先読み!マーケット 第三話

概要

第三話 おススメの旅行先 ~「北海道」ブランド考

8月の末、東京は晴れ間と雷雨が1日に何度も往復もするような不思議な気象状況が続いています。すんなりした季節の切り替えとはいかないようです。

日本経済の雲行きの方は、ある程度予想されていたことでしたが、4-6月期のGDPがマイナス成長となって、景気が後退局面にあることが鮮明になりました。しかし、このお盆休みには、早朝割引の時間帯に高速道で渋滞が発生するなど、旅行意欲自体には強さも感じられます。北京オリンピックも成功裏に終わり、今後のアジア経済が堅調に推移するならば、日本経済も多少は快方に向かうのではないかと期待しています。

さて今回は、オピニオンリーダー層に聞いた「おススメの旅行先」の調査結果をご紹介します。元データは、「オピニオンリーダーに聞く旅行者モニター調査」です。これは、旅行好きで市場への先行性と周囲への影響力を持つ人を抽出して半歩先の旅行市場を占おうという調査です(調査の概要)。

◇おススメの旅行先 ~ 二大ディスティネーションに人気が集中◇

「最近行かれた国内旅行の中で、他の人にもぜひおススメしたい旅行先」をオピニオンリーダー層に聞きました(08年6月実施)。

その結果は、1位が「沖縄県」15.4%、2位が「北海道」14.8%と前回調査(07年11月実施)と同順ですが、その差は縮小しています(都道府県単位集計)。前回が北海道のオフシーズンに当たっていることも一因で、夏を控えた今回の調査では「知床」「利尻・礼文」「奥尻」「天売」など”最果ての地”を回答する人が目立ちました。「洞爺湖」との回答は幾分増えましたが、サミット効果という程ではありませんでした。

2大ディスティネーションの後続グループは3~5%の範囲に集まっていて、?「京都府」5.2%、?「長野県」4.3%、?「鹿児島県」4.2%、?「大分県」4.1%、?「岐阜県」3.8%、?「青森県」3.3%の順に並んでいます。「京都府」「大分県」が前回に比べて増加しています。

図1

「おススメ」の理由についても聞いています。結果は次の図のようです。前回に比べて全般に若干回答率が低下していますが、上位は、?「自然の風景が素晴らしい」71%、?「時間がゆっくり流れている」53%、?「ここにしかないものがある」46%で順位に変動はありません。「落ち着きを感じる」「季節感を感じることができる」が下げている理由は、調査時期による面が大きいでしょう。県別にみると、「沖縄県」では「時間がゆっくり流れている」が65%と高いなど、各県ごとの特徴がみられます(下表を参照)。

図3

 

図4

 

◇「北海道」ブランドが拡散した理由◇

ところで、「沖縄県」をオススメした人の62%は、”沖縄”と回答を入力しています(”沖縄県””おきなわ”など含む)。これに対して「北海道」では、”北海道”という表現は26%に止まっていて、道内各地の旅行先に回答が分散しています。この理由については、何通りもの解釈が可能だと思いますが、現時点で筆者は次のように要因を推察しています。

【要因その?.地理的条件の違い】
北海道は沖縄県に比べて面積が広大で、都市や空港も函館、旭川、釧路などに分散しており、観光エリアが拡散しやすい*1。沖縄の場合、八重山、宮古といった地域を別とすれば、那覇を中心とした沖縄本島を一つのブランドとしてイメージしやすい。

【要因その?.個別エリアのブランド化】 …参考「図.北海道と沖縄への県外客数」
北海道への来訪客数は、早い時代から沖縄県よりも多く、リピーター比率の増加と共に、「北海道」ブランドから個別エリア・個別都市へとブランドイメージの拡散が進んだ。

【要因その?.中核にあった人や風土のイメージの希薄化】
かつての「北海道」の持っていた「厳しい自然との共生」「フロンティア精神」といった北海道ブランドの中核にあった人や風土のイメージが弱まった。一方で、「沖縄」では「ちゅらさん」効果などで「なんくるないさ」に象徴される、明るくて優しげな地域イメージが醸成された。

*1 参考までに、「北海道」を他の”地域ブロック”と比べると、九州7県の「オススメ」率の合計は13.5%と北海道に近い数字ですが、「九州」という回答はその3%(0.4%)に過ぎません。また、東北6県の合計は10.6%で、「東北」との回答は5%です。こうした都道府県連合による地域ブロックと比べると、「北海道」は依然統一的なブランド名として機能しているとも言えます。
図.北海道と沖縄への県外客数 ~ ほぼ一貫して伸び続けている沖縄

図.北海道と沖縄への県外客数 ~ ほぼ一貫して伸び続けている沖縄

要因その?について補足すると、北海道の人や風土のイメージ希薄化の要因については、
 ・「北の国から」の放映終了などメディアにおける北海道情報の発信力の低下
 ・酪農や公共事業などの相次いだ不祥事と中央依存体質の露呈(自立イメージの喪失)
 ・札幌への人口流入と地方部の弱体化
等を指摘できると思います。今の北海道は以前の荒削りな人や風土のイメージが蔭を潜めて、”ちょっと遠くにあるドライブで巡る自然公園エリア”であり、”美味しいものも動物園もあるよね”といった身近な存在に移行してきたように思われます。それは顧客の間口が広がるという点では一概に悪いこととは言えないのですが、少なくとも「北海道」という地名に以前ほどの畏敬の念を抱くことはなくなったと言えるでしょう。宿泊費を始めとする北海道の旅行単価の低下傾向がその一つの証左です。安売り競争もこれ以上下げられない水準まで来ているのですから、新しいブランド価値をどう形成していくのかが重要な課題になってくるでしょう。

要因その?で述べた個別エリアのブランド化は、「北海道」のイメージをベースにしながら、各ブロックの個性も打ち出していくという点で、「沖縄県」などにとっても望ましい方向性として捉えることもできます。しかし、要因その?に挙げたような「北海道」の風土イメージの希薄化が同時進行した場合には、個々の観光地がばらばらに他の地域と競合する状態になります。逆に、「北海道」の持つパッケージとしてのブランド力が十分に強ければ、仮に「函館」が単体で「高山」に勝てなくても、「北海道」が「高山」に勝てれば、「函館」が逐次的に選択されるといった可能性が高くなるでしょう。

次の表は、都道府県単位での集計前の、観光地単位の「おススメの旅行先」のランキングです。こちらの方が、行政界ではない旅行者目線での地域の人気度を比較する上では良い指標と言えます(であれば、最初からこちらを出すべきだったかもしれませんね)。

この集計形式ですと”圧倒的”に「沖縄」が強いという結果になります。以下、?「京都」、?「北海道」、?「湯布院」「屋久島」、?「高山」と続きます。「沖縄ブーム」については、第二話でお話しした通り、引き続きオピニオンリーダー層の高い関心を集めています。但し、今後の焦点として、航空運賃上昇や原油高に起因する旅行費用の上昇が、若者の沖縄離れにつながらないかという点に注意していく必要があるでしょう。図5

◇次回は安達研究員が執筆予定です◇

次回は安達研究員が執筆してくれます。テーマは宿泊旅行統計の分析に関するものになりそうです。

最後に、私どもでは皆様が日頃感じている旅行市場への疑問や関心のあるテーマなどについてお便りを募集しております。今後の調査設問などに取り上げたいと思いますので宜しくお願い致します。ではまた。

< 塩谷 >

この研究・事業の分類

関連する研究・事業
関連するレポート
発注者 公益財団法人日本交通公社
プロジェクトメンバー 塩谷英生
実施年度 2008年度