境対応型、地域循環型 「八戸屋台村みろく横丁」の挑戦 | 中居雅博 |
連載
連載I あの町この町 第13回 不知火の殿様 ・・・熊本県・八代市日奈久 |
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連載II 英国物語15 英国の家庭でのクリスマス | 長谷川 洋子 |
視点 風土が生み出す豊かな営みがつづく村 ・・・福島県檜枝岐村の暮らし |
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