観光研究最前線…①
諸外国におけるCOVID-19への対応状況
海外の研究者(スペイン、スイス、ドイツ、フィリピン)からの情報提供より
公益財団法人日本交通公社観光政策研究部
執筆:戦略・マネジメント室長/上席主任研究員
守屋邦彦
1.はじめに
公益財団法人日本交通公社観光政策研究部では、当財団の独自財源を活用した研究(自主研究)「これからの観光政策に関する研究」の一環として、当部が研究交流のある各国・地域の研究者を対象に、自国全体および観光地におけるCOVID-19への対応状況についてヒアリング(メールにてヒアリング項目を送付し、回答を文書にて受領)を行っている。
第1回のヒアリングは、2020年4月中旬〜5月下旬に実施し、その結果は6月に当財団ホームページで公開済となっている(参照:https://xb069601.xbiz.jp/research/data/covid-19-world-destinations/)。
当時はいわゆる第1波に対応して多くの国・地域がロックダウンの措置を取っており、経済活動への制約を大きくすることへの対応として、国や州、自治体などが各種の経済措置を行っていた。またいくつかの国・地域では、COVID-19からの復興に向けた各種制限の緩和方針(ロードマップ)を示していた 。(※1)
第2回のヒアリングは、2020年9月に実施した。今回は第1回のヒアリング以降の各国・地域の状況変化に加えて、バカンスシーズンである7〜8月の時点での状況や対策をヒアリング項目とした。
本稿は第2回のヒアリングにご協力をいただくことのできたスペイン、スイス、ドイツ、フィリピンについて、第1回のヒアリング結果と併せてその内容を整理したものである。なお、COVID-19の状況はまだまだ流動的であり、各国・地域の状況も常に変化していることから、内容は調査時点での状況の「記録」的な位置づけとなる。本稿の内容を活用する際には、必要に応じて、各国・地域、事業者等の最新状況をご確認いただきたい。
2.スペインの状況
2-1…COVID-19による消費活動への制約の状況
【①第1回ヒアリング(4月17日)】3月15日から完全にロックダウンとなり、一切の経済活動は禁止で破った人は厳罰となる。屋外でのスポーツも禁止である(子供も含む)。この状況は、今後数週間から数か月は変わらないと思われる。労働以外の理由で外出することは禁止されており、観光やレジャー目的の行動は厳しく規制されている。
【②第2回ヒアリング(9月16日)】スペインは急速な感染拡大に対応している最中で、特にマドリードは深刻な状況である。他の地域はマドリードに比べればまだ良い状況である。
スペイン国内およびヨーロッパ内での移動の制限はなくなった。ただし、イタリアのように観光客に対して検査を義務付けている国もある。また、観光客に対して、入国後の一定期間の隔離を義務付けている国もある。EU圏外との定期便はまだ復活していない。
2-2…COVID-19によるホスピタリティ産業への制約の状況
【①】全ての形態の宿泊施設(ホテル、アパートメント、キャンプ場など)とレストランが営業を停止しており、レストランはテイクアウトのみ営業が許されている。また、バー、パブなども含めたあらゆるタイプのレジャー施設におけるアクティビティは禁止されている。
【②】スペイン国内のレストランやバーは、席の間隔を1.5メートル以上空けるよう要請されており、バーカウンターの使用を制限しているケースもある。特に感染者の多い地域や州では、座席数が50%に減らされており、1つのテーブルに6人以上座ることを禁止している。
2-3…国、または自治体からのホスピタリティ産業への経済的支援の状況
【①】政府は、低い金利での融資制度を発表している。また、納税は毎月ではなく長期間の単位でできるようになっている。銀行のローン返済は延期を認めている。オーナーとテナントの個人的な契約については、賃料の支払いを一時停止または軽減しているケースが見られる。
【②】観光業に対する特別な支援はないが、観光関連企業の従業員には一時的な補償金が支払われている(スペイン語でERTEと呼ばれている)。これは失業補償のようなものであるが、企業が危機的な状況から脱した際に従業員が元のポジションに戻れるようにする目的のものである。また、いくつかの地方で、一部の事業者について税金の一部免除を行っている(例えば、公共スペースやテラス/ラウンジの使用を無料にするなど)。
2-4…国、または自治体からのホスピタリティ産業への金銭以外の支援の状況
【①】(回答無し)
【②】国からの支援は特に無い。
2-5…DMOによる対策や支援策の状況
【①】DMOは、イノベーティブなマーケティングキャンペーンを実施して、観光の迅速な回復を目指している。また、一部の観光地では、様々なシナリオを想定して復旧計画に取り組んでいる。なお、資金調達元の深刻な状況を受けて、DMOのファンドは減少する見込みである。
【②】(回答無し)
2-6…昨年と比較した、この夏(7-8月)の観光客数の状況
【②】正確な統計はわからないが、国際線のフライトは昨年に比べて70〜80%減少している。国内の旅行者数は例年並みに戻っている。
2-7…この夏(7-8月)の観光需要の刺激策の状況
【②】特に無い。政府は、今年中は海外ではなく国内で旅行するよう推奨している。
2-8…この夏(7-8月)に観光地において行われている感染症対策の状況
【②】多くのビーチにおいて、ビーチへ出入りする人をコントロールするため、様々なシステムが導入されている。地方自治体では、感染症対策のために多くの人が雇われた。
マスク着用はスペイン国内の全ての場所、時間において強制されている。また、ソーシャルディスタンスの確保や手洗いを多くの人が行っている。ただし、あまり対策をせず、活発に活動する若者の間での感染率は高くなっている。
バーやレストランが午前1時に閉店するため、8月中旬以降は夜の活動(ナイトライフ)はほぼなくなっている。
2-9…COVID-19対策やWith/Post COVID-19の観光産業についての個人的な意見等
【①】(回答無し)
【②】スペインでは、現在に至るまでCOVID-19のコントロールはできておらず、まずは感染者数を減らすことが優先されている。観光が回復するのは2021年と思われるが、今年の秋、冬は、観光業界にとって非常に厳しいシーズンになると予想している。これまでも観光関連企業が大きな打撃を受けてきているが、壊滅的な状況がさらに数か月続くと考えている。
日本はスペインよりも感染症のコントロールができていると思う。文化(culture)がパンデミックのコントロールには重要な役割をもつと個人的に思う。
回答者:Dr.Paco Femenia(Lecturer,Universidad Nebrija)
3.スイスの状況
3-1…COVID-19による消費活動への制約の状況
【①第1回ヒアリング(4月28日)】国境は基本的に閉鎖されており、仕事が理由の行き来だけが許可されている。
【②第2回ヒアリング(9月21日)】旅行の制限はないが、感染者数の多い国からの受け入れもあるので、国内の全ての公共交通機関においてマスク着用が義務づけられた。
スイスは連邦制の国であり、州(canton)がクラブ、学校、商店、大学など様々な領域に対して、マスク着用や閉鎖措置などの安全対策について権限を持っている。
3-2…COVID-19によるホスピタリティ産業への制約の状況
【①】3月15日から6月8日までケーブルカーやレストランは閉鎖(テイクアウトは可能)、ホテルは物理的距離や衛生面での対策を考慮すれば観光客を受け入れることができるが、実質的には全てのホテルが閉鎖されている状況である。
【②】全ての密閉状態の公共交通機関において、マスクの着用が義務になっている(船のオープンデッキは除く)。また、10月までは、屋内外問わず大規模なイベント(1000人以上)は行わない。
3-3…国、または自治体からのホスピタリティ産業への経済的支援の状況
【①】連邦政府は短時間労働者の補償として、無担保で総額50万スイスフラン(約5500万円)(※2)までの特例的な融資額拡大を実施している。
観光産業への追加的な支援は現在まで行われていない。現在、全てのホテル、レストラン、ケーブルカー、その他の観光インフラを6月8日までに再開させたいとの要望があり、スイス観光局は今後2年間のキャンペーンのために4000万スイスフラン(約44億円)を追加要求している(ただし、個人的にはこれは全く効果がないと考えている。※3-9のコメント参照)。
【②】融資や雇用調整への補償は続いている。ツアーオペレーターや旅行代理店は急に活動を禁止されて仕事がなくなったが、多くが自営業であるため失業給付を受け取れていない。この問題に対しては、この秋に解決される見込みである。
3-4…国、または自治体からホスピタリティ産業への金銭以外の支援の状況
【①】(回答無し)
【②】特に無い
3-5…DMOによる対策や支援策
【①】全てのDMOが現在、Post COVID-19の復興策として、地元の人々や近隣地域からの観光客を通じた地域活性化に向けた計画を立てている。
【②】(回答無し)
3-6…昨年と比較した、この夏(7-8月)の観光客数の状況
【②】主要な観光地では観光客が回復していると報告されている(回復している地域でも多少の収入減はあると思う)が、ビジネス旅行が無くなった大都市や、インターラーケン(Interlaken)やルツェルン(Luzern)のような内陸にある観光地では、特に大きな損失を被っている。
3-7…この夏(7-8月)の観光需要の刺激策の状況
【②】国や州をまたぐ広域のDMOによる広告キャンペーンがあった。一部の地域では、クーポン券、観光カードのサポート、パッケージツアーなどが提供されている。
3-8…この夏に観光地において行われている感染症対策の状況
【②】第一段階では、安全管理のコンセプトに基づく距離の確保や衛生対策について、業種や自治体レベルでコントロールしている。第二段階(7月以降)では、第一段階に加えて、公共交通機関でのマスク着用を徐々に浸透させている。
3-9…COVID-19対策やWith/Post COVID-19の観光産業についての個人的な意見等
【①】Post COVID-19に向けて、地元の人々が外に出て生活を楽しむことから始めなければ、訪問者はその場所を安全だと思わないし、滞在を楽しむことはできないだろう。例えば、感染リスクが高いような印象を抱いてしまう場所を避け、パブリックなオープンスペースを使い、周囲の人との距離を保って行動するような状況になると思われる。
また、広告キャンペーンに莫大な金額を投じても無意味であるため、強く反対である。観光産業のCOVID-19からの復旧にはそれよりも重要な点が多数あると考えている。
【②】メディアが政治に対して、マスク着用や活動の制限(パブやレストランの営業制限など)について煽るため、旅行やレジャーが問題となっている。
病院ではほとんど症例がないのに、過剰に感染者を出さないようにするような今の戦略には疑問が高まっている。
回答者:Dr.Pietro Beritelli(Professor,University of St.Galken)
4.ドイツ
4-1…COVID-19による消費活動への制約の状況
【①第1回ヒアリング(5月19日)】初めの頃はロックダウンの措置が取られた。5月以降は、レストラン、ミュージアム、映画館は営業再開している。パブやクラブはまだ再開していない。
【②第2回ヒアリング(9月30日)】地域によって状況は異なっている。
4-2…COVID-19によるホスピタリティ産業への制約の状況
【①】ロックダウンの措置が取られた際には、一部の国内出張は許可、レストランはデリバリーとテイクアウトのみ営業可能、国境は閉鎖、ビーチや離島への出入りも禁止といった措置が取られた。5月以降は、慎重に再開されている。
【②】(回答無し)
4-3…国、または自治体からのホスピタリティ産業への経済的支援の状況
【①】緊急の助成金やローン、減税措置、資金不足の事業者への救済措置(議論中)、全ての労働者に対する収入減の補償が行われている。
【②】(回答無し)
4-4…国、または自治体からのホスピタリティ産業への金銭以外の支援の状況
【①】特に無い。
【②】(回答無し)
4-5…DMOによる対策や支援策の状況
【①】不明。
【②】(回答無し)
4-6…昨年と比較した、この夏(7-8月)の観光客数の状況
【②】ベルリンは2019年の半分以下となっている。
4-7…この夏(7-8月)の観光需要の刺激策の状況
【②】(回答無し)
4-8…この夏(7-8月)に観光地において行われている感染症対策の状況
【②】全ての場所において、ソーシャルディスタンスの確保とマスクの着用などが行われている。
4-9…COVID-19対策やWith/Post COVID-19の観光産業についての個人的な意見等
【①】長距離の旅行ではなく国内、欧州内の旅行が中心になる(ただし、これも深刻な第2波が来た場合には難しい)。世界的な経済危機は数年間続くと考えられ、旅行業界は50年代や60年代の水準まで落ち込むのではないか。
【②】将来のことは予測できない。
回答者:Hasso Spode(TU Berlin(ZTG/CMS):Historisches Archiv zum Tourismus(HAT))
5.フィリピン
5-1…COVID-19による消費活動への制約の状況
【①第1回ヒアリング(5月1日)】2月に首都圏の学校で1週間授業の中断され、その後ルソン地区(ビサヤとミンダナオは除く)が「General Community Quarantine(GCQ:一般検疫)」、マニラ近郊を含む一部の地域で、「Enhanced Community Quarantine(ECQ:強化検疫)」が実施された。
GCQは感染拡大のリスクが低い地域に出されたもので、その内容はソーシャルディスタンスの確保、公共の場でのマスク着用、検温の義務化、消毒液の使用などである。一方ECQは厳しい外出制限、移動規制(大量輸送の停止)、食料品店・銀行・医療機関以外の企業の営業停止である。GCQが実施された地域では、ソーシャルディスタンスを確保(最低でも人々の間の距離を1メートルとるように制限)していれば公共交通機関の利用は許可され、重要な会議や宗教活動もできるが、それ以外の人が集まる行為は禁止されている。
【②第2回ヒアリング(9月22日)】
5月以降、レストラン、ミュージアム、映画館は営業再開している。パブやクラブはまだ再開していない。
5-2…COVID-19によるホスピタリティ産業への制約の状況
【①】GCQが実施されたエリアでは、宿泊施設のうち、長期予約、5月1日時点で外国人向けの宿泊施設があるホテル、苦境に陥っている海外フィリピン人労働者、足止めされたフィリピン人や外国人を収容しているホテルに限り営業が許可されている。5月1日以前は、ホテルやその他の接客業は、3月17日(ルソン全域への検疫措置の発動)以前に宿泊予約をした宿泊客がいる場合、既存の長期賃貸契約をしている宿泊客がいる場合、ロックダウンの対象外となった施設の従業員を宿泊させている場合に、営業が許可されていた。
【②】ホテルは、一般の観光客が利用することはできない。ホテルの予約ができるのは。医療従事者、その他必要な労働者、海外からの帰国者で隔離が必要な人のみである。
レストランは営業再開しているが、地域の感染拡大レベルにより収容人数に制限がある。
5-3…国、または自治体からのホスピタリティ産業への経済的支援の状況
【①】(回答無し)
【②】国の議会での多くの審議を経て、2020年9月11日にバヤニハン1の改訂版であるバヤニハン2(Bayanihan to Recover as One Act 2)が、大統領によって署名された。
感染症対策として1655億ペソ(約3575億円)の資金を投入する。また、政府系銀行に対して、追加で394億7000万ペソ(※3)(約852億5000万円)を投入し、特に小規模な事業者への融資を拡大する。
バヤニハン2による観光産業への追加支援としては、公共事業道路省による観光道路インフラへ10億ペソ(約21億6000万円)、観光省認定企業とその離職者を支援するCash-for-work programとして労働雇用省から30億ペソ(約21億6000万円)が充てられた。また、バヤニハン2の一環として、銀行やその他の金融機関への全てのローンの返済を60日間猶予することが決まっている。
省庁間タスクフォース(IATF)では、マニラを含む、GCQ下にある地域を対象とした「Staycation」の概念を承認している。これは、同じ地域に住む人々が、レジャー目的で少なくとも1泊分のホテルを予約して宿泊できるというものである。観光省は、IATFのコメントや提案に基づいて、GCQの下での滞在に関する覚書を発行する予定である。これは、レストランやレクリエーションエリアなどでの付帯サービスの使用から客室内の人の最大許容数に至るまで、この活動に関与するすべての側面で特定の規制をするものである。
トラベルバブルが実施されるのは、COVID-19の感染がほぼゼロかゼロに近い地域である。パイロットエリアは、バギオ市と北ルソンの近隣県である。これが成功すれば、国内の他の地域にも広げていくと思われる。
国家非常事態宣言は2021年9月まで延長され、地方自治体が被災者を支援するための緊急資金をより容易に活用できるようになった。
5-4…国、または自治体からホスピタリティ産業への金銭以外の支援の状況
【①】観光省は、観光関連企業とその従業員の再生を支援するため、COVID-19発生の初期段階で観光復興支援プログラムを実施してきた。観光省の当面の対応策には、2020年中の観光事業者及び観光関連事業者の新規認定料および更新認定料徴収の猶予が挙げられる。
【②】(回答無し)
5-5…DMOによる対策や支援策
【①】The Tourism Infrastructure and Enterprise Zone Authority(TIEZA)は、COVID-19の経済的影響を考慮し、その回復プロジェクトのための観光開発プログラムに140億ペソ(約295億4000万円)を割り当てると表明した。TIEZAは、観光省や他の関連した政府機関および民間の観光事業者等のステークホルダーと共に観光事業のセクターを再活性化し、COVID-19が沈静化した後、観光関連の企業および労働者に事業の機会を与える方針である。
【②】(回答無し)
5-6…昨年と比較した、この夏(7-8月)の観光客数の状況
【②】1月から7月までの来訪者数は2019年の27%にとどまっている。観光省次官のベニト・ベンゾン・ジュニア氏は、2020年1月から7月までの来訪者数が約130万人しか記録されておらず、2019年の同時期の外国人観光客数485万2107人から減少していると述べた。氏はまた、観光収入が同期間に72%(810億ペソにまで)減少したことを報告した。
5-7…この夏(7-8月)の観光需要の刺激策の状況
【②】観光地はクローズしたままの状態である。
5-8…この夏(7-8月)に観光地において行われている感染症対策の状況
【②】(観光地クローズのため回答無し)
5-9…COVID-19対策やWith/Post COVID-19の観光産業についての個人的な意見等
【①】フィリピン政府をはじめとする社会福祉系の各部門は、悲惨な状況に対処するために最善を尽くしているが、本当に困難な状況であり、今後も続くと思われる。国際的にも国内的にも観光業は苦戦し、「new normal」に適応しなければならない。
「new normal」では、観光産業の生存能力(viability)を再評価することになると思う。COVID-19は、パンデミックに発展する危険性が高く、外部要因に左右されることがわかっている。投資家、政府、親と子どもたち(産業の将来を担う人々)は、観光産業をパンデミック前の行き過ぎたプロモーションに見合う価値がなく、生存不可能な産業だと考えるかもしれない。そうなれば、観光産業から資源や人材が遠ざかる可能性があり、産業にとってはさらに悪い時代が到来することになる。
このようなことが起こらないように、ステークホルダー間で協力して取り組むべきである。長期的には、観光産業が回復力を強化し、地域社会と協力し、持続可能な形の観光産業を提唱することで、観光産業が地域社会の回復と開発の良きパートナーとなりうることを示すことに注力しなければなりません。これらのことが、観光産業の存続を確実なものにすると考えている。
回答者:Edieser Dela Santa(Associate Professor and Dean,University of the Philippines)
6.おわりに
本稿では、2020年4月中旬から5月下旬および9月に実施した、当部が研究交流のある各国・地域の研究者を対象として行ったヒアリング結果を整理した。お忙しいところご回答をいただいたDr.Paco Femenia、Dr.Pietro Beritelli、Hasso Spode、Edieser Dela Santaの各氏にはこの場を借りて改めて厚く御礼を申し上げたい。
この結果から、スペイン、スイス、ドイツ、フィリピンの4か国という限られた範囲での状況ではあるが、4〜5月にはかなり厳しい制限がかけられていたものが、9月には「新しい生活様式」に対応しながら人の動きも徐々に戻ってきている様子がうかがえる(フィリピンは欧州に比べるとまだ厳しい制限がある)。また、ホスピタリティ産業への支援に関しては、各国において失業補償のような対応は取られているものの、日本のGoToトラベルキャンペーンのような旅行者側に対する支援はみられないことがわかる。
今夏については、欧州では欧州域内の移動が可能となっていることもあり、観光地の特性によってバラツキはあるものの、来訪者数が回復してきている状況がうかがえる。また、感染症対策については、スペインやスイスの状況をみると、概ね日本と似たような対応がなされているものと考えられる。
世界的な経済の停滞により、国際的な旅行需要の回復には一定の時間が必要と考えられるが、世界の各国・地域の観光分野での様々な取り組みにより、安全・安心を確保しつつ旅行ができる環境は着実に作られていくように感じられる。我々としても、今後も海外の研究者の方々との連携を図りながら、様々な知見の抽出、提供を引き続き進めていきたい。
※1…観光文化246号 観光研究最前線「諸外国におけるCOVID-19対応ガイドライン-2020年4~5月の状況」参照
※2…1スイスフラン=110円で換算。以降も【①】では同様に換算
※3…1フィリピンペソ=2.16円で換算。以降【②】では同様に換算