概要
第十六話 2011年の国際観光と訪日中国人市場の動向(その1)
日本国内の旅行消費額のうち訪日市場のウェイトは約6%に過ぎません(観光庁「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」)。この比率は海外の観光先進国に比べると大変低い水準です。長引く国内旅行市場の停滞の中で、訪日市場の成長に期待が懸かっています。
今年の訪日旅行市場はどう動くのでしょうか。アジアの国際観光の動き、特に訪日市場の鍵を握ると目される中国市場について各種の観光統計を基に2回に分けて展望します。
◇ 好調を維持するアジアの国際観光 ◇
世界経済をみると、08年の米国発金融危機に引き続いて、ギリシャに象徴される欧州財政危機が燻るなど必ずしも外部環境は良くないようにみえます。しかし、UNWTO(国連世界観光機関)が4ヶ月置きに国際観光客数(Tourist:ここではビジネス等を含む広義の観光客)の動向をとりまとめている ” Tourism Brometer ” をみると、早くも10年には過去最高の9.35億人(暫定値)へとリカバリをみせています(図1)。
◇ UNWTOは国際観光客数4%増を予測 ◇
もちろんこの背景にはアジア経済の拡大があります。2010年の前年比伸び率が世界全体で7%なのに対し、欧州は3%増と停滞し、アジア太平洋州は13%増と力強い上昇を示しました。これは2010年9月迄の旅行収支(支払額)の伸びをみても同様で、中国17.0%増、韓国18.3%増、香港12.5%増、台湾20.3%増など、主要国は軒並み大幅増となっています(日本は7.2%増)。つまりアジア圏域では発・着ともに好調であり、圏域内のショートホールの旅行の厚みが増したように思われます。
各国の経済成長率予想等を用いて行われるUNWTOの予測では、2011年の国際観光客数は前年比4~5%程度の伸びとなり、その中でもアジアは7~9%の伸びを確保する見通しが示されています(図2)。
◇ 存在感増す中国人市場 ~新規客の急増 ◇
■観光目的客比率の上昇
日本国内に目を転じると、2010年の訪日外客数(JNTO推計値)は過去最高の861.2万人を記録し、前年比26.8%の伸びとなりました(図3)。
国別では韓国の前年比伸び率53.8%(244万人)にまず驚かされますが、これは前年の反動によるところが大きく、08年(238万人)の水準に戻った形です。例年、訪日客数第2位を定位置としている台湾も23.8%(127万人)と大きな伸びになりましたが、08年(139万人)の水準には回復していません。
台湾に代わって第2位となったのが中国(141万人)です。09年の中国訪日市場は、世界金融危機や新型インフルエンザによる自粛等の影響にも拘わらず、僅かですがプラスを維持しました。その上で2010年に40.5%の上積みをしたのです。それも、尖閣問題や円高傾向による10月以降の減少も含んだ数字です。
中国人の目的別訪日客数の推移をみると(図4)、従来大きな比率を占めていた商用客・その他客は合わせて50万人を超えた辺りで頭打ちになってきています。代わって観光目的客数(以下観光客数と言う)は、10年1-10月迄の累計で既に昨年の48万人を大きく超える78万人を数えました。尖閣問題や円高によって年内はマイナスで推移しましたが、それでも10年中に観光客数は90万人規模まで拡大しています。
09年のアジア主要国の観光目的比率は香港93%、台湾89%、韓国73%、中国48%です。観光目的と商用+その他目的の比は、香港13倍、台湾8倍、韓国3倍、中国1倍になっています。商用その他客が55万人程度で中期的に横ばいに推移すると過程した場合、台湾並みまで観光比率が上昇すれば観光目的客数は約440万人、これに55万人を足した約500万人が訪日旅行が普及した時代の中国人客数のイメージになります。問題はこれがどの程度のスピードで実現するかでしょう。
図4 中国からの目的別訪日客数と観光客比率とリピーター比率
■ビザ発給条件の緩和と裾野の拡大
観光客数が急増した最大の要因は入国ビザに関する発給条件緩和です。団体観光ビザの発給数は09年で37.9万件と急速に増加しました(図5)。09年には個人向け観光ビザが導入され、10年7月からの発給要件の緩和や取扱い領事館・旅行会社等の拡大により、中間層や地方部への市場の広がりが期待されています。「訪日外国人消費動向調査」でも、上海、北京、広州の上位3地域のシェアは6月調査の57%から8-9月調査の46%まで低下し、遼寧省や浙江省等の比率が上昇しました。
図5 中国人への査証発給数の拡大と出発地域の分散 |
こうした新規観光客の増加に伴って、二回以上来訪しているリピーターの比率は減少傾向にあります。新型インフルエンザの影響で09年こそ増加に転じましたが、「訪日外国人消費動向調査」でみると2010年4-9月期は33.0%と、09年の45.4%から大幅な低下がみられます。因みに、09年のアジア主要国のリピーター比率は、香港84%、台湾81%、韓国74%です(資料:JNTO「訪日外国人訪問地調査」)。
中国からの新規客は男女とも20~30代が中心となっており、成長余地の大きい若々しい市場と言えるでしょう。 (次回は引き続き中国市場の中期的展望についてお話しします。)
(塩谷英生)
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発注者 | 公益財団法人日本交通公社 |
プロジェクトメンバー | 塩谷英生 |
実施年度 | 2011年度 |