2 八戸ブックセンター

人の交流を増やし、まちを元気にする
八戸ブックセンター・所長 音喜多信嗣
音喜多信嗣(おときた・のぶつぐ)
八戸市まちづくり文化スポーツ部まちづくり文化推進室八戸ブックセンター所長。
1994年入庁。 健康福祉部、経済部、総合政策部などを経て2016年からまちづくり文化スポーツ観光部まちづくり文化推進室。 八戸ブックセンターの立ち上げに携わり、同年12月から現職。

本に関する公共施設として代表されるものと聞くと、大半の人は図書館と答えると思う。
図書や郷土資料などを収集、整理、保存し、それを誰もが借りて読むことが出来るという図書館の役割は、地域の教育や文化の発展にとって必要な行政サービスである。
近年の全国的な傾向として、きめ細かな図書館サービスの提供のみならず、まちづくりや観光の観点から、図書館を核とした複合施設の整備などを背景に、図書館の数は増加傾向にある。

「本のまち八戸」構想の具現化
このような中、八戸市では、子どもから大人まで市民がもっと本に親しめる環境を目指し「本のまち八戸」構想を掲げ、年代に応じた各種事業を展開している。
これまでの図書館や各学校での読書推進の取り組みに加え、2014年度から、赤ちゃんとその保護者を対象に絵本の読み聞かせを行い、その絵本をプレゼントする「ブックスタート事業」を皮切りに、満3歳児をもつ保護者向けに、読み聞かせ絵本を購入するためのブッククーポンを配布する「〝読み聞かせ〞キッズブック事業」、市内の小学校全児童に、市内書店で使えるブッククーポンを配布する「マイブック
推進事業」、市内小中学校への学校司書の派遣事業と、まずは子ども向けの事業を実施してきた。
そして、「本のまち八戸」の拠点施設として位置づけ、主に中高生から大人を対象とした施設として、2016年に「八戸ブックセンター」(市直営)を街なかに開設した。
図書館で本を借りて読むという体験と、書店で本を買って読むという体験は別のものであり、本を私有するという体験が重要であるという考えのもと、当センターで取り扱う本は、展示用の本を除き、全て販売している。
地方の民間書店では、海外文学や人文・社会科学、自然科学、芸術などの分野について、採算面から積極的には取扱いにくい現状となっている。
これらの本は、知的好奇心を刺激し、読書の幅を広げるきっかけとなるなど、市民の文化力向上にも寄与するものであるが、民間書店では扱いにくいため、当センターでは、これらの本を中心に扱い、また、本との「出会い」を大切にするため、図書館のような目的の本が探しやすい並べ方ではなく、提案・編集型の陳列により、「紙の本」との偶然の出会いを創出することを心がけている。
開館から2年以上が経過したが、「本を読む人を増やす」「本を書く人を増やす」「本でまちを盛り上げる」の三つの基本方針に基づき、特徴ある本の陳列・販売のほか、様々な企画事業を通して、「本」そのものや、「読む」、「書く」事がもっと市民の身近になるように、また、「本」を取り巻く人の交流を促進することで、まちを元気に、盛り上げていくことを第一の目的として運営している。

これまでも、近隣の拠点施設(八戸ポータルミュージアム、八戸まちなか広場マチニワ)などとも連携して、作家などのゲストを招いてのトークイベントや、市民参加型の一箱古本市をメインとした「本のまち八戸ブックフェス」など、三つの基本方針に則った、数多くの企画事業を実施している。
なかでも、特徴的な事業として、1冊の本が出来るまでの過程を、館内のギャラリーで展示し、実際にその本を、当センターの企画として出版することを毎年恒例の企画としている。
1年目は八戸出身の作家・木村友祐氏の小説『幸福な水夫』(未來社)を、2年目は八戸の詩人・村次郎の選詩集『もう一人の吾行くごとし秋の風』(左右社)を、そして3年目は、八戸出身の写真家・中居裕恭氏の写真集『DUO中居裕恭 森山大道』(bookshop M)を、デザイナー、印刷・製本会社、そして使用する紙は三菱製紙八戸工場に提供いただくなど、多くの方の協力を得て展示、出版してきた。

 

公共サービスの新しいかたち
また、市内の書店を始めとする民間企業の方々との連携も進めているが、「本」を切り口とした事業に、公共施設である当センターがうまく間に入ることで、民間企業同士のつながりも生まれ、市全体が本で盛り上がるという連携のかたちが出来つつあると感じている。
更には、最近では「本のまち八戸」が教育の現場にも浸透してきており、市内小中学校からの要請を受け、当センタースタッフのスキルをフルに活用して実施している出張トークやワークショップなどを通じて、児童・生徒たちの本に対する意識高揚が目に見えるようになってきている。
このように、八戸ブックセンターは、様々な企画事業を通して「本」にまつわる新しい公共サービスを提供する「本のまち八戸」の拠点施設となった。
2016年12月のオープンから、様々なメディアに取り上げられていることもあり、当初の見込みを超え、2018年は月平均1万500人(1日平
均406人)の来館者数であった。
こうした本を介して人の交流を増やす試みは、もちろん八戸市民のための取り組みであるが、結果として出張者や観光客からも高い評価を得て、当市への来訪者を増やす一助となっている。
それは日々接する来館者からの声や、アンケートへの回答の半数ほどが市外からの来訪者によるものだったことからも実感としてある。
今後も、民間書店・図書館・市民団体など関係各所との話し合いを重ね、本に関わる人たちとともに、公設の書店としての八戸ブックセンターを通して「本のまち八戸」を推進し、市民が誇りに思え、市外からの来街者にもその意義が伝わる、文化の薫り高いまちづくりをしていきたいと考えている。