特集4 座談会
家族を伴うビジネストラベルマーケットの実態と可能性

鯨本あつこ氏  特定非営利活動法人離島経済新聞社 統括編集長
趙 アラ氏  韓国文化観光研究院 観光政策研究室 副研究委員
長縄将幸氏  JTBグループ労働組合連合会 会長

進行○守屋邦彦(J TBF) 福永香織(J TBF)
構成○福永香織(JTBF)
編集協力○井上理江
写真○村岡栄治

 

家族を伴うビジネストラベルの実態
〜意外に多い!?ブリージャー経験者〜

福永…今回の「観光文化」の中でも、出張の前後に休暇を追加するブリージャーや、休暇期間中の滞在先でのテレワーク業務を認めるワーケーションがキーワードとして挙がっています。現地で仕事以外の時間に家族と合流して余暇を楽しむケースも考えられるかと思いますが、共働きも増えている中では、休み方、働き方に加え、休暇と仕事とのバランスや、家族との過ごし方も多様化していると思います。今日は家族を伴うビジネストラベルマーケットの実態と可能性について色々とお話をおうかがいできればと考えています。

まずは皆さんの家族を伴うビジネストラベル(ブリージャー、ワーケーション)のご経験についてお話いただけますでしょうか。

鯨本あつこ(いさもと・あつこ)1982年生まれ。大分県日田市出身。NPO法人離島経済新聞社の有人離島専門メディア『離島経済新聞』、季刊紙『季刊リトケイ』統括編集長。
地方誌編集者、経済誌の広告ディレクター、イラストレーター等を経て2010年に離島経済新聞社を設立。地域づくりや編集デザインの領域で事業プロデュース、人材育成、広報ディレクション、講演、執筆等に携わる。2012年ロハスデザイン大賞ヒト部門受賞。美ら島沖縄大使。2児の母。一般社団法人石垣島クリエイティブフラッグ理事。株式会社リトルコミュニティラボ代表。『離島経
済新聞』www.ritokei.com

鯨本…私自身は「ritokei」などの媒体作りのほか、地域づくりに関する講演や事業プロデュースに関する業務のため、離島だけでなく大阪・東京などの主要都市にも行くことがあり、月の半分が出張という時もあります。
1歳と4歳の2人の子どもがおりまして、これまでに上の子は46島、下の子は13島に一緒に行きました。大きな会社に属していれば産休・育休制度があったりしますが、自分たちが立ち上げた組織で、かつ裁量も自分にあるので、産後2ヶ月後から出張に出て、最初の子どもを伴う出張は上の子が3ヶ月の時の奄美大島でした。下の子も3ヶ月の時に宮古島に連れて行ったのを皮切りに、常にどこかに連れて行っています。
子どもと一緒に行くことのデメリットはあまり感じていませんが、大変なことは荷物が多くなることくらいでしょうか。また、自分一人であればどこでも泊まれるので、適当にチケットや宿を手配してすぐ行けますが、子どもが一緒だと、宿泊先や託児所などの情報収集や準備に時間がかかります。今、私は九州に住んでいますが、東京出張が一番大変で、子どもを連れて、大きな荷物を抱えての移動も大変ですし、室内で平和に過ごせる宿泊施設を探すのがとても大変です。
あとは、移動中に全く仕事ができないことでしょうか。一人の時は、飛行機や新幹線での移動中はゆったり仕事ができる時間ですが、子どもが一緒にいるとその時間がなくなり、むしろマイ
ナスになるくらいの力を使いますね。
福永…取材をする時にお子さんが一緒にいることもありますか。
鯨本…0歳児の時は抱っこしたまま取材をすることもありましたが、大きくなるとできないので、基本的には一時預かりの託児サービスがあれば利用しています。
東京の場合はキッズライン(注1)や一時預かり、ベビーシッターなどいろいろなサービスがありますが、最近は都からベビーシッターの利用に補助(注2)が出るようになったせいか、確保するのがとても難しくなっており、一時預かりは非常に高く、丸1日預けて2万円近くになったこともあります。
地方都市や大きな離島も一時預かりサービスがあり、奄美大島、宮古島、久米島などで民間施設や保育園のサービスを利用したことがあります。安いところでは1時間400円、高くて1600円くらいで、子どもと1〜2時間遊んでもらっている間に仕事をします。
他にも、地方に子どもを伴って出張をする場合は、2つほど対処方法があります。一つは比較的仲の良いクライアントや取引先がいれば、そのご家族やお友達が遊んでくれることもあります。小さい島では託児サービスはないことが多いので、困っていることをSNSなどでつぶやくと、誰かが助けてくれることもあります。なんとかそういう島でも2〜3時間ずつ預かってもらうことを実現してきました。

趙 アラ(ちょ・あら)韓国ソウル出身。 2007年ソウル大学で博士号を取得、2009―2014年ソウル大学の日本研究所でHK研究教授として勤務した。2014年以降は現在までに韓国文化体育観光部傘下機関である韓国文化観光研究院で勤務し、国際観光政策と地域観光政策の研究を進めている。主な著書に『観光で見た北海道:観光政策と文化政治』(韓国語)、『現場で見た東日本大震災』(韓国語、共著)などがあり、主な報告書に「日本の観光市場の分析」、「日韓の国際観光政策の分析」、「地域観光推進組織の育成方案研究」などがある。

アントや取引先がいれば、そのご家族やお友達が遊んでくれることもあります。小さい島では託児サービスはないことが多いので、困っていることをSNSなどでつぶやくと、誰かが助けてくれることもあります。なんとかそういう島でも2〜3時間ずつ預かってもらうことを実現してきました。

もう一つは、私たちの出張先は離島がメインで楽しい場所も多いので、場合によっては実家の母親に旅行がてらついて来てもらうというパターンです。
もちろん会社の経費ではなく、自費で来てもらうのですが、自分が仕事をしている間、子どもと遊んでいてもらいます。私の夫も同じ職場で仕事をしているので、家族4人で出張に行くこともあります。
福永…知らない場所で普段の環境とは違う託児所などに預けられた時、お子さんは大丈夫なものですか。
鯨本…環境によっては、どうしても嫌いなところもあるようです。地元の方に話を聞いたりして、良いところを選択するようにしています。私たちは離島を専門にしているので、その地域についての知識がある程度ありますが、初めてその地域に行く方が必要な情報にきちんと辿りつけるかというのは重要な問題だと思います。
趙…私は小学3年生の息子が1人いて、息子が小学1年生になった時に育児休暇を取得しました。私が勤めている韓国文化観光研究院(KCTI)は政府の文化体育観光部の下部機関ですので、出張については極めて規定が厳しく、子どもを伴っての出張はとても難しい状況です。しかし私は旅行がとても好きで、あちこちに息子を連れて行っており、育児休暇期間中にも、息子と2人で大阪旅行をしました。私と2人だけだと、例えば足が痛いと言われてもおんぶすることはできませんし、乗り越えなければならないこともたくさんありました。それが私にとっても息子にとっても思い出深く、印象に残っています。
息子が小さかった頃に1年に数回海外出張があったのですが、私がいない間に突然熱を出したりしたので、離れていると心配なことも多くあります。
今回も息子を連れてこようかなと思ったのは、その2人旅の思い出がよかったことと、育児の空白を作らなくていいからですが、諦めた理由の1つは、世話をしてくれる人がいないことです。
夫に同行しないかと聞きましたが、仕事が忙しくて休暇が取れないということでした。この座談会は2時間くらいなので図書館などで1人で過ごしてもらおうかなとも思いましたが、じっと座って待っているのは無理だろうと思いました。
大阪であれば一度来てわかっているので、連れてこられたかもしれませんが、東京ではどこに子どもを連れて行ったら良いかがわかりません。今回は情報を探す時間もあまりありませんでしたが、子どもを預かってくれるサービスがあればいいと思いますし、子どもを遊ばせるコンテンツが見つけやすいといいなと思います。
ちなみにExpedia Groupの調査(注3)によると、ブリージャーをする人が情報収集にかける時間は1〜5時間だそうです。その間に情報が見つからないと、ブリージャーを諦めることになりますので、いかにわかりやすく情報提供をおこなうかが大事ではないかと思います。
最近、当研究院がインタビュー形式で実施した海外旅行に関するFGI(Focus Group Interview)調査によれば、未婚の20代はブリージャーをしたくないという答えがかなり多くて驚きました。理由は上司と一緒の出張が多く、ブリージャーも仕事のように思えるということでした。
一方、30〜40代で子どもがいる人に聞くとブリージャーへの意欲が高く、実際に経験がある人が多いこともわかりました。ただし、会社で禁止されている訳ではなくても、自分がブリージャーをしたと人に話すことはまだまだ難しい状況のようです。
50代以上になると、夫婦でブリージャーをおこなう傾向が見られます。この世代は社内でも上の地位にいますので、気楽にできるという傾向があることがうかがえます。

 

長縄将幸(ながなわ・まさゆき)1998年株式会社日本交通公社に入社後、一宮支店営業課で法人営業を担当。2004年JTB中部営業本部に異動となり営業企画を担当し、2006年のJTBグループ経営再編によりJTB中部本社の所属となり経営企画部、営業推進部において事業開発や法人営業戦略の策定に携わる。2008年JTB中部地域・労働組合の書記長に就任し、専従組合役員として本格的に労働運動を開始、2010年JTBグループ労働組合連合会副事務局長に就任、のち事務局長、副会長を経て2015年より現職。

福永…趙さんのように研究の仕事をされていると、海外で開催される学会に参加する機会もあると思います。海外の学会は家族を伴うことが当たり前ですが、日本の学会の場合はほとんど家族の姿が見えません。もしかしたら一
緒に来ていてもそれがわからないようにしているだけかもしれませんが。
趙…韓国も日本と同じです。海外の学会出張であれば気楽に子どもを連れて行けますよね。
長縄…私は(株)JTBに入社して旅行営業を6年、本社で企画を4年ほど担当し、それから11年間労働組合専従として仕事をしています。私には中学2年生の娘と小学1年生の息子がいますが、家族を伴って出張した経験はありませんし、そもそもそういう概念もなかったと思います。ただ、実家が岐阜にあるので、年末年始に近い時期に名古屋出張があれば家族と合流して一緒に帰省することはありました。
今回お話をうかがうまでは、育児をされている方の家族を伴う出張旅行は、お子さんを置いて出張に行けないので、必要に迫られて連れて行くというタイプのものが多いのかなと思っていました。しかし、先程の鯨本さんのお母様が娘(鯨本さん)の出張に同行するというお話から、出張に行くなら延泊して家族と現地を楽しんでこようという事例があることを知り、今後もこのような積極的なブリージャーがもっと浸透するといいと感じました。
私が出張を帰省に絡めたと言いましたが、そういう人は結構多いのではないかと思います。よくあるのが、単身赴任している方が、地元の近くの会議に参加する場合、出張ついでに帰省するパターンです。特に、一定以上の年齢の方や社内でもある程度の立場にいる方はそうしたことがしやすく、会社も禁止していません。若い人も禁止されている訳ではありませんが、立場的に出張と帰省を兼ねるといったことが難しいのが実情だと思います。
出張旅行ニーズの統計データは、私は持ち合わせていないのですが、業務渡航の相談や手配を受けている部署の社員に聞いたところ、最近は会社宛の領収書と個人宛の領収書を分けてほしいという依頼も多くなっているそうです。

 

ブリージャー、ワーケーションをめぐる企業の動き
〜休暇取得促進、仕事の質的向上につながりうるブリージャーとワーケーション〜

福永…次に家族を伴うビジネストラベルをめぐる企業や地域の動きについてうかがっていきますが、まずは、長縄さん、JTBグループ労働組合のブリージャー制度要求の動きについてお話いただけますでしょうか。
長縄…まずJTBグループの労働組合の特徴として、賃金や労働条件の改善はもちろん大切にしていますが、企業やグループ、観光産業自体がどうすれば発展していくかを考えていることが挙げられます。そして、その結果として、従業員の労働条件の向上につながればよいと考えています。
今年4月の春闘で、JTBのグループ各社にブリージャー制度の導入を要求しました。その根底には、移動する「機会をシェアリングしよう」という考え方がありました。移動の障壁は経済的にも時間的にもあります。例えば私が北海道に出張するとしたら、私の旅
費は出張旅費として会社から支給されます。そこに家族2人を呼び寄せたら2人分の移動費用で3人の家族旅行が楽しめることとなり、移動の経済的な障壁を下げることにつながります。もちろん、出張先での業務を完遂させることが大前提とはなりますが、このように、出張での移動の機会を活用して積極的に家族を呼びよせる、あるいは自分ひとりでも現地で延泊して余暇を過ごすといった旅行形態が増えるといいということです。
ちなみに、今回のブリージャーの導入には、2つの大きな目的があります。1つはブリージャーという休み方、余暇の過ごし方を推進することによって、休暇取得が促進される。また家族も呼び寄せる可能性を考えると、観光産業全体の需要喚起につながるということです。
もう1つは、JTBグループの企業文化の改革です。例えば旅行業に従事しているにもかかわらず、グループ社員が出張先で延泊して現地を楽しむようなことは、現時点では積極的にはやりづらい状況にあると思います。そのため、出張先で延泊したいと社員が言ったら、それはいいね、いろいろな経験をしてそれが今後の業務につながればいい、さらに家族サービスができれば最高だという余暇の充実や個々人の体験を尊重する企業文化を構築したいと考え、そのきっかけづくりにもなるのではということから、提案をしました。
ちなみに、日本では年次有給休暇の取得権は基本的に労働者側にあるので、ブリージャー制度を導入しなくても出張翌日に滞在先で有給休暇をとりますといえばそれでいいわけです。ただ、禁止はされていませんが、進んでいないというのが実情だと思います。
そのため、延泊後に帰る便の飛行機代は会社が払うのか個人が払うのか、延泊後に乗った飛行機で事故が起きたら労災になるのか、その辺の取り決めをしっかりすれば、より取得しやすくなるのではないかと考えた訳です。新しい制度というよりは、実現するためのルールをきちんと整備したということだと思います。
福永…JTB労働組合では、いつ頃からブリージャー推進の動きが出てきたのですか。また、どういった点を細かく詰めていったのでしょうか。
長縄…2年ほど前から話題としては出ていました。年次有給休暇の計画取得は国を挙げて進められていますが、休みの取り方を具体的に提示しないと実質的な動きに結びつかないので、その具体案として出張先で取得するという投げかけをしてはどうかと議論を積み重ね、今回それが実現した形です。

具体的に取り決めた点としては、グループ各社によって差異はありますが、延泊した時に発生した事故などはすべて会社の責任外、費用としては、通常の往復分は出ますが、それ以外の区間は自己負担としたところがほとんどだと思います。
鯨本…ライター、カメラマン、デザイナーなどの編集関係のクリエイターをはじめ、マーケティングやウェブ関係の仕事をしている方たちの中には、出張先に子どもを連れて行っている方がわりといらっしゃいます。
一方で、そういったことができるか否かは、職種と企業文化に左右されるのではないかと思います。
私たちは小さいNPOで資金的な余裕はないものの、会社の制度はかなり柔軟に設定できます。
基本的には任せた仕事を納期までに終わらせられればよいという考え方ですが、出張が多く、かつ電波が入らないところもあるので、タイムカードを含めて基本的にオンライン上で情報をまとめ、どこでも仕事ができる環境を作っています。
私たちも一つの目的で出張することももちろんありますが、さまざまな目的を兼ねる場合もあります。あまり規定らしい規定は整えていませんが、労災の範囲や精算の仕方など、いくつかポイントをおさえて決めておくと良いかと思いました。
あとは業務や上司によると思いますが、タスクが時間内にちゃんと達成できたかを報告できるようにすると周りもブリージャーに快く送り出してくれるかもしれません。もちろん、そうでなくても、気持ちよく送り出せる社会になってくれれば良いですが。
福永…先ほどJTBの社員でも出張先で延泊しにくいというお話がありましたが、旅行会社だけではなく、地域の観光関連産業従事者の皆さんも同様で、自らの旅行経験を踏まえて地域や宿を良くしていきたいのに、なかなか旅行に行けないという実態もあるようです。
そういう意味では、まさに長縄さんがおっしゃったように、観光産業に携わる人たちに旅行をしてもらう仕組みを考えることも大事ですよね。
鯨本…私たちのような仕事の場合、離島地域に行くことは、他の仕事のリサーチや研修になります。例えば月間、あるいは年間いくらまでという形で、旅費の一部を会社が負担する仕組みを取り入れている会社もあります。
旅行会社でも出張の回数に差があるのであれば、窓口や接客担当の方にも体験してもらい、それをレポートしてもらうといった取り組みもいいかもしれませんね。
趙…私たちはオフィスで働くのが基本で、ヒアリングに行ったり出張に行ったりするのには許可が必要です。
昨年、韓国では労働時間の削減を目的に労働基準法が改正されました。韓国では日本と同じように労働時間が長く、1週間に68時間働くことができましたが、改正後は最大52時間になりました。今後は、仕事と生活のバランスをとりたいというニーズは増えてくると思います。
他の企業について調べてみたのですが、韓国で最初にブリージャー制度を導入したのは大企業のサムスン電子で、2014年、海外出張の際に家族帯同を許可する制度を作りました。ただ許可するだけでは行きにくいので、例えば博覧会で出展する場合は仕事が多いので不可、それ以外の場合であれば許可するという基準を作ったそうです。サムスン電子はアメリカやヨーロッパへの出張が多いのですが、時差があるので電話でも家族とのコミュニケーションをとるのが難しいということもあり、この制度を導入したと聞いています。
また、韓国政府の女性家族部では、家族と一緒に過ごすことを推進する企業を認証・支援する家族親和支援事業を行っています。2 0 1 7 年時点で2800企業が認証を受けています。
また、韓国政府の文化体育観光部にも、勤労者の休暇旅行を支援する制度を設けています。中小企業の休暇文化を造成するために実施している制度で、勤労者が20万ウォン、会社が10万ウォン、文化体育観光部が10万ウォンを負担しので電話でも家族とのコミュニケーションをとるのが難しいということもあり、この制度を導入したと聞いています。
また、韓国政府の女性家族部では、家族と一緒に過ごすことを推進する企業を認証・支援する家族親和支援事業を行っています。2 0 1 7 年時点で2800企業が認証を受けています。
また、韓国政府の文化体育観光部にも、勤労者の休暇旅行を支援する制度を設けています。中小企業の休暇文化を造成するために実施している制度で、勤労者が20万ウォン、会社が10万ウォン、文化体育観光部が10万ウォンを負担し実などを目的に、社員が休日や休暇を利用して訪れたハワイでテレワークを行う「ワーケーション・ハワイ」を4月から導入しました。
休暇取得中に現地で業務に従事できる仕組みなので、休暇中に家族を帯同していることは問題ないと思います。
鯨本…我が社ではブリージャーという言葉を知らないスタッフがほとんどで、どちらかというとワーケーションの方が認知度が高かったです。少し前から奄美大島や宮古島ではワーケーションを推進する企業が結構入ってきています。
離島は行くのに時間もお金もかかるので、ワーケーションのような働き方ができたらいいのではないかということで、先進的に整備されているのではないかと思います。
守屋…ワーケーションに可能性を見出している地域も多いと思います。離島や温泉地、行くまでに時間がかかるような地域の方が長期滞在しながらワーケーションをしてもらおうという動きがあるかもしれません。

 

家族を伴うビジネストラベルをめぐる地域の動き
〜柔軟な対応と情報の集約・発信が課題〜

福永…色々な地域にご家族を伴って訪れる中で、地域側にあって良かったサービスなどはありますか。
鯨本…家族が帯同する時にケアしなければいけないのは、特に乳幼児の子どもです。そう考えた時に必要なのは、一時預かり所ですね。そういった意味では、久米島は空港にキッズスペースがあったり、東京から移住したシッターさんがいるので、子どもを伴っての出張がとても行きやすいです。
離島地域や過疎地域では子どもが減っているという問題があり、いろいろな方に長期滞在をしてほしいというニーズがあります。こうしたニーズをうまく組み合わせて、現地の幼稚園や小学校に短期入学させてもらえるような離島留学や山村留学などの制度があるところもあります。乳幼児の場合は安全に預かってもらえるような環境が必要で、小学生くらいの場合は、野外体験などをしながら預かってもらえるようなプログラムなどがあってもいいかもしれません。
ところが、そういった情報をまとめているところがないので、リサーチにすごく時間がかかります。地元誌でまとめられている場合もありますが、まとめ方が統一されておらず、探し始めると情報のカオスに陥って余計時間がかかるので、一定の基準で情報を集めてもらえたらと思います。
それから、長期滞在をする際には、医療面のサービスに加え、ミニキッチンや洗濯機などがあると良いですね。
趙…大阪に子どもを連れて行った時、息子が体が痒いと言い出し、慌てて病院を探して連れて行きました。ただのアレルギー症状だったのでよかったのですが、もし私が日本語が全くできなかったら困るなと思いました。韓国では外国人のための医療通訳サービスの電話があります。日本もあると思いますがそういった情報がきちんと提供できているかが重要だと思います。
韓国では年に15日くらい子どもの家庭での体験学習のために休業することができます。私は育児休暇取得中に2週間くらいアメリカに息子と滞在しましたが、その時に思ったのが、2週間はすごく長いので、半日くらい子どもが体験できるところがあったらいいなということです。
韓国では小学生向けの体験プログラムがたくさんあります。キッズカフェ(注4)というのもよく知られていて、半日くらい過ごせて出会った友達と遊べます。英語が少し話せるスタッフもいて、危険がないよう、ちゃんと見守っています。外国人も利用できますが、外国人には多分そういった情報が伝わっていないと思います。新しい制度を作ることも大事ですが、今あるプログラムやサービスの情
報発信をしていくことも大事だと思います。

 

今後の家族を伴うビジネストラベルマーケットの可能性
〜地域側と旅行者のニーズを見据えた新たなライフスタイル、旅行スタイルの提案〜

福永…旅慣れている人であれば、同伴者が仕事をしている間、1人でも楽しめると思いますが、旅慣れていない人がどう過ごせるかというのも重要な課題です。また、せっかく子どもを連れて行くなら、子どもにとってプラスになる経験をさせたいとも思います。受け入れる側、訪れる側双方にとっての課題、家族を伴うビジネストラベルの今後の可能性についてお話いただけます
か。
鯨本…4年間、私は子どもを連れて出張していますが、仕事が裁量労働制だから、行き先が島だからできるのではと思われるのはもったいないなと思います。実際、かなりパワーは要りますし、色々と大変なことはありますが、家族と一緒に過ごす時間は増えますし、大変なことを乗り越えることが上手になって「家族力」が上がる気がします。
旅慣れていない家族と一緒に旅行するのは確かに大変だと思いますが、まずは観光地として行きやすい場所に行き、そこから行き先を増やしてみるのも良いのではないでしょうか。
企業としても、働き手が不足している状況においては、社員の満足度を高める上でブリージャーはとても魅力的な制度だと思います。会社が大きくなるほど実現するのは大変だと思いますが、トップや上司の意識次第だと思います。メリットもありますし、広がって
いくと良いなと思います。
離島などの地域側は、家族連れで長期滞在で来てほしいと言っているところがかなり多く、例えば一人で出張に来ていたお父さんが子どもを連れてくると、地域は子どもが来たことを喜び、おそらくそのお父さんに対する地域の信頼度も上がると思います。仕事として来る人は、田舎であればあるほど警戒されますが、家族で行くとそれが緩和されます。私は大体子どもを連れて行きますが、うちの会社を知らない方とも会話がしやすくなることは大きなメリットになります。
また、仕事のみならず家族で、さらに滞在日数を延ばして滞在してもらえるブリージャーは地域側のニーズも高いと思います。特に地方のほうが、子どもが広々と遊べる環境がありますし、半日くらいで体験できるプログラムを提供しているところもあります。一方で、先程から話に出ている通り、情報がうまく出せていなかったり、いまひとつ仕組みが整備されていないところもありますが、そういったところを解決していけば、さらに今後伸びていくのではないかと思います。
守屋…仕組みで足りない部分というのは具体的にはどういう点がありますか。
鯨本…例えば設備としてミニキッチンがなくても、宿の方に相談すれば対応していただけることもあります。明確な表示が難しい場合は「要相談」でも良いと思います。子どもが滞在しやすいかどうか表示されていて、かつ、そういった情報が一覧で見られるといいなと思います。
趙…韓国では国内旅行だけでなく海外旅行も家族を伴うことが増えているので、今後は家族を伴うブリージャーも大事なテーマになると思います。韓国人が日本に旅行するときはFITが多いですが、現地のオプショナルツアーに参加することも増えています。例えば札幌までは個人で手配して、札幌から行きにくいところだけは旅行会社を使うということです。ヨーロッパでは現地で1日滞在するツアーも多く利用されています。ブリージャーに連れていく家族が旅慣れていなくても、そうした現地のオプショナルツアーがあると良いと思います。
自分が出張で行って良いと思ったところは、息子を連れて行きたいと思います。私が海外の出張先で印象に残っているのがロンドンとスイスで、いつか息子と一緒に訪れて、優れた自然や文化遺産などを見られたら良いなと思いました。このように、また別の機会に家族で再訪したいと思ってもらえるように、必要な情報を伝えていくことも重要かと思います。
一方で、20代の人たちの中には会社とプライベートを明確に分けたいという声もあり、家族を伴う出張を推進しても、そうしたくない人がいることもあり得ます。大事なのは、働ける時間や場所を自分で決められるかどうかですね。最近の企業では、休暇取得の許可自体をなくすところも増えています。社員が自律的にできることを増やせば、企業文化も変わってくるのではないかと思います。
長縄…私は、ブリージャーとワーケーションでは、思想的には真逆のような気がします。労災や労務管理を行う上でも、どこからが仕事でどこからが休みかを区別することが重要なので、その点を留意しなければいけないかと思います。
今日のお話でも、家族を伴うビジネストラベルを行う上で、特に乳幼児がいる場合は安心して預けられる施設があるかどうかというのは重要なポイントになるかと思いますが、小学生以上の就学児になると学校を休ませられるかどうかということも問題になります。
子どもを連れての出張に限らず、家族旅行を推進していくなら、キッズウィークのように家族がきちんと休める休暇制度の導入なども国と一体となって検討し、発地側の環境整備もあわせて考えていく必要があると思います。
また、ブリージャーで家族と現地で滞在するのは土日が中心になるかと思いますが、週末はどうしても宿泊費が高くなります。例えば、企業が提携している宿泊施設があれば金曜の出張の宿泊費と同額で土日も泊まれるようにするといったことも考えられるかと思います。木曜や金曜は施設側にとってはオフ期になりますし、さらに家族の宿泊も増えれば、結果として稼働率も上がることになります。こうした交渉をエージェントが請け負っていくことで商品を提供していける仕組みができる
と良いかと思います。
また、子どもを伴う出張の際は荷物が多くて大変というお話がありましたし、出張先で休暇を取得するとスーツから私服に着替えることも多いと思うと、宅配業者と提携したサービスの展開もあるかと思います。例えば、会議が終わったタイミングでスーツを自宅に送り返せて、さらにはクリーニングまで終わっているとか、荷物の輸送もセットにして商品化したりすると良いのではないかと思いました。
MICEに参加すると、ビジネスではあるけれどもエクスカーションのようなオフの要素も散りばめられています。このようなMICEに付随したエクスカーションに家族を帯同してもいいですよね。エージェントとしては、家族の参加をさらに促進するように間口を広げていただく提案を主催者側にするなど、MICEと連動したブリージャーについても積極的に提案をしていかなければいけないと思いました。
かつては海外旅行がイメージできなかった時代に、エージェントは海外パッケージ旅行を提案し、より多くの方が行きやすいようにしてビジネスにしていったわけです。旅行会社は、出張しながらでも休める、そこで余暇を楽しもうというように、新しいライフスタイルを世の中に提案をしていくことが大切ではないかと思っています。
守屋…長縄さんがおっしゃったように新たなライフスタイルというところに我々も可能性を感じています。それぞれのお立場から多くのご示唆をいただいたと思います。本日はありがとうございました。

(注1)通常のベビーシッターサービスよりリーズナブル、かつ即日手配も可能なオンラインベビーシッターサービス。株式会社キッズラインが運営。
(注2)平成30年度から東京都が待機児童対策としてベビーシッター利用支援事業を実施。待機児童の保護者又は育児休業を1年間取得したあとに復職する保護者が、子どもが保育所等に入所できるまでの間、本事業の参画事業者として東京都の認定を受けた認可外のベビーシッター事業者を利用する場合の利用料の一部を助成。
(注3)UNPACKING BLEISURE TRAVELER TRENDS, expedia group, 2018
(注4)子どもが遊べる遊具やプレイスペースが併設されているカフェ形式の室内プレイグラウンド。子どもを見守ってくれるスタッフが常駐しているところもある。