機関誌「観光文化」

東日本大震災からの復興に向けたツーリズムの役割 (観光文化 208号)

東日本大震災からの復興に向けたツーリズムの役割 (観光文化 208号) 全文無料公開中

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特集  東日本大震災からの復興に向けたツーリズムの役割
    ―復興プランへの提言

 東日本大震災による被災地域への観光客激減が地域経済に大きな打撃を与えました。同時に、地域にとって観光がいかに重要な産業であるかを認識する機会にもなりました。今号は、「東日本大震災からの復興に向けたツーリズムの役割」をテーマに、景観・まちづくりの専門家や各地で発生した震災の復興に尽力された方々から、今後の復興プランへの提言を紹介します。

発行年月
2011年07月発行
判型・ページ数
B5判・28ページ
価格
定価1,540円(本体1,400円 + 税)

※本書は当サイトでの販売は行っておりません。

〔巻頭言〕東北の復興は農漁業と観光から
野村総合研究所顧問/元総務大臣/前岩手県知事  増田 寛也

 東日本大震災から四カ月以上が経過したが、いまだに多くの被災者が厳しい避難所生活を強いられている。この人々の生命を守ることは国の最優先の課題である。復興の主役は市町村と住民である。巨大津波により破壊された東北沿岸部を新しい国土としてよみがえらせるには、壮大なエネルギーを要するが、被災直後の東北人の規律ある姿に世界の称賛が集まった。これまで幾多の苦難を乗り越えてきた歴史を有する東北である。今回の復興も国を挙げての大事業となろうが、最後は、東北人の手によって成し遂げられるであろう。
 被災地の復興については、東北全体を見渡したプランが必要である。東北六県で、東北の自立を前提に、先導的かつ意欲的なものにしなければならない。その中核となる産業再生については、すでに各方面からさまざまなアイデアが出されている。豊富な森林、海洋資源を活用した自然再生エネルギーの企業化、医療や予防医学などを核とした新たなる産業拠点の形成など、広範囲に及ぶ。いずれも魅力的なアイデアで、その実現のための「経済再生特区」構想も提言されている。同時に、地域の優位性を生かし、将来への持続性につながる産業を動かすことが急がれる。

 東北の強みは何といっても農漁業と観光である。この二つを基本にして、すぐに経済が回り出すようにしたい。沿岸の漁業は、今や時間との勝負である。海のカレンダーは、この時期最盛期のカツオ、八月下旬のサンマ、秋サケ、養殖ではワカメ、ウニ、ホタテ、カキと次々に漁期の到来を知らせていく。浜の動きは加工業にも及び地域全体に伝わる。
 沿岸部に限らず内陸部も含めた東北全体では観光を動かしたい。裾野が広く、農漁業ともつながる最重要の産業である。八月の東北各地の夏祭り、秋の紅葉、冬場の雪に温泉と、こちらもシーズンは次々にやってくる。関係者は待ったなしの対応が必要となる。
 現在は、日本人の自粛ムード、海外での風評被害により旅行客が著しく減少している。春先からの相次ぐキャンセルにより、悲痛な叫び声が聞こえてくる。まずは日本人が動くことだ。多くの日本人に東北を訪れてほしい。被害を受けず健常な内陸地域の経済活動と被災地の復興を、一つの連続した持続性のある活動とする工夫が求められる。幸いにして、六月下旬に平泉(岩手県)がユネスコの世界文化遺産に登録された。東北の各地には、日本の原風景が展開している。その土地に住む人々との交流が、訪れる旅人の心を癒やしてきた。この原点があれば、必ず海外からの旅行客も戻ってくる。
 農漁業と観光が動けば東北経済は立ち直り、日本経済も回り始める。今こそ、東北に足を運ぼう。

(ますだ ひろや)

掲載内容

巻頭言

東北の復興は農漁業と観光から P1 増田 寛也

特集 東日本大震災からの復興に向けたツーリズムの役割―復興プランへの提言

特集1震災復興とツーリズムの役割 P2 西村 幸夫
特集2伝えたい故郷の景観―阪神・淡路大震災からの復興の経験から P6 鳴海 邦碩
特集3北海道南西沖地震の奥尻島復興の経験から P11 新村 卓実
特集4中越大震災および中越沖地震からの観光復興
 ―震災からの観光復興に向けてどのような対策を取ってきたか P16
高橋 正

連載

連載Ⅰあの町この町 第44回 ザ・モースト・ビューティフル・ヴィレッジ ―長野県大鹿村 P20 池内 紀
連載Ⅱホスピタリティーの手触り 65 日本人の誇りとしてのホテル P26 山口 由美
新着図書紹介P28