先読み!マーケット 第十四話

概要

第十四話 もう一度食べたい旅の味覚

久し振りの更新になります。これからも随時、皆さんの活動のヒントになるような情報を発信していければと思います。

さて、年初に「旅行に出掛けたくなるのはどんな時か?」という質問結果を紹介しましたが、中でも食の魅力が上位に挙げられていました。食の魅力は、「JNTO 訪日外客訪問地調査2009」においても「外国人が訪日前に期待すること」で1 位となっています。

それでは、旅行者が旅行先の魅力として捉えている味覚とはどのようなものなのでしょうか。その参考となる資料として、今回は国内宿泊旅行のオピニオンリーダー層に聞いた「もう一度食べたい旅の味覚」についての回答結果をご紹介したいと思います。

資料は09年11月下旬にJTBFが実施した「オピニオンリーダーに聞く旅行者モニター調査」です。同調査は、市場への先行性と周囲への影響力を持つ市場の中核層約1千人を3万人の中から抽出し、旅行市場の動向を分析しようとする調査です (調査の概要)。

注)本稿で用いる「国内旅行」は観光やレジャー、保養などを主な目的とする旅行を指します。出張・業務、帰省など家事を主な目的とする旅行は除きます。

■ 都道府県ランキング ~ トップは北海道。沖縄、京都が続く

オピニオンリーダー層(以下OL層とも言う)への質問は、もう一度食べに行きたいものを”地名+食べ物名”の組み合わせで回答してもらうというものです(回答例. 札幌のスープカレー、佐賀関の関さば)。一度は経験したことのある味覚の中からの選択ですから、観光客数が多い旅行先が高めに出る点に留意してください。

回答結果を都道府県別に再集計したところ、オピニオンリーダー層では①北海道が25.1%と4分の1を集めてトップとなっています。これに、②沖縄県7.6%、③京都府5.6%、④福岡県3.6%、⑤山口県3.4%、⑥兵庫県3.0%が続いています。

なお、非オピニオンリーダー層においても、1位、2位は同順となり、回答の傾向には大きな差異は無いようです。ここで言う非オピニオンリーダー層は発信力や能動性においてオピニオンリーダー層に劣るものの、年間4回以上の宿泊旅行をしている旅行好きな人々です。旅の必須行動であり、自分でメニューを選ぶという能動的な選択が行われる食における経験値では、オピニオンリーダー層と大きな差異は無いとも考えられます。

図1 あなたがもう一度食べに行きたいと思う旅行先 [都道府県集計]

「オピニオンリーダーに聞く旅行者モニター調査」(09年11月下旬実施・JTBF)

「オピニオンリーダーに聞く旅行者モニター調査」(09年11月下旬実施・JTBF)

都道府県別の集計結果について、少し詳しくみていきましょう(表-1)。「回答があった主な食べ物」については、非オピニオンリーダー層を含めて3票以上を集めた食べ物を記載しています。

①北海道は、「カニ」「ウニ」などの海産物や、寿司、海鮮丼などの海産物を活かした料理が多く挙げられています。一方で、「ラーメン」「ジンギスカン」「スープカレー」「豚丼」など海鮮系以外の回答も挙げられており、幅広い味覚が高く評価されていることがわかります。

②沖縄県では、「沖縄そば(ソーキそば20票、沖縄そば19票、宮古そば等離島のそば7票)」が46票と半数以上を占めます。「沖縄料理(琉球料理、沖縄の郷土料理等)」との回答も19票を集めました。この他、「石垣牛」「海ぶどう」「アグー」「チャンプルー」など沖縄ならではの食材や料理も5~6票の回答があります。「沖縄料理」のような都道府県名や旧国名を冠とする包括的な料理名は、他県ではほとんど回答されていないことから、異文化としての沖縄料理の独自性が評価されているようです。

③京都府では、「間人(たいざ)のカニ(「丹後のカニ」「天橋立のカニ」各1票を含む)」が8票を集めています。「湯葉」「豆腐(湯豆腐含む)」など京豆腐に関わる料理も合わせて11票を集めています。この他、「京懐石」「おばんざい」との回答も散見されます。

④福岡県では、博多を中心に「博多ラーメン」「もつ鍋」「フグ(博多、門司)」「屋台料理(屋台飯)」などが票を集めました。他に、「柳川のうなぎ(セイロ、鰻重等)」も4票みられました。

⑤山口県は圧倒的に「ふぐ(ふく)」という回答が多く、46票を集めています(ふぐ料理4票を含む)。地名としては、「下関」37票、「山口(山口県の意と考えられる)」8票、「徳山」1票となっています。

表-1.もう一度食べに行きたいと思う食べ物(都道府県集計)

「オピニオンリーダーに聞く旅行者モニター調査」(09年11月下旬実施・JTBF)

「オピニオンリーダーに聞く旅行者モニター調査」(09年11月下旬実施・JTBF)

⑥兵庫県は、「カニ」との回答が多いのですが、票数は隣町同士でもある「城崎」(12票) と「香住」(10票)に分かれています。香住漁港産のカニは城崎温泉にも提供されていますが、城崎温泉の方が消費の場として旅行者の間での知名度が幾分高いようです。この他、「神戸牛(ステーキ、ビフテキ、すき焼き等含む)」も12票を集めています。

以下、⑦石川県は金沢や能登の「カニ」が多く、⑧三重県は「松阪牛」を中心に、他に「伊勢エビ」「アワビ」も若干の回答がありました。⑨佐賀県では「呼子のイカ」、⑩宮城県では「仙台の牛タン」、⑩香川県では「讃岐うどん」が多く挙げられています。

■ 誘客の鍵は鮮度と食文化の演出

回答全般の傾向として、カニや牛肉などのブランド食材を回答する向きが33.9%を占める他(図-2)、料理でも寿司、鍋、ステーキなど食材の旨味や鮮度を引き出すタイプの料理名が多く回答されています。旅行先名の分類でも、市町村名45.4%、観光地名(行政範囲以外の地域名)16.0%、お店の名前(市場を含む)8.8%が約7割を占めていて、味覚の地理的範囲を限定されたエリアとして捉える向きが多いようです。

もともと日本料理においては食材の鮮度が重視される傾向があります。これは四季がはっきりしていることや、水が軟水であり食材の旨味を引き出しやすいことなど我が国独特の理由があると思われますが、特に旅行先での食を考える場合、旅行者がより産地に接近することから、地場産品の鮮度は大きなアドバンテージを得ると言えるでしょう。この点からも、ある程度限定された地域の名称を冠としたブランドの方がより鮮度を訴求する上では有利と考えられます。

一方で、食材だけに頼らない味覚の代表としては、麺類や粉物(お好み焼き等)があり、小麦や水などの原材料や、具材の地域性だけではなく、独特の調理法や調度品、食べさせ方(作法)等が強調されます。また、人気のある地域では、一定の店舗の集積がみられ、個々のお店が其々の流儀を主張しており、そうした活況こそが旅行者からみた地域の食文化の独立性、本場感を演出しているように思います。また、大都市圏では、横浜の中華料理や博多長浜の屋台など、街区としての風景や歴史の魅力が再訪意向を高めている例も見受けられます。

自分達の地域に良い食材があるならば、その鮮度を活かす流通の工夫やPRが先ず大切ですが、それに加えて、エリアとしての集積度や食文化の独自性を強調する工夫や演出を重ねていくことがより大きな誘客効果を得るために重要となるでしょう。

(塩谷 英生)

図-2.回答された味覚と旅行先名の分類(オピニオンリーダー層)
[(1)味覚の分類]

[(3)旅行先名の分類*1]
[(2)味覚の分類*2(主に食材を軸とした細分化)]
「オピニオンリーダーに聞く旅行者モニター調査」(09年11月下旬実施・JTBF)
 *1「都道府県名」に一部旧国名を含む。
   (旧国の地理的範囲と現在の都道府県範囲が概ね一致する場合)
 *2主要食材がわかる料理名については食材名で分類した。
   「カニ料理」は「カニ」、「○○牛のステーキ」は「牛肉」など。

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