機関誌「観光文化」

瀬戸内海の風土と文化復興 (観光文化 189号)

瀬戸内海の風土と文化復興 (観光文化 189号) 全文無料公開中

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 特集 : 瀬戸内海の風土と文化復興

 瀬戸内海とは、本州、四国、九州に挟まれた内海。古来から、畿内と九州を結ぶ航路として栄えた。複数の島しょ群で構成された瀬戸内海は、シーボルトをはじめ数多くの欧米人から絶賛された風光明媚な景勝地でもある。今号では、瀬戸内海の風土、文化的な魅力や、再生に向けたさまざまな取り組みを紹介する。

発行年月
2008年05月発行
判型・ページ数
B5判・36ページ
価格
定価1,540円(本体1,400円 + 税)

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[巻頭言] 多島海の理想―瀬戸内海と地球― 静岡文化芸術大学学長  川勝 平太

 瀬戸内海をこよなく愛する人は多い。皇太子徳仁親王殿下も、そのお一人だ。殿下は水運史がご専門で、国際経済史学会や世界水フォーラムなどで成果を発表され、研究者としても著名である。たまたま私は経済史を専門とし、海洋史観を提唱した研究上の縁があって、殿下の研究から多くを学んできた。

 殿下は、中世後期の瀬戸内海の津々浦々を結ぶ舟運の研究でデビューされ、オックスフォード大学では、テムズ川上流のオックスフォードを中心にした一八世紀の水運を研究された。その成果は、御著書The Thames as Highway ― a Study of Navigation and Traffic on the Upper Thames in the Eighteenth Century(Oxford, 1989)にまとめられている。「なぜ、テムズなのか」が話題になったとき、御研究のふるさと「美しい多島海(瀬戸内海)」をイメージしながら、「テムズの水は日本に通じています」と応じられた。

 「多島海」といえば、我々はおのずと瀬戸内海を思い浮かべる。西洋人ならばエーゲ海だ。しかし、グローバル化で世界の津々浦々が結ばれるようになった現代、「多島海」は、地球を形容するのにふさわしい。人類史上初めて大気圏外に出たガガーリンは、宇宙の漆黒の闇に浮かぶ美しい星を「地球は青かった」という印象にまとめた。地球が青いのは表面積の三分の二が海だからだ。残りの三分の一は大小さまざまな陸地から成る。どの陸地も海に囲まれており、宇宙から見れば、地球は、青い大海に大小さまざまな島々が浮かぶ多島海である。

 エーゲ海も、瀬戸内海も、その意味で、地球=多島海の縮図である。では、どちらが、未来の理想をはらんでいるだろうか。かつて緑の森林に覆われていたエーゲ海の島々は、現在ははげ山だ。古代文明の遺跡とは、文明の墓場の別名である。エーゲ海は過去の文明の海なのだ。一方、瀬戸内海は緑の島々から成る「ガーデンアイランズ」であり、未来の地球文明の理想をはらむ豊饒の海である。

 ポスト東京時代に向けて、地域分権が課題である。多島海=瀬戸内海は、大きな島(ユーラシア)の対岸を流れるテムズのみならず、多島海=地球に通じている。瀬戸内海を取り囲む九州・中国・四国・近畿は「海の洲」構想を掲げてはいかがか。「海の洲」づくりは、「水(海)の惑星」地球をガーデンアイランズ(美しい多島海)にするモデルになり得る。

(かわかつ へいた)

掲載内容

巻頭言

多島海の理想 ―瀬戸内海と地球 P1 川勝平太

特集 瀬戸内海の風土と文化復興

特集1 瀬戸内海再発見
  ―よみがえる風景 P2
西田正憲
特集2 風景芸術の現場としての琴平山再生計画 P6 田窪恭治
特集3 直島に見るアートが呼び覚ます地域の力と風景 P11 秋元雄史
特集4 夕日でオンリーワンのまちづくり P16 若松進一
特集5 瀬戸内海を人々の交流の海に P20 妹尾達樹

◆連載

連載I あの町この町 第27回 鬼棲む里
  ―岡山県・井原市美星町 P26
池内 紀
連載II 明治のジャパノロジスト F.ブリンクリーの「美しい国ニッポン」(6)
  ジャポニスムの震源で日本画手習い P32
沢木泰昭
連載III ホスピタリティの手触り 48
  チベット問題と観光 P34
山口由美
新着図書紹介 P36