千代田区立千代田図書館
人的サービスと地域連携展示で、来館者と街をつなぐ拠点づくり
千代田区の観光案内にも対応しているコンシェルジュ・ブース
街案内が月に100件以上館内コンシェルジュが活躍
東京都千代田区の区立図書館の中央館である、千代田図書館は「本の街」として知られる神保町の近くにあり、10階建ての区役所庁舎の9階全部と10階の一部を占めている。2007年5月に同庁舎の移転・新設に伴ってリニューアルオープンしたが、その時から導入され、この図書館の大きな特徴となっているのがコンシェルジュサービスだ。
本探しの手伝いや館内の総合案内だけでなく、「ここから東京駅へはどう行くのか」「神保町でこの分野を扱う古書店はどこにある?」といった案内、「この辺で美味しいランチの店は?」「近くにある観光スポットを教えて」などの、区内観光に関する質問にも幅広く対応している。こうした街案内の件数は月平均80件以上を数えるという。
コンシェルジュは現在5名おり、司書資格は不問でコミュニケーション能力が重視される。千代田図書館はリニューアル当時から指定管理者制度が導入され、3つの民間会社が役割を分担して運営しているが、この中でコンシェルジュを担当するサントリーパブリシティサービス株式会社は、もともとサントリーのビール工場見学の案内業務からスタートしている会社であり、そうした接客のノウハウが生かされている。
「新人コンシェルジュでもスムーズに対応できるよう、過去の質問対応をデータベース化して情報を共有しているほか、観光に関する詳しい質問は千代田区観光協会に問い合わせるなどの横連携も行なっている」と、千代田区立図書館広報室チーフの坂巻睦氏は語る。
神保町を巡る図書館発ツアー参加者の7割が千代田区外から
館内だけでなく街案内も行うというのは図書館としては異色のサービスだが、実施理由として「千代田区民は6万5千人なのに対し、区の昼間人口はその14倍に当たる約85万人。千代田図書館も在勤在学している区外在住の方の利用が多く、図書館を拠点として、そうした方にもっと千代田区を知っていただきたい」(坂巻氏)という考えがベースにある。
リニューアルする千代田図書館の指定管理者を募集するにあたり、区が強く求めていたのが地域との連携だった。
この意向を受けて、千代田図書館の指定管理者が提案したのが、人を介した地域情報の収集と提供を行う「コンシェルジュサービス」というアイデアだ。
この提案をサントリーパブリシティサービス株式会社が具体化し、図書館内の案内だけでなく、図書館の外の地域も案内するコンシェルジュというサービスが生まれた。
コンシェルジュの役割はその後さらに広がりを見せ、リニューアルオープン翌年の2008年10月から「図書館コンシェルジュと巡る神保町ツアー」がスタートした。古書店や建築物巡り、映画ゆかりの地巡り、雑誌「散歩の達人」とのコラボ企画など、ツアーのテーマはさまざまで、コンシェルジュたちが企画内容を考えている。
中でも好評だったのが、喫茶店をテーマとしたツアーで「神保町の老舗喫茶店『さぼうる』で、オーナーに話を聞きながらメニューをいただくという内容。若い参加者が多く、参加者同士のコミュニケーションも活発だった」(坂巻氏)。
ツアーは年2回開催されており、定員20名程度で参加費は無料。区内在住・在勤であるかは問わず、高校生以上ならどこに住んでいても参加できる。
定員が毎回すぐ埋まる人気企画で、参加者の7割は区外在住者で占められ、テーマによって参加者の顔ぶれも変わるという。この取り組みは、千代田区の魅力を区民だけでなく、区外に住む人々に広く伝えることに一役買っていると言えそうだ。
「地域連携」展示コーナーも常設博物館・美術館との連携を強化
千代田図書館内には2カ所の展示コーナーがあり、どちらも2〜3ヶ月ごとに内容を変え、常時展示を行なっている。
1カ所ではこれまで「としょかんのこしょてん」というタイトルで、神田古書店連盟との連携による古書店街や古書関連の展示が多く開催されていた。今年4月からこの展示コーナーには「地域連携コーナー」という名前がつけられ、古書関係に限らず、より幅広く区内の事業者や観光スポットなどをカバーする。
「区内の美術館・博物館との連携にも改めて力を入れていく意向」(坂巻氏)とのことで、今年8〜10月は「この秋、美術館の建物を楽しもう!」というテーマを掲げ、千代田区にある3つの美術館、東京国立近代美術館工芸館、東京ステーションギャラリー、三菱一号館美術館について紹介している。
もう1カ所の「展示ウォール」という展示コーナーでも、区内の出版社と協力するなどやはり地域との連携による展示が行われている。今年8〜11月は「〜書評キャンパス〜いまどきの大学生 解体新書」と題し、神保町にある株式会社読書人と連携して明治や上智、共立など区内にある大学の学生が書いた書評と本を展示している。
こうした展示やコンシェルジュサービスなど多角的な取り組みを通じ、千代田図書館は千代田区の情報発信拠点として大きな役割を担っていると言える。
(取材・文:ライター 井上理江)