特集2

事例に学ぶ、図書館を活かした地域の観光魅力づくり

概説
近年、地域の活性化、まづくりにおける図書館の存在価値はますます大きくなりつつあるものの、地域の図書館と観光との関わりはまだまだ薄いのが実情である。そうしたなか、図書館の取組が地域の観光に寄与する事例も各地に散見されるようになってきた。
本特集では、特に図書館の観光活用という側面から代表的な事例を紹介する。それぞれの地域特性や課題をふまえた創意あふれる取り組みには、地域の観光に図書館が寄与していくための多くのヒントを見出すことができる。

T y p e A  観光対象・目的となる図書館
魅力ある図書館はそれ自体が観光対象・来館目的となりうる。
その一つは、図書館建築自体が観光魅力を有する場合である。地域の近代学校創立の先駆けとなった歴史的施設を模した高山市図書館(岐阜県)はその代表で、国内外の観光客も訪れる。
図書館ではないものの、「本のまち」の拠点施設として本を介して新しい公共サービスを提供する八戸ブックセンター(青森県)は、書店など民間との様々な連携事業を通して人の交流を促し、域外からの来訪にもつながっている。
図書館のもつ特徴的な蔵書(コレクション)も来訪目的となりうる。近年は博物館や美術館などの文化施設等との複合化によって集客力を高め、相乗効果の高い地域文化の発信につなげている例も見られる。

T y p e B 観光客の滞在・時間消費の場となる図書館
旅行先、滞在先で、読書や郷土資料などを通した地域の風土・文化の探求、特色あるイベントや体験プログラムへの参加といった活動の場として図書館を利用するものである。
こうした利用は図書館、観光客双方においてまだ十分イメージされていないこともあり実例は少ない。恩納村文化情報センター(沖縄県)は、わが国で最も観光を意識した図書館づくりを行っているところの一つであり、村の観光振興にも大きく寄与している。奈良県立図書情報館(奈良県)も、周辺ホテルとの連携等を通して図書館を観光に活かす取り組みを進めており、県立図書館としてのあり方にも着目したい。

T y p e C 地域をつなぐ図書館
図書館だけで完結せず、地域と様々に連携することで地域の魅力の向上や観光の振興につなげるものである。
ここでは、ぶどうとワインをテーマとしたコレクション構築や企画展示など様々な取り組みを通して地域の産業や観光の繋ぎ役を果たしている甲州市立勝沼図書館(山梨県)、地域住民を巻き込みながら図書館の取組をまちなかにも展開する「まちじゅう図書館」の先駆けとなった小布施町立図書館(長野県)、人的サービスと地域連携展示により来館者と街をつなぐ拠点となっている千代田区立千代田図書館(東京都)の3例を取り上げた。

T y p e D 地域魅力を発信する図書館
地域の観光情報提供機能や、地域ゆかりのテーマによる図書コーナー、企画展示等を通して地域の魅力発信に寄与するものである。
事例には東近江市立八日市図書館(滋賀県)と伊那市立高遠町図書館(長野県)を取り上げた。前者は、図書館が主体的に関わり地域ならではの地域情報誌を発行しており、また後者は、携帯端末用アプリの活用、本をテーマにしたイベント、地域ファンを増やす文芸賞の創設など、単なる観光情報提供にとどまらない独自性の高い取り組みである。
ここに紹介した以外の取り組み例については46〜47ページに一覧として整理した。合わせて参考にしていただきたい。
(旅の図書館 副館長 大隅一志)