小布施町立図書館
「栗と北斎と花のまち」の「まちとしょテラソ」
小布施町立図書館事務長 市村勝巳
市村勝巳(いちむら・かつみ)
小布施町立図書館事務長。教員として長年総合学科高等学校においてキャリア教育に携わる。 全国総合学科高等学校長協会常務理事、北信越地区総合学科高等学校長協会会長、長野市教育委員会事務局主任指導主事など経て、2019年から現職。専門は古代史。

 

来館者は旧図書館の4倍、町民の利用は40%
小布施町は長野県北東部に位置し、面積は19㎢と長野県で最も小さな町である。人口は1万1000人ほどである。主産業は栗をはじめとする果樹栽培を中心とした農業である。江戸時代後期に、小布施には豪商の招きで 飾北斎や小林一茶など文人墨客が訪れ、昭和50年(1975)代以降その遺産を起点とした町並み修景事業が進められてきた。また、ここ20年ほどは官民一体となって花づくりに取りくみ、現
在は「栗と北斎と花のまち」として年間100万人以上の観光客を迎えている。
当館は1923年に創立した。利便性の改善と電算化導入を契機として、1998年から町民主体の新図書館建設が始まり、2009年7月に現小布施町立図書館〝まちとしょテラソ〞(以下、「テラソ」)として開館した。別称「テラソ」とは闇夜の町を「照らす」行燈(あんどん)のような施設を指し、町民からはテラソの愛称で親しまれている。2011年には町民主体の図書館づくりが評価され、ライブラリー・オブ・ザ・イヤー大賞を受賞、『日本の最も美しい図書館』(2015エクスナレッジ)など多くの出版物で紹介された。
テラソ開館以降、年間の来館者数は旧図書館の4倍となる14万人前後で推移している。蔵書数は約10万冊、図書貸出し利用者のうち町民が40%を占め、周辺三市一村住民の利用が多い広域圏型図書館である。建設時の基本構想では、テラソが「学びの場・子育ての場・
交流の場・情報発信の場」となるようビジョンが示された。このうち、観光面については、来訪者と住民との交流支援及び集積した町内関連刊行物による町内情報発信を担うとした。

図書館員は町のコンシェルジュ
テラソでは前述の基本構想を受け、一つに、カウンターは通常業務のほかコンシェルジュとしての機能も有している。観光地図の配布と案内、美術館共通券や開催行事入場券等の販売など丁寧な対応を心がけている。二つに、蔵書では町内刊行物のほか、小布施の先人、小布施縁の 飾北斎や中島千波氏等、町出身者の関連出版物コーナーを設けるなど地域に係る情報集積に努めている。また、先人のひとりである豪商高井鴻山が好んで描いた妖怪関連図書を多く選書するなど工夫を凝らしてきた。三つに、HPでは江戸時代の小布施村中心図を「小布施ちずぶらり」に掲載し、観光客が現地で対照して歩くプログラムを提供している。その他、多文化共生への配慮から館内NDC(日本十進分類法)には英語表示を併記する等改善してきた。

町じゅうが図書館、町全体がガーデン
小布施では花をとおして観光客をはじめ来訪者との交流を図るため、2000年より町民が庭園を開放する「おぶせオープンガーデン」に取り組んできた。現在130軒のガーデンオーナーが参加している。この事業を参考に、当館設計者の古谷誠章氏らの発案をもとに、2012年に「まちじゅう図書館」を開始した。「本とつながる、人とつながる」をコンセプトに、商店や個人宅で所蔵図書をその一角に並べ、訪れる町内外の人が自由に本を手に取り、店主(館長)とのふれ合いを楽しむ仕かけである。銀行・郵便局・酒屋・味噌醸造店・食堂・個人宅など現在16館が加盟し、事業者毎に特色ある図書や雑誌が並んでいる。各館共通の運営規約はなく、館の運営は館長の方針に委ねられており、なかには貸出しや持ち帰りを認める館もある。テラソから認定旗を配布するほかには行政的支援はしていないが、各館を紹介する
地図を配布している。「まちじゅう図書館」は、本を介した館長と町内外の人とのつながりから新たな交流や空間を創出する効果が期待され、オープンガーデン同様に小布施観光の特色のひとつとなりつつある。

今後の小布施観光とテラソの課題は
テラソは小布施駅から徒歩二分の位置にあるため、土産物を携えた観光客が立ち寄り、本を手に取る姿が見受けられる。また、観光
協会の小布施ボランティアガイドによる町内ガイドコースにテラソが加わることがあるため、視察や見学を含めた多数の町外訪問者がある。
テラソにはコンシェルジュとしてのガイドや、小布施に関連する図書・雑誌・視聴覚資料等を活用したレファレンスサービスの提供と情報収
集が求められており更なる充実に努めたい。一方、観光協会との連携と情報交換、まちじゅう図書館を繋ぐセンターとしての役割の検討などが今後の課題となっている。