特集1
株式会社型DMOを概観する

公益財団法人日本交通公社
観光経済研究部 上席主任研究員
中野文彦

観光地のマネジメントやマーケティングを担う組織、DMO(DestinationManagement/Marketing Organization)は、観光を通した地域活性化の担い手として各地で設立されているが、その一部に、株式会社であるDMOやDMOが設立した株式会社が見られる。
特集1では、株式会社であるDMOやDMOが設立した株式会社を「株式会社型DMO」として概観する。また、これまで観光施策として進められてきた地域の観光推進組織における、株式会社の位置づけについて整理する。
なお、既往文献には株式会社であるDMOをDMC(Destination Management/Marketing Company)とする例もあるが、国際的にはDMCはMICE等のビジネスミーティングを円滑に開催するためのマネジメントを担う企業(ADMEI(Association of Destination Management Executives International)による定義)とされる場合も多く、混乱を避けるために本特集では「株式会社型DMO」とする。

 

1 日本版DMOの現状と課題
全国に拡大するDMO

観光庁は、新しい地域の観光推進組織として、日本版DMO(以下、DMOとする)の形成を促進している。2015年の登録制度開始以降、年々増加し、2019年11月現在で候補法人を含めて252法人が登録されている。
DMOは北海道、沖縄県と複数都道府県に跨る区域の「広域連携DMO」、単独都道府県や複数市区町村に跨る「地域連携DMO」、単独市区町村や温泉地等の「地域DMO」に分類される。2019年11月の段階では、47都道府県全てが広域連携DMOを設置し、加えて27都府県が単独の地域連携DMOを設置している。市区町村単位では、462市区町村が地域連携DMOを、138市区町村が地域DMOを設置する等、全国的に拡大している。

DMOの役割・機能と課題
観光庁は、DMOが必ず実施する基礎的な役割・機能(観光地域マーケティング・マネジメント)として、(1)多様な関係者の合意形成、(2)各種データ等の継続的な収集・分析、データに基づく戦略(ブランディング)の策定、KPIの設定・PDCAサイクルの確立、(3)地域内の関係者による観光関連事業とDMO戦略の調整・連携の3点をあげている。また「地域の実情に応じて」としながらも、「着地型
旅行商品の造成・販売、ランドオペレーター業務等を、一主体として実施することも考えられる」と、DMOが収益事業に取り組む可能性についても言及している。
しかし、これらはあくまでもDMOの役割・機能のミニマムスタンダードに過ぎない。現状においては各々のDMOは、地域での取り組みの中で自身のあるべき姿を模索している段階にある。
実際に、観光庁は「世界水準のDMOのあり方に関する検討会 中間とりまとめ(2019年3月)」の中で、「各地域においてDMOに関する取り組みが進められる一方、地域においてはDMOに関してその役割や組織のあり方について戸惑う声も少なからず聞かれる」と課題をあげ、その対応方針を検討している。

 

2 株式会社型DMOの特徴
DMOは非営利約9割、営利約1割

2019年11月現在の登録されているDMOを見ると、その法人格は一般社団法人を中心とする非営利法人が85・7%、株式会社・合同会社からなる営利法人が13・5%となっている。
一般社団法人が最も多い要因の一つには、DMOの形成において既存の一般社団法人である観光協会を再編する例が多いことがある。
一方、株式会社であるDMOは、13・5%と少数派ではあるものの、一般社団法人に次ぐ割合を占める。また、(一社)せとうち観光推進機構、NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構、(一社)ノオト、(一社)物部川DMO協議会のように、非営利法人であるDMOが一体として活動する株式会社を設立する例も見られる。

 

事業で地域をけん引する株式会社型DMO
株式会社であるDMO及びDMOが設立した株式会社を「株式会社型DMO」として、会社概要、事業内容等が比較的明示されている30社について、設立年や出資者、事業内容等を整理した(図4、図5)。
設立年代を見ると、2015年以降に22社が設立され、特に2016年以降に設立数が拡大している。これは2015年以降の「地方創生」施策の展開によって全国の自治体で「地方版総合戦略」の策定が進み、さらに2016年に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」において「観光はわが国の成長戦略と地方創生の柱」と位置づけられる等、政策面において観光による地域の経済面の活性化がより強く打ち出されたことが背景にある。
株式会社型DMOの出資者は、地域の民間団体のみの出資は2社と少なく、最も多いのは地域の民間団体と当該自治体(市町村)が出資したもので13社である。金融機関(地方銀行、日本政策投資銀行、株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)等のファンド)等が出資に加わったものが7社、2016年以降には地域外の企業からの出資が加わったものが8社あり、株式会社型DMOの設立には当該地域以外からの参画が増えている。
事業内容を見ると、地域で提供する宿泊、飲食、物販、体験コンテンツの運営、それらの提供の核となる観光施設の運営、地域商社等の地域外への物販、着地型旅行の販売といった多様な収益事業に携わっており、DMOとして直接収益事業を行うことで、地域の活性化をけん引していることがわかる。

3 一般社団法人と株式会社
現在の日本版DMOは、約7割の一般社団法人と、1割強の株式会社に大別されるが、それぞれの法人格の違いによって、どのようなメリット・デメリットが存在するのかを整理する。

一般社団法人のメリット・デメリット
一般社団法人は、観光協会のような同業者が集まる団体の多くが選択することが多い。
メリットとしては、同業者全体のメリットになる事業の推進を掲げることによって行政等の支援を受けやすいこと、非営利法人であっても収益事業の実施も可能であり柔軟な組織設計ができること、設立・運営の事務が簡便で労力・費用が比較的かからないことがあげられる。
一方で、同業者全体のメリットを追求することによるデメリットも生じる。選択・集中した施策よりも網羅的・広範な施策になる傾向や、多数・多様な会員間の調整が必要であり状況の変化に応じたスピーディな経営判断がしづらいといった点は、特に収益事業を実施する際にはデメリットとなる。また、行政等の支援への依存度が高くなると、単年度主義的な事業運営にならざるを得ない。

しかし、相応の権限を有する少人数の意思決定機関(理事会等)を設ける、会費や参加団体からの負担金、相応の収益事業を持つといった独自の財源を設けることによってこうしたデメリットを緩和することも可能である。

株式会社のメリット・デメリット
株式会社は、事業の目的や計画に賛同した発起人、出資者が会社を設立し、事業の運営はプロの経営者に委ねることもできることから、収益事業を担うには最適な法人格とされる。
強い権限を委ねられた経営者によって、選択・集中、スピーディな経営判断が可能となり、出資者に対する緊張感のある経営が期待できる。また、利益の一部を配当できることから、出資という形での資金調達が可能であることも大きなメリットである。
デメリットとしては、収益事業であるからには相応のリスクがあり、そうしたリスクを乗り越えながら事業を持続させる経営手腕が求められる。事前の実現性の高い事業計画がなければ出資を募ることも難しい。
また、収益目的の組織であることがDMOとしてマイナスに作用することもある。例えば、公益性を重視する行政等の支援が受けられるか、地域のコンセンサスが得られるか、出資者の影響が大きく地域の意向が反映されるかといった点が懸念される。
こうしたデメリットを解消するためには、DMOとして地域の活性化に寄与する収益事業に取り組む、行政や地域の団体・住民、出資者等と十分にコンセンサスを図る、出資者の権限を信頼性の高い出資者に制限する(議決権が制限される種類株式の導入等)、運営に携わる優秀な経営者を獲得する等が必要となる。

4 観光地域づくり施策における株式会社
最後に、これまで観光庁が推進してきた、地域の観光振興に取り組む組織形成やその事業支援といった、観光地域づくり施策において、株式会社がどのように位置づけられてきたかについて触れたい。

「協議会」と「民間組織」
これまでの観光地域づくり施策は、「協議会」もしくは法人格を有する「民間組織」に対する支援を中心になされてきた。
協議会は、行政、観光事業者、農商工、NPO等の地域づくり・まちづくり団体等の多様な地域の団体が観光地域づくりに参画し、計画の策定等を通した合意形成を重視する事業に対して採用される場合が多い。
しかし、協議会自体は法人格がなく、事業を継続して実施する主体にはなりづらいことから、観光地域づくりの実行段階や事業の継続を担う組織として、民間組織(社団法人、財団法人、NPO法人、株式会社等)の主体的な参画の必要性が高まり、法人格を有するDMOの形成へとつながった。

「株式会社」への支援
「観光立国宣言」が出された2003年以降の観光地域づくり施策において、株式会社が支援対象となるのは「観光ルネサンス事業(2005〜2007年度)」が最初である。同事業は「観光カリスマ等、意欲の高い民間人による活性化の成功事例を促進する」ことを意図し、当該自治体によって認定された地域の民間組織を直接の支援対象とした事業で、株式会社も第三セクターに限り支援対象に含めた(図6)。
以降、民間組織が支援対象となる事業においては、行政との連携、協議会との連携等を前提に、株式会社を含めて支援対象とされてきた。しかし、実際に株式会社が観光庁等の支援対象になった例は、着地型旅行等による収益事業の確立が重視された「観光地域づくりプラットフォーム支援事業(2011〜2012)」における3団体のみであった。
しかし、「「稼ぐ力」を引き出す観光地域づくり、「稼ぐ力」を地域の中で生み出していく取り組みの推進(観光立国推進基本計画(2017年))」以降の支援事業では、政府系金融機関によるDMOの設立・事業への資金や経営面での支援実施が示され、株式会社への支援策としても活用されている。

 

5 事例調査、関係者インタビューのねらい
株式会社型DMOは、地方創生、特に観光振興による地域経済の活性化への期待を背景に、少数ながらも近年その数は拡大している。また、その設立には地域の民間団体、行政のみならず、金融機関、時には地域外の企業が出資等の形で参画している例も増えている。
しかし、リスクもある収益事業を実現し、持続的に運営するには、実際には多くの困難が伴う。
そうした株式会社型DMOの実態を把握するため、特集2では7社を事例として取り上げた。
事例の選定は、出資者や設立過程に着目し、地元企業有志による設立、地元の民間団体と行政が連携した設立、地元の民間団体、行政に金融機関が加わった設立、さらに地域外からの資本参加を得た設立といった4つの分類を基に選定した。また、一般社団法人として収益事業にも取り組む1社を参考事例として取り上げた。
特集3では、特に人材、組織づくり、財源の面から見た株式会社型DMOについて、実際にその設立に携わった金融や人材育成の専門家にインタビューを行った。
こうした事例、インタビューをもとに、株式会社型DMOの実態、課題や展望について考察を行う。

 

【主要参考文献】
○観光庁(2019年)世界水準のDMOのあり方に関する検討会中間とりまとめ
○観光庁(2018年)「日本版DMO」形成・確立に係る手引き
○株式会社日本政策投資銀行(2017年)観光DMO設計・運営のポイント