11月初旬、ワインツーリズムの実態調査にフランスのワイン産地をまわった。ブルゴーニュのボーヌ、ローヌ・アルプのリヨンをまわり、ボルドーに移動、ボジョレーなどの村を訪ねた後、シャンパーニュに立ち寄って帰国した。葡萄の収穫を終え、樽に漬け込む作業も一段落といった産地の農家や醸造家は皆穏やかな顔をしていた。
訪問先の葡萄産地では、ワインツーリズムを演出するドメーヌやシャトー、メゾン(シャンパン醸造所)、観光局などを訪ね、それぞれの取り組みを伺った。10箇所ほどの地域をまわった中でひときわ印象に残ったのは、最後に立ち寄ったランスの観光局だった。お会いしたマーケティング・セールスディレクターは常に笑顔を絶やさず終始和やかな対応だった。ランスの観光の中心「大聖堂」前の事務所は観光案内所も併設されており、どのスタッフも笑顔だ。ランスはパリから1時間足らずのシャンパーニュ地方の主要都市、フランスでは人口規模で12番目の都市であり、人口は18万人。ビジネス客を含めて来訪者は年間370万人(宿泊は120万人泊)で、うち約1割が何らかの形でワインツーリズムを楽しんでいるという。ランスの観光局は、積極的に旅行商品をつくり、販売するといったことはしていない。ひたすら地域内の情報収集とネットワークづくりに徹しているという。民間の旅行会社やメゾンがつくる商品の販売の手伝いや、客の声やデータを駆使したマーケティングが主な仕事だという。町の関係機関や大きなメゾンから小さな農園まで、くまなく情報を集め、有機的な関係をつくること、それを的確に消費者に届けるプロモーションを行うことが自らの使命だと断言する。葡萄農家やメゾン、日本でも有名なシャンパンメーカーにでかけて話を聞いてもその役割分担についての理解は明確であった。生産者やホテル、レストランがそれぞれの本務に徹することで品質を向上させる、その高い品質を武器に胸を張ってプロモーションができ、その価値を買ってもらえる顧客を探し大切にもてなす。ややもすればパリから日帰りでシャンパンを飲んで帰れる立地にあって、時間消費を楽しむ顧客をどこから獲得するか。どのようにもてなすかが大きな関心ごと、そこがヒットすれば地域により光が当たる。その熱のこもったプレゼンに感心した。我々の反応を見る笑顔の中に鋭い洞察眼がぴかっと光っていたのが印象的だ。
観光推進組織がそのミッションを見失ったとき、観光客に笑顔で対応ができない姿勢が見えたとき、注意信号がなっているはずだ。多くのDMOが日本に誕生している。 「使命」と「笑顔で接する姿勢」を再検証してほしい。