視座
株式会社型DMOの課題と展望
公益財団法人日本交通公社・観光経済研究部・上席主任研究員
中野文彦
1 株式会社型DMOが生まれる背景
現在、全国的に広がるDMOは、一義的には地域の「稼ぐ力」を引き出す役割が求められる。
そのため、データ分析、戦略立案、合意形成、プロモーションといった、公益的な機能が重視されている。しかし、観光は、集客のみならず、観光客にとって価値ある消費機会を地域内で提供する、つまり「実業として稼ぎながら地域に貢献する事業」を創らなければ地域活性化につながらない。
株式会社型DMOが近年増加しつつある背景には、観光による地域活性化を目指す地域が、公益的な事業に限らず、地域に貢献する収益事業も必要とする段階へと移行しつつあることがあげられる。
2 株式会社型DMOの設立と運営のポイント
特集2では、出資者のタイプを4分類し、それを踏まえた事例を取り上げた。ここではタイプ分類を基に事例ごとの設立の背景や運営のポイントについて考察する。
地元民間企業等による設立
「株式会社ディスカバーリンクせとうち」は、地元の経営者ら有志が設立した株式会社であるが、一民間事業者としてのスタートであった点が他の事例と異なる。
農業や商工業と連携し実績を積むことで、現在では行政や観光協会とも連携して地域の活性化に取り組むDMOとして、地域の中で位置づけられている。
参考として取り上げた「一般社団法人BOOT」は、非営利法人でも地域活性化に貢献する収益事業が可能であることを示す事例である。有志による設立や実績を示すことで地域の活性化の核となる等、ディスカバーリンクせとうちとの共通点は多い。しかし、自社事業の拡大よりも「パブリックな目的を持つ株式会社を生み出す仕組みづくり」を志向する等、公益性を重視する姿勢が示されており、他の株式会社の取り組みとは一線を画する。
地元民間団体と行政による設立
「大雪山ツアーズ株式会社」は地元の民間団体と行政による出資によって設立された。
そのポイントとしては、長年にわたって行政、観光業、農業、商工業等のトップ層による協議会が設置され、地域活性化にとっての観光事業の重要性が地域内の共通認識となっていたことがあげられる。こうした共通認識のもと、大雪山ツアーズの設立・運営が地域にとって重要であることに対して、議会を含めた地域内の合意形成、農商工業との連携がスムーズに行われた。
また、こうした共通認識は、大雪山ツアーズにも大きく影響し、雇用の場、農業・商工業への効果の波及を自社の使命として掲げ、地域に貢献するという役割を明確に持った運営を志向している。
地元民間×行政×金融機関による設立
「株式会社有田まちづくり公社」「株式会社ものべみらい」は双方ともに地元金融機関による観光活性化ファンドを活用している。同ファンドの特徴は、出融資のみならず経営人材の派遣による設立・運営支援(ハンズオン支援)にある。実際に両社の代表は株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)出身者が務めている。
両事例では、こうした人材面での優位性とともに、地域経済活性化の主役はあくまでその地域の事業者・人材であることが強調されている。
有田まちづくり公社は「朝飯会」といった地域の多様なプレーヤーとの密なコミュニケーションの場、ものべみらいは個別地域・事業に取り組むグループ会社の形成プロセスにおけるひざ詰めの議論の場を、それぞれ有している。
株式会社型DMOが地域に根付き、事業を創る・地域をけん引する会社として機能するためには、こうした地域と外部専門家のつながりが重要なポイントとなっている。
地元民間×行政×金融機関×地域外企業による設立
「阿寒アドベンチャーツーリズム株式会社」「株式会社NOTE」は、地域外の企業からの資本参加も得て設立された。両社の共通点として、既に実績を積み重ねてきたDMO(非営利法人)が設立の中心であったこと、地域や事業のコンセプトが明確であったこと、地域の実績を基にした外部企業とのネットワークを有していたことがあげられる。
地域外の企業から資本参加を得るには、厳しい評価に耐えうる事業スキームが求められる。
両社においては既存DMOと明確に役割を分担した株式会社を設計し、実績を踏まえた事業スキーム、体制を構築できたことが、大きなポイントとなった。
また、運営面においても、地域内外のネットワークが人材面や事業展開においても有効に機能している。
3 株式会社型DMOの課題
株式会社型DMOの課題として、特集3において特に指摘されているのは「収益性の確保」「実績の見える化」「人材育成」である。
収益性の確保については「実業として稼ぎながら地域に貢献する」ことが求められるため、地域の課題や実情に応じて事業分野が制限されることもあり、ハードルは高い。また事例に見られるように、採算性が低い事業の再生が求められる場合もある。そのため、行政や金融機関による資金や人材支援を得ることの重要性も指摘されている。
実績の見える化については、小さくても事業を確実に形にし、実績として積み重ねることが求められる。実績を見せることによって、地域の中での理解促進、事業への巻き込みを図り、地域をけん引する役割が期待される。
また、自社の価値を出資者等に客観的に示す指標として、自社の収益以外にも地域の雇用創出数や他企業への波及効果を示す例もある。
人材育成については、地域内外から経営人材を発掘し、数年単位でノウハウを移行することが必要となる。
そのためには正規スタッフを雇用できる体力を持つことが大前提となる。しかし、株式会社型DMOが雇用の受け皿となることができれば、地域活性化に関心の高い人材を地域内外から獲得し、事業を通した育成が可能となる等、地域の実践的な人材育成・輩出という役割を果たすことも期待できる。
4 結び/株式会社型DMOという挑戦
最後に、地域活性化に向けた地域全体の体制という視点で、本特集を通して得られた2つの示唆を示す。
公益事業と収益事業の二層構造
特集2に見られるように、株式会社型DMOは収益事業を通して地域、特に地域内の産業をけん引する体制として期待される。しかし、株式会社型DMOはそれ単独では十分に機能しない点に注意する必要がある。
本特集で取り上げた地域においては、必ずしも明文化されていない場合もあるが、行政や観光協会といった地域の公的な役割を担う組織と、収益事業を担う株式会社は、同じ目的に対して役割・機能を分担する体制として双方が位置づけられている。
今後の地域の観光推進体制の在り方の一つとして、公益事業と収益事業をそれぞれ別の組織が担う二層構造の体制という選択肢があることは、本特集を通じて得られた示唆の一つである。
株式会社型DMOは戦うチーム
株式会社型DMOの設立は、リスクを負ってでも実現すべき収益事業に取り組むという、地域にとっての大きな挑戦とも言える。こうした挑戦をするにあたって、最も重要な点は「実際に戦えるメンバー、勝てるメンバーを選ぶこと」と、特集3の中で指摘されている。
現状においては、こうしたチームづくりが可能な地域、戦える土壌がある地域ばかりではないだろう。しかし、地域にとって有効なDMOとは何かを真剣に検討すること自体が、地域で戦うチーム作りの第一歩になる。
今回、株式会社型DMOの取材を通してお話をうかがった地域も、はじめからチームがあったわけではない。地域の中で株式会社を創り、運営するという挑戦をしながらチームが生まれたのである。
本特集は、DMOの中でも特色ある事例に着目したものであるが、DMOとして、また公益的な目標を持つ株式会社として、魅力ある地域とそこで活動する方々から示唆に富むお話を伺うことができた。あらためて感謝を申し上げたい。
本特集が現在DMOの構築を検討している地域の方々、あるいはDMOとして活動している地域の方々にとって、今後の取り組みの一助になれば幸いである。 (なかの ふみひこ)