概要
訪日市場における歴史文化観光の現状把握と今後の可能性を探るため、訪日外客数の約6割を占める中核的な市場であるアジア4ヶ国でのインターネット調査を実施した。
先ず今回は、調査結果の概要について紹介することとし、次回は歴史文化観光への関心度の高い層についてその特徴を記述する予定である(全二回)。(塩谷英生)
1)調査方法
調査は、JTBFの自主研究「2014年度インバウンド政策の研究」の中で2014年7月に実施した「5 か国・地域旅行者調査」に相乗りする形で実施したものである。
調査対象国は、台湾、韓国、中国、タイ、インドネシアの5ヶ国である。但し、インドネシアについては、継続調査を予定していないために今回の集計から除外した。
調査対象者は、訪日旅行経験者でFIT*1(個別手配またはフリープラン型ツアー)での再訪を希望している人であり、条件を満たす標本を、インターネットモニターの中からスクリーニング調査によって抽出した。4ヶ国の有効標本数は1,799票で、国籍別では、台湾470票、韓国475票、中国451票、タイ403票である。なお、2013年の訪日外客数1,036万人(JNTO資料による)のうち、この4ヶ国の市場シェアは62%(644万人)である。
*1 FIT: Foreign Independent Travel の略。Flexible Independent Travel など他の単語を充てるケースもある。本調査では、個人手配旅行とフリープラン型ツアーを含む。自由度の高い旅行であり、パッケージツアーよりも比較的満足度が高いことから、次回以降もFITを希望する傾向がみられ、アジアでも増加傾向にある。
●(公財)日本交通公社「5 か国・地域旅行者調査」調査概要
・調査時期 | 2014年7月 |
・調査方法 | インターネットによる調査 |
・対象地域 | 台湾、韓国、中国、タイ、インドネシア |
・調査対象者 | 10~50代の男女 |
・予備調査有効回答数 | 10,791名 (台湾1,644名、韓国1,749名、中国2,246名、タイ2,828名、インドネシア2,324名) |
・本調査抽出条件 | 1.訪日旅行経験がある 2.日本への観光目的での再訪を希望しており、再訪する際は個別手 配またはフリープラン型ツアーの利用を考えている |
・本調査有効回答数 | インドネシアを除く4ヶ国で1,799票 (台湾470名、韓国475名、中国451名、タイ403名) |
2) 調査結果
① 日本の歴史観光の競争力
20の観光活動の選択肢を準備し、日本の方が競合国に比べて優れていると思うものを聞いた(複数回答)。「歴史ある観光地めぐり」は31.6%で、「温泉めぐり」「産地で楽しむグルメ旅行」「花見」に次いで4番目に高い回答を集めている。「歴史ある観光地めぐり」が優れているとの回答を国別にみると、タイ37.2%、中国37.0%、台湾33.8%。韓国19.4%の順で続いている。
別の設問で地方で体験したい活動を聞いているが(図1の折れ線)、「歴史ある観光地めぐり」についても、45.8%の人が地方で体験したい活動として挙げられている(第5位)。なお、競争力の高い活動の多くが、地方で体験できる活動として認識されており、こうした活動を組み合わせて地域への誘致を図っていくことが効果的と考えられる。
図1. 日本が他の国より優れていると思う観光活動と地方で体験したい活動(複数回答)
② 歴史文化観光への関心度
日本の歴史文化財(神社、寺、城、古い町並みなど)への関心度を聞いたところ、「非常に関心がある」40.1%、「ある程度関心がある」51.5%、「あまり関心がない」7.4%、「関心がない」0.9%という回答結果となった。
国籍別では、「非常に関心がある」は、中国で55.0%と最も高く、韓国が15.8%と低い。
図2. 日本の歴史文化財への関心度(全体、国別)
■文化財タイプ別の関心度
また、文化財のタイプ別に関心度を聞いたところ、「非常に関心がある」が高いのは、「古い街道を歩く」「伝統的な建造物が残る町並みを訪れる」「伝統的なお祭りを訪ねる」「古い城下町を訪れる」「古民家で泊まったり食事をする」等で、4割を超える回答を集めた。
上位のタイプについて国別にみると、韓国で全般に関心度が低いことがわかる。他の3ヶ国に際立った差異は無いが、中国については、比較的「伝統的な建造物が残る町並みを訪れる」「古い城下町を訪れる」が高く、タイは「伝統的なお祭りを訪ねる」「古民家で泊まったり食事をする」が高くなっている。
図3. 文化財のタイプ別にみた関心度(「非常に関心がある」人の比率%)
図4. 国別・文化財タイプ別にみた関心度(「非常に関心がある」人の比率%)
③ 訪問したい歴史観光地
訪問したいと思う日本の歴史観光地や文化財の名称を想起して回答してもらった。有効回答数は1,799票中、1,030票である(有効回答の比率57.3%)。
なお、歴史文化財に「非常に関心がある」人の有効回答率は69.5%、「ある程度関心がある」人では51.7%、「あまり関心が無い」人では34.3%、「関心がない」人では17.6%に留まり、関心度と回答率には相関がみられる。
■上位に挙げられた地域
都道府県別・地域別の集計結果が表1である。複数県にまたがる観光地(「富士山」等)や地域ブロック(「九州」等)については、独立した区分として集計している。また、複数の地名を回答した人については、最初に挙げられた有効回答のみをカウントしている。
最も回答が多い地域は、京都で22.5%を占める。具体的な回答内容としては「京都」の他、「金閣寺」「清水寺」「天橋立」「京都府北部」との回答が目立った。国別では、台湾と中国の回答が多い。特に、「天橋立」「京都府北部」との回答があったのは中国のみであった。
次いで、「富士山」との回答が17.5%あり、特に中国で回答が多い。世界文化遺産への登録により、旅行パンフレット等に「世界文化遺産」とのコピーが記載されることが多くなったことが一因と考えられる。
3位は「東京」で14.6%の票を集めており、「皇居」「東京」「浅草」「明治神宮」「靖国神社」の順で回答が多い。タイでは、「皇居」との回答が54票を集めているのが特徴的である。
4位は「大阪」10.0%で、特に韓国で「大阪城」との回答が多い。
5位は「奈良」で、以下「北海道」「岐阜」「兵庫」「広島」「愛知」の順で続いている。なお、14位の富山県の「黒部立山」は主に自然資源が主体だが、白川郷を含む旅行商品が多く、コース全体について一体的に回答していると見られる。
■アジア市場の傾向
京都は別格としても、富士山、東京、大阪などのゴールデンルートや北海道といった受入実績のある観光地に回答が集まる傾向がある。例えば金沢、高山、倉敷、伊勢神宮といった戦災を免れた我が国を代表するような歴史観光地を挙げる回答は少ない。 歴史文化に関する情報も偏在している印象がある。例えば、日本では馴染みの少ない「上町台地(うえまちだいち)」との回答がタイで5票寄せられているが、大阪市を紹介するタイ語のホームページで用いられた地名がそのまま回答されていると見られる。また、「安国寺」との回答がタイと中国で4票あるが、ほとんどは海外でも人気のあるアニメーションの「一休さん」ゆかりの寺として回答されているが、実際には京都市内には該当する寺は無い。こうした点から、日本の歴史文化資源に関する情報量は少なく、平均化もされていない段階にあることが窺われる。 また、歴史文化観光に持つイメージの違いも感じられる。「富士山」「天橋立」「京都北部」との回答は特に中国人に多く、名勝や景勝地などの要素が、文化財の範疇にある程度含まれていると思われる。 また、「皇居」「明治神宮」「函館」のような幕末・明治以降の歴史文化資源への回答も多い。さらに、「大阪城」や「名古屋城」など、コンクリート造りで再建された建造物であっても多くの回答を集めていることから、文化財の真正性にこだわらない層も少なくないとみられる。
表1. 訪問したい歴史観光地や文化財
(都道府県別集計上位15地域。有効回答数1,030票)
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発注者 | 公益財団法人日本交通公社 |
実施年度 | 2014年度 |