新刊案内

『実践風景計画学』『由布院モデル』

日本造園学会・風景計画研究推進委員会 監修
古谷勝則・伊藤弘・高山範理・水内佑輔 編

B5判164ページ
本体3,400円+税
朝倉書店
ISBN978-4-254-44029-4
2019年3月発行

「風景計画学」とは非常に響きの良い言葉である。読んで字の如くであるが、100年ほど前にはじまった、より良い風景の体験の実現を目指した学術的な取り組みである。風景計画学のはじまりには、観光をはじめとする人の移動の活発化が大きく作用しており、インバウンド観光とも歴史的に深い関わりを持つものである。
本書は風景計画学の体系化を目指したものであるが、ここでいう風景計画とは、色彩や意匠、インスタ映えするような場所づくりに限定されるのではなく(これらも重要であるが)、地域における人と環境の関係を風景として読み解き、あるべき風景の設定や、それを実現するための体系的段階的な手段、かつその実践を含めるものである。
序章において、実は学術的には整理が必要な風景概念や風景計画の展開の歴史と新たな観点について整理した上で、「実践風景計画学」と題したように1章から4章にかけて風景計画および実現・管理に至る作業過程を示し、その実現や管理に至るまでの体系化を図った。また、国立公園、温泉地域、中山間地域、里山、地方都市の活性化など様々な具体の取り組み事例を示し,理解をしやすいように試みた。
観光や風景を「手段」として、地域づくりを目指す方々に手に取っていただきたい書となっている。     (水内佑輔)

 

 

『由布院モデル
地域特性を活かしイノベーションによる観光戦略』

大澤健・米田誠司 著

A5判208ページ
本体2,700円+税
学芸出版社
ISBN978-4-7615-2697-9
2019年2月発行

由布院温泉は、豊富な湯量を誇るものの、観光客を惹きつける傑出した集客資源があるわけではない。日本を代表する大温泉地・別府の陰に隠れ、長い間寂れた温泉地であった由布院は、1970年代以降のマスツーリズムやリゾートブームの中で押し寄せる観光開発の波に飲み込まれることなく、自らの地域の価値を自覚し、由布院盆地の豊かな自然と農村らしさを守り続けることで、今や日本を代表する温泉地となった。その背景に
ある「観光まちづくり」の先駆者・由布院のサクセスストリーは、すでに多くの著書で紹介されており、ご存知の方もいことだろう。
一方で、近年の由布院には、駅前から湯の壺街道の「原宿化」に象徴されるように、本来の由布院のまちづくりの理念と相反する現実も見られる。それでもなお由布院は、40年にもわたり「行きたい」観光地であり続け、今もって年間400万人近い人が訪れるのはなぜだろうか。由布院の観光まちづくりを実践してきた米田氏らによって著された本書は、こうした現実を認識したうえで、「観光まちづくり」において、「まちづくり」とはそもそも何を「つくる」ことなのか、それがなぜ観光の振興につながるのかを、「由布院モデル」から深掘りする。観光まちづくりの実践者に一読してほしい一冊である。

※由布院温泉は当財団を事務局とする「温泉まちづくり研究会」メンバーであり、温泉地の課題解決や活性化のための活動に協働して取り組んでいます。  (大隅一志)