半世紀以上も前に提唱されていた〝観光と図書館〞
旅行者、観光客のための図書館の必要性について、実は半世紀以上も前に二人の先達によって提唱されていたことをご存じだろうか。
一つは和田萬吉氏(東京帝国大学図書館長)の「旅客の為めに図書館」、もう一つは南益行氏の「観光図書館論」である。いずれも、観光における観光文化活動の重要性を認識したうえで、図書館の果たすべき役割や可能性として〝観光図書館〞を提唱しており内容に共通点も多い。これらが、前者は100年以上も前に、また後者でも60年以上前に論じられていたことは驚きに値する。これらのなかで着想・提唱されていることのほとんどは今もって実現をみていないが、現代社会における観光の役割の重要性を鑑みたとき、今後の図書館のあり方を観光という側面から考えるうえで実に示唆に富んでいる。
以下、それぞれについて一部要約して紹介する。

和田萬吉
「旅客の為めに図書館」
ジャパン・ツーリスト・ビューロー. 『ツーリスト』.
第六年第五号,1918年9月,P.17-22
○遊覧地、鉄道、汽船、ホテル等で小規模な図書館を設けることは緊切であり、特に避暑地など旅行者が長期滞在する場所では、旅行者のみならずその地域の繁栄を図る一策となる。
○汽車、汽船は単に旅行者を送迎し、旅館は旅行者を宿泊させるだけではなく、その土地の有志と協力して小図書館の設置に早く着手すべきである。
○図書館の管理・運営にあたっては片手間ではなく専任で従事する人を付けるべきである。
○蔵書の数としてはそれほど多くなくても良いが、きちんと選書したものを置くこと。
備えるべき図書としては、その地域の歴史、地理、工芸、産業などの郷土資料が第一であり、次いで高尚な文学、産業など美術書類などである。
○閲覧は無料にすべきである。貸出をする場合は一日は無料にして、それ以上の期間になる際は一定の料金を徴収することもよい。

 

南 益行
「観光図書館論」
日本図書館研究会編. 『図書館界』.第6巻第3号,1954年1月,P.109-110
○広大無辺な世界の観光資源から一地域の自然風土にいたるまで、人類は永遠に散策する。その行く先々の史蹟を物語る資料や風土保全に関する計画書などの観光資料は、必ず旅人を満足させる。
○観光図書館が中心となり高度な観光文化活動が展開されるならば、国家・社会的、文化的に大きな価値を創造し、主対象となる観光客の受ける便益も大きい。
○従来の観光事業、観光活動により文化的な面を採用し、観光図書館のframeworkを構築する。
○目的、資料構成、図書館奉仕の全活動において、特殊な専門図書館としての性格を持つ。
○資料の種類:観光地図、観光写真、ポスター、絵葉書、郷土資(史・志)料、観光リーフレットなど
○内外の観光客に対する誘致宣伝をし、図書館資料を提供する観光文化活動推進のための種々の調査・統計・研究を行い発表する。
○有能な館員または司書が参画する。
○①国又は地方公共団体、②有志者や私立観光団体により出資・維持・経営する方式がある。