1高山市図書館「煥章館」
情報発信の要として
煥章館館長 西田純一
西田純一(にしだ・じゅんいち)
高山市図書館館長。 高山市危機管理室担当部長、企画管理部長を経て、2017年から図書館。 2019年から現職。
観光エリアの中にある図書館のサービスとは
高山市図書館は、現在、本館と支所地域にある9館を合わせ10館で運営しているが、2006年4月以降は指定管理者制度を導入している。
本館は2004年4月に現在の位置(旧市役所跡地)に開館し、煥章館の名称で市民に親しまれているが、その名の由来は、明治時代、飛騨地域近代学校創立の先駆けとなった煥章学校にあり、「地域の輝かしい文化を築く拠点」という願いを込め「煥章館」と名づけられた。
煥章館の2階には近代文学館があり、高山市に縁のある近代文学者四人(瀧井孝作・江馬修・福田夕咲・早船ちよ)の作品をはじめ飛騨の歴史・文化に関する書籍を数多く所蔵し、高山市の文化についての調査・研究の場として活用されている。
一方で、煥章館は観光地飛騨高山の観光エリアに位置し、建物も擬洋風の風情ある景観を呈していることもあり、年間を通して国内外から多くの観光客が訪れている。館内の情報コーナーには、日本人観光客向けの観光パンフレットやまち歩きガイドマップをはじめ高山市を知ってもらうための多彩な資料を配置しているほか、外国人観光客向けにも11か国言語のまち歩きガイドマップを置くなど観光エリアにある図書館としてのサービス向上に努めている。
また、岐阜県出身の作家、米澤穂信氏の高山を舞台にしたライトノベル小説『氷菓』が2012年にテレビアニメ化、2017年には実写映画化されたが、アニメの中で、煥章館がその舞台のひとつになっていたため、現在でも聖地巡礼で煥章館を訪れる人が後を絶たない。
高山市の広い市域の中で、それぞれの地域が有する伝統文化や伝統工芸、また、各地域で新たに創造された文化を市民が共有し、さらには国内外から訪れる多くの人たちに情報発信する「要」の施設としての図書館の役割は極めて重要であり、情報発信施設としての機能を高めていくことが、高山市の観光文化の振興にもつながっていくものと考えている。
国内外への情報発信の取り組み
前述の趣旨に沿って、現在、高山市図書館が取り組んでいる事例をいくつか紹介する。
ひとつは、11月の伝統的工芸品月間に、1階正面の展示コーナーに国の伝統的工芸品の指定を受けている飛騨春慶(漆器)と一位一刀彫(彫刻)の作品とその関連書籍を展示し、高山市の伝統工芸への理解を深めてもらえるよう取り組んでいる。ちなみに岐阜県内には五つの国指定伝統的工芸品があるが、そのうちの2つが高山市内にある。
また、伝統的工芸品関係では、バイオリン製作などで世界的に有名なイタリアのクレモナ市の製作技術と飛騨春慶の卓越した漆塗り技術のコラボレーションにより製作されたバイオリン・ビオラ・チェロの春慶弦楽器による演奏会を名古屋芸術大学の協力により館内オープンスペースを活用して開催するなど伝統技術の融合により誕生した新しい文化の情報発信にも取り組んでいる。
さらには、日仏交流160周年を契機として、昨年5月に岐阜県とフランスアルザス地方にあるオー・ラン県との友好交流が始まったが、オー・ラン県と同県内にある高山市の友好都市コルマール市の文化や風景等の同時展示を岐阜県、高山市と協力して行い、市民や観光客にフランスの文化や国際交流への理解を深めていただく機会とした。
また、ユネスコ無形文化遺産に登録され、日本の三大美祭、三大曳山祭とも呼ばれている春・秋の高山祭の時期(4月・10月)には、訪れた観光客などを対象に高山祭のミニ講座を1階オープンスペースで開催し、高山祭の歴史や祭屋台の特徴等への理解を深めてもらっている。
昨年度には、旅館・ホテル業従事者を対象とした英会話講座も、煥章館で開催した。
地域の生活文化も伝えていきたい
図書館の取り組みとして、国内外への飛騨高山の文化の情報発信等の事例をいくつか挙げたが、こうした創意工夫を凝らした多彩な取り組みを継続していくことで観光文化の振興に寄与ができると考えている。
煥章館の近くには、高山の歴史に関する資料を閲覧できる「飛騨高山まちの博物館」や一位一刀彫など伝統工芸の実演の見学や裃・着物の着用など伝統文化の体験ができる「飛騨高山まちの体験交流館」もあり、今後は、煥章館とこれらの施設が連携した取り組みを行っていくことで、その成果を一層高めることができると考えている。
しかし、これらの事例や今後の取組みは図書館や他施設への来館者を対象としたものであり、観光文化を今後さらに振興していくためには、こうしたサービスの充実に加え、食文化など地域の生活文化もコンテンツに加えた形で、SNSの活用などICT技術を駆使した情報発信の充実も必要であると考えている。
観光文化の振興に向けて
公共図書館には、地域への教育的・文化的な貢献という図書館法に基づく従来型の図書館の役割を基本としながらも、市民生活の課題発見・解決への支援や市民のサードプレイスとしての場づくり、地域コミュニティの活性化や安全確保への支援などいろいろな観点からの役割が求められており、全国の公共図書館においてもようやくそうした動きや試行的取り組みが出てきている。
煥章館においても複眼的な観点に立ち、いろいろな取り組みにチャレンジしているが、高山市が伝統文化を基調とした観光地であることを踏まえれば、観光文化の振興への寄与も当館に求められる重要な役割りのひとつであり、高山市が持つ有形・無形の伝統文化、さらには、地域の創造的な活動によって新たに生み出された文化芸術など高山市の観光資源の情報発信に、今後も創意工夫を凝らして取り組んでいきたい。
写真上)煥章館近くにある「飛騨高山まちの博物館」下右)高山祭・祭屋台のミニ講座 (下中)フランス アルザス地方展・コルマール市展
下左)飛騨高山まちの体験交流館で一位一刀彫の体験