活動報告第20回「たびとしょCafe」
「地域・社会が一体で取り組む歴史的建築物の活用」を開催
2020年12月4日(金)、「地域・社会が一体で取り組む歴史的建築物の活用〜一般社団法人ノオトの活動の現場から〜」をテーマに、第20回たびとしょCafeを開催しました。
現在、日本には150万棟ほどの歴史的な古民家、戦前の建物があると言われています。しかし、地域の暮らしが歴史として刻み込まれたそれらの建物は、残念ながら次々と空き家となり失われています。
一般社団法人ノオトは、「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」をコンセプトに、その土地に根ざした暮らしや生業を尊重しながら、歴史的建築物と地域文化、そして産業の一体的な再生に取り組んでいます。「郷にいること」を大切にして各地域の現場で事業に取り組む一方、「NIPPONIA」の考えに共感する仲間を増やし、全国に取り組みを展開しています。
一般社団法人ノオトの伊藤氏をお招きし、古民家リノベーションの現場の取り組みをご紹介いただきました。
後半の質疑応答では、地域住民との信頼関係の深め方、地域性を具体化する方法、地域ごとの事業体制、株式会社NOTE(代表:藤原岳史氏)やNIPPONIAに集う人材、コストや価格設定の考え方、次に展開する地域を決める際の基準など、多くの質問が寄せられ盛り上がりました。
【第1部】話題提供
NIPPONIAの目的
● 明治維新と終戦を契機に一気に増加した日本の人口は、現在、少子高齢化と人口減少が進んでいる。この状況下で、江戸時代以前に成立した歴史地区と呼ばれる地域は、多くの場合切り捨てられてしまうことが多いが、歴史を積み重ねてきた地域が一つなくなることは、日本が積み重ねてきた文化が丸ごと一つ消失することを意味する。そのことにノオトは強い危機感を感じ、歴史地区に残る空き家となった古民家を改修し様々な業態に活用する事業に取り組んでいる。この取り組みをNIPPONIAと称している。
● 歴史地区が確立しているヨーロッパでは、昔の町並みや地元住民の生活や暮らし文化の中に滞在する歴史地区観光が主流。一方、日本の場合、部分的に趣のある町並みが残ってはいるものの、街全体としての面影は残っていないケースが多く、これまでの観光地化とは都市開発とほぼ同義であったと捉えている。NIPPONIAが目指しているのは、日本の暮らし文化を体験できる地方のポテンシャルを見出し、地域に光を当てること。
● 日本には約150万棟の歴史的建築物が残されているが、そのうち指定文化財となって保存措置が取られているものはたったの約1.5万軒に過ぎず、残る147.5万軒は活用に困っている状態。ノオトはこれを多くのお宝が眠っている状態と捉え、歴史的な建物や町並みを次世代に引き継ぎ、生業を生むような事業や仕組みを作っていきたいと考えている。
NIPPONIAの活動経緯
● 2016年3月に示された「明日の日本を支える観光ビジョン」では、「我が国の文化財について、保存優先から観光客目線での理解促進、そして活用へ」とうたわれ、歴史的建造物・建築物の活用が明確に示された。
● 2016年9月には「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」が立ち上がり、ノオトも丹波篠山でのそれまでの取り組みを発表する機会を得た。ここでの議論を経て、2020年までに全国200地域で歴史的建築物を活用した事業づくりを国としても推進していくという方針が打ち出された他、旅館業法改正、建築基準法見直し、文化財保護法改正による文化財概念の拡張などが相次いで行われ、この5年間で歴史的建築物を活用していく機運がかなり高まった。
● こうした追い風を受けて始まったのがNIPPONIAの取り組み。NIPPONIAは単に宿泊施設の名称ではなく、運動・活動の総体を指す名称。「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる。」をスローガンに掲げ、高度経済成長の中で一般化されてきたグローバル経済の考え方を見直し、地域のローカルな暮らしの中にこそ本当の豊かさがあるのではないか、という考えに基づいて取り組んでいる。
NIPPONIAが大切にしている価値
● NIPPONIAが大切にしている価値は「郷にいること。」というフレーズに凝縮される。2014年に地方創生という言葉が誕生してからも、東京一極集中の流れはそれほど変わっていない。ノオトは、地域の中で内発型の産業をつくること、地域の中で経済の循環をつくること、地域住民とともに未来を描くことにこだわっている。こうした地域単位の取り組みの上に、地域外の人に現地を訪れてもらい、地域に流れる時間を体験してもらうことを目指している。
● ローカルの世界には、近代的な経済合理性に基づく考え方ではなく、純粋な「好き」という気持ちに支えられて「なつかしい日本の暮らし」が残されてきた。NIPPONIAの仕組みは、ローカルな思想や価値の継承のために、グローバル経済やグローバル社会の中で培われてきた汎用性や持続性のある手法を活用する、というもの。古民家や地域性を事業差別化のための付加価値として捉えるのではなく、グローバルな事業はローカルの継承という目的達成のための手段と捉え、事業化を行っている。
事業体制
● 現在、NIPPONIAの施設は全国に23地域。1年後には30以上の地域に広がる予定(2020年12月4日当時)。
● NIPPONIAの中心を担っているのがノオト。篠山市(当時)の第三セクター数社を統廃合し、民間の非営利まちづくり会社として、2009年に一般社団法人ノオトが誕生した。初期は一般社団法人ノオトの中で公益事業と収益事業の一部を抱えていたが、現在は収益事業を事業譲渡する形で株式会社NOTEを立ち上げ、2社体制を築いている。二つの法人形態を取りつつも、一つのチームとして事業を進めている。
● 各地のプロジェクトでは、必ず各地域の名士と呼ばれる方や地元の若い青年部などとともに事業を推進する法人を立ち上げ、ノオトも常に一緒にリスクを取りながら、一心同体の事業パートナーとして事業をつくっている。そのため、株式会社NOTEの関連会社は約27〜28社と多い。
具体的な取り組み…❶ 古民家の宿 集落丸山(兵庫県丹波篠山市)
● 集落丸山はノオトにとって原点ともいえるプロジェクト。丸山は山に囲まれた細い谷筋にあり、城下町から10分ほどにある小さな集落。2009年当時は12軒中7軒が空き家となっており、このうち3棟を改修し、現在では2棟を1棟貸しの宿として地域住民が運営している。
● 改修にあたっては、文化財改修の考え方を踏襲し、その建物が一番輝いていた時期に戻している。屋根の断熱のために貼られていた天井や壁は丁寧に直しつつ、必要以上の改修は行っていない。食事は、夕食は宿泊棟に隣接する蔵で営業を始めたフレンチレストランや、集落内のそば会席等で楽しめる。朝食は地域のお母さん方が提供している。
● プロジェクト始動時、地域住民で一つのNPOを立ち上げ、このNPOと一般社団法人ノオトが有限責任事業組合(LLP)を組むという、非営利団体同士のLLPという珍しい形で、宿泊事業の運営を開始した。
● 普通の暮らしを体験したいという宿泊客のリクエストを受けてしめ縄作り体験を始めたり、結婚式場として使いたい、水田で酒米を育て日本酒を造りたいという申し出があるなど、古民家を活用した宿泊業という生業をつくったことで、様々な交流も生まれた。また、Uターン1世帯、Iターン1世帯と人口も増えた。現在は、集落の完全再生を目指して残る空き家の活用を計画している。
● 3棟の改修には約7000万円を投資し、10年間で返済する事業計画とした。宿泊棟の稼働率は30%という低水準に設定している。これは、地域住民自らが運営することで、お客様に日本の暮らしを体験してもらうことをコンセプトに掲げる以上、地域住民に過度な負担をかけてしまっては継続しないため。普段は農業などの他の仕事をしているため、土日と繁忙期に稼働すれば10年で返済できるという計画を立てたところ、10年で完全返済を達成した。現在は、得られた収益を物件の改修費などに充てている。
● 一般社団法人ノオトの前代表理事である金野幸雄氏は、市役所勤務時代に景観条例や規制により限界集落である丸山の景観保全を行おうと考えていた。しかし、実際に現地を訪れてみると、山間地域の丸山に都市開発が押し寄せる可能性は低く、保存のための規制ルールを作ってもルールを使う場面はなく、この空間に何かエネルギーを注ぎこまなければ集落は守れないと感じた。そこで、人が行き交う仕組みを作ろうと考え、地域を守る手段として宿泊業という解決策を選ぶことになった。
● 集落丸山では、1つの物件を改修するという発想ではなく、集落全体の未来を考えて物件を活用していくことを学んだ。
事業化のポイント〜集落丸山の取り組みから
● 丸山は「何もない」地域だが、地域の暮らし、文化と美しい景観があり、それらを維持してきた住民がいる。これらは「何もない」と言われる地域でも必ずあるもので、ここに人を惹きつけてやまない価値が宿っている。暮らし・文化・人・景観という地域の何気ない価値を見出し、奇をてらわずに伝えることが事業化においては非常に重要。
● 空き家となった古民家が流動化しない理由として、様々な理由が挙げられる。所有者が家に残されたままの荷物の処理を心配している場合には、改修費用に盛り込んで片付けも引き受けることで解決することが多い。何か物を盗られるのではという不安に対しては、一民間企業のもうけ話ではなく、地域のための事業であることをきちんと説明して理解を得ている。仏壇が残っているケースには、仏壇があると分からないような工夫をしたうえで、盆や正月には所有者の方の優先利用権を設定することで合意が得られることが多い。変な人に貸すと地域の他の人に迷惑がかかると心配される場合には、地域に対する事業説明を丁寧に行うことが一番の解決策となる。
● 空き家の所有者は、メンテナンスに困っている一方で、先祖代々受け継いできた資産を自分の代で潰してしまうのは申し訳ないというジレンマを抱えている。そのため、空き家の活用提案は好意的に受け入れてもらえることが多い。
具体的な取り組み…❷ 篠山城下町ホテルNIPPONIA(兵庫県丹波篠山市)
● 集落丸山で学んだことをより大きなサイズで展開しようと始まったのが、篠山城下町ホテルNIPPONIA。一つの小学校区の単位に開発の範囲を広げ、城下町全体が一つのホテルであるという構想を掲げた。
● プロジェクト開始当時の旅館業法では、1棟ごとにフロントを設置しスタッフを常駐させる必要があった。これでは人件費が嵩んでしまいビジネスとしての成立は不可能であり、複数棟を1つのホテルとしてフロントを一つにまとめて運営する分散型ホテルのスキームを組み立て、許可を訴え、国家戦略特区の枠組みを利用して2015年に篠山城下町ホテルNIPPONIAの開業に至った。特区での取り組みの効果が認められたことで旅館業法が改正され、現在は全国どこでも分散型ホテルの運営が可能になっている。
● ノオトの取り組みは、スキームとしては不動産デベロッパーと同じだが、元々の町の構造を壊して再開発するのではなく、元々の町の構造を活かして一つ一つの空き家に中身を充填していくという手法を取っている。篠山のプロジェクトを通して、地域資源を活用した分散型開発の手法が地域には適しているということを学んだ。
● 篠山での経験を通して、他地域でも同様の手法による展開が可能なのではないかという手ごたえをつかむことができた。志を同じくする地域の人と事業を進めることで、日本全国の歴史的な町並みを守っていくことができるのではと考えて、NIPPONIAの活動が拡大している。
事業化のポイント〜篠山城下町ホテルNIPPONIAの取り組みから
● 元住居の物件を使うことで一つ一つが違った部屋となり、単なる客室ではない、町の暮らし文化を体験できる場が生まれる。
● 光を観る「観光」ではなく光に関わる「関光」という発想を持ち、地域住民と地域外の人が関われるような仕掛けづくりも重要。
● 篠山城下町ホテルの場合、10室程度の建物は稼働率50%に設定している。適切なラインを見極めることも、地域の価値を高めるためには重要。
● 地域資源を面で捉え一体的な絵を描き、実現に向けてリスクを取って事業化をしていくことが、地域の未来をつくる投資につながる。そのために行政の力が必要なこともあるが、民間主導の事業化は必須。
● どうしても決まった枠組みの中で考えがちになるが、制度が現代社会にフィットしていないケースも多い。仕組み自体の適切さを疑って、公共の利となる仕組みを考えることで、ルールや規制を変えられる可能性もある。
まとめ
● NIPPONIAの取組みでは、使われていない歴史的建築物や古民家を改修し、そこに外部の事業者をマッチングして新たに活用することで空き家問題や人口減少といった課題解決に繋げている。また、こうした事業を着実に増やしていくことで、雇用と産業の創造につなげることを目指している。
● 今後はさらに取り組む地域を増やしたい。また、地方における移住と観光のボーダーをあいまいにし、「関光」のあり方を提示していきたい。各地の熱意ある行政マンや金融マンたちと一緒に、面白い公民連携による文化財活用のバリエーションも増やしていきたい。
【第2部】意見交換
参加者…地域住民から反対意見やネガティブな反応はなかったのか。
伊藤氏…もちろん反対意見が出ることもあるが、反応してくれてありがたいと捉えている。未知の取り組みで想像がつかないゆえの不安や心配が反対理由となっていることが多いため、不安解消のために類似事例の紹介も含めて丁寧に説明を行う。様々な人がきちんと話を聞けるように、説明会を平日の夜と土日の両方で開催するなど工夫する。既に実際に取り組んでいる地域の住民から直接話を聞くことで、不安解消につながることも多い。
コミュニティが大きいほど様々な意見が出て当然であり、まずは有志のメンバーがリスクを負いながら事業を進めていく。最初はあまり積極的でなかった住民も、事業が進む過程で応援する側に回ってくれるケースも多い。
参加者…各地域の個性を拾い上げ、具体化するためのコツはなにか。
伊藤氏…プロジェクト始動期に、地域の自然環境やそこからうまれた産業といった町の成り立ちをリサーチする。プロジェクトチームが調べた内容は地域住民に照会し、ブラッシュアップしていく。このやり取りを通して、地域住民自らがプロジェクトを通じて実現したいと思えるコンセプトを抽出することが重要であり、ノオトのような専門家はファシリテーターとして重要な存在となっている。
参加者…NIPPONIAの施設を訪れる客層について知りたい。
伊藤氏…NIPPONIAの施設は比較的高価格帯であり、以前は40〜60代の夫婦が主な客層だったが、最近は様々な客層の利用がある。集落丸山は1棟貸しのため三世代の利用も多い。現代社会では、祖父母の家もマンションであることが珍しくなく、大所帯が集まってのんびりできる場所へのニーズがある。記念日使いも多い。
歴史建築に興味がある人、ゆっくり過ごしたい人、手仕事など都会生活では感じられない豊かさに触れたい人が、自分のスイッチを切り替える時間を過ごすことを目的に訪れている。
参加者…ノオトのメンバーはどのような人たちか。
伊藤氏…ノオトのメンバーは、元銀行員、元記者、元IT系、元国家公務員というキャリアを持つ人、反対に一貫して地元で活動してきた人など多種多様。地域と一緒になって汗をかくプレイヤー側になりたいという思いで集まってきた人が多い。
ノオトの活動は地域側のステークホルダーと連携して進めるが、その中に行政と金融機関は必ず含まれる。行政や金融機関の職員が、前例にないことはできないと突っぱねてしまうタイプだと、事業はうまく進まない。これまでNIPPONIAに取り組んできた地域では、型にとらわれない行政マンや、自らリスクを取り職員を出向させるような金融機関の存在が、プロジェクトの大きな推進力となっている。
参加者…株式会社NOTEと全国各地の関連会社とのスキームについて詳しく知りたい。
伊藤氏…NIPPONIA美濃商家町(岐阜県美濃市)の例では、地元製紙企業と株式会社NOTEが出資して、みのまちや株式会社という新たな組織を立ち上げ、美濃和紙の原料を保管していた蔵を活用している。物件調達は美濃市とみのまちやが連携協定を結び、市所有の建物を定借契約のもと、みのまちやが借りており、賃料を支払う形で行い、資金は地元銀行と政府系ファンドから調達している。初期コスト回収のため、一部、国の交付金も活用している。設計や工事、美濃和紙の体験プログラム提供を担当しているのはほぼ地元のプレイヤー。地域ごとに細かな違いはあるが、これが基本的なスキーム。
みのまちや株式会社のような各地域の取り組みの中心を担う地域会社を、まちづくりビークルと呼んでいる。このまちづくりビークルが、物件、行政、地域、金融機関、物件で事業を始めたい事業者、工事を担う工務店など、あらゆる団体の間を取り持ち、全てを調整する役割を担っている。一般的なスキームだと、中間支援団体は空き家の紹介をするのみで、改修や実際の事業運営にかかるコストは借主個人に集中してしまう。リスクを一人で抱えるのはハードルが高いためなかなか空き家の活用が進まず、本来残すべき地域のシンボルとなっている大きな物件ほど活用が難しくなる。まちづくりビークルが空き家を賃貸や買取により取得して事業者に貸し出すことで、リスクの一極集中を防いでいる。また、物件単位ではなくエリア単位の計画を策定したうえで事業者を誘致することで、カフェばかりが乱立するような事態を防ぎ、移住希望者にもスムーズに提案ができる。
参加者…各プロジェクトはどのような形で始まるのか。
伊藤氏…基本的に地域側から相談を受ける形で始まる。残したい歴史的建築物がある地域でも、核になる人材がいないケースではプロジェクトは思うように進まない。ノオトのスタンスは、自らが単独で地域に進出し利益を上げるのではなく、次の事業を創り出したいと考えている熱意のある地域の人と一緒に、運命共同体として事業を進めていくというもの。不思議なことに、そうした熱意ある地域人材は8割の打率で存在している。
参加者…価格設定や稼働率の考え方について知りたい。
伊藤氏…一般的な考え方とは逆で、最初に稼働率を定め月あたりの販売可能室数を算出し、改修費用や投資にかかる費用を計算して、返済スケジュールと客室単価をはじき出している。シミュレーション時に、1泊15万円くらいの単価になってしまうこともあるが、稼働率を数%上乗せしたり、改修費用を抑えたりという微調整を行う。絵に描いた餅では継続は不可能であり、きちんとバランスが取れる価格設定を考えている。
高単価にするためには至れり尽くせりのサービスをしないといけないと思いがちだが、私たちが提供しているのは、手厚いサービスではなく、地域だからこそ体感できる本物の暮らし。その価値を理解してお金を払う方は一定程度存在している。集落丸山の稼働率は2棟で30%であり、宿泊者数に置き換えると年間800人程度。800人に刺さるものを提供するとなれば、国内客だけでも十分に需要はある。
参加者…各地域のプロジェクト管理は、どのような体制で進めているのか。
伊藤氏…事業化は株式会社NOTEが中心となり進めている。現地にエリアマネージャーを配置し、月に一度、全メンバーが篠山に集まって会議をするという体制。普段からコミュニケーションツールを使って情報共有を行っており、コロナ禍以前から完全リモートワークで仕事を行っている。
一般社団法人ノオトの代表理事としては、プロジェクト開始時の現地での事業説明を担当するほか、日本全国の取り組みを俯瞰して各地域の情報共有を進めている。
参加者…古民家再生の時代考証はどのように実施しているか。
伊藤氏…文化財指定を受けている物件の場合には、時代考証の実施が義務となっている。チームを組んでいる設計士たちは、重要伝統的建造物群保存地区の物件を手掛けた実績を持つ方が多く、彼らのノウハウを生かしている。
指定文化財の改修に際しては、可逆性の考え方に基づき、間取りは変えず改修後も元の姿に戻せるようにしている。また、元からあった部分と新しく作った部分を区別できるようにしており、使える部分は最大限残すようにもしている。
指定文化財以外の物件についても、棟札や古写真を手掛かりに、以前の使い方を調べるようにしている。今後は、建物の記憶も読み物として残していければさらに面白いだろう。
参加者…ノオトやNIPPONIAに込められた意味は何か。
伊藤氏…ノオトは「農の都」という意味。元々は篠山のまちづくり会社として始まっており、篠山を象徴するものは農業であるということで名付けられた。また、ノートパッド(notepad)のように、地域の歴史や文化を書き留める役割でいたいという思いも込められている。
NIPPONIAは、篠山城下町ホテルができたときに付けた名称。朱鷺の学名を選んだのは、一度は絶滅してしまった朱鷺も復活に向けた動きが進んでいることから、古民家も一種の絶滅危惧種と捉え、きちんと再生し活用していこうという思いを込めている。外国人にも伝わりやすい。
おわりに
今回のたびとしょCafeは、20回目にして初のオンライン開催となりました。全てがいつも通りとはいきませんでしたが、地方からご参加の方も多く、画面越しにリアルタイムに意見交換ができたのは貴重な時間となりました。オンラインでのより良い運営方法については、今後さらに工夫していきたいと思います。
(文:観光文化振興部 企画室副主任研究員 門脇茉海)
Guest speaker
伊藤 清花(いとう・さやか)
大阪府豊中市生まれ。2008年関西大学文学部卒業。シナジーマーケティング株式会社に勤務後、2013年に一般社団法人ノオトに参画。2017年まで創造都市ネットワーク日本の拡充を目指す文化芸術創造都市推進事業(文化庁)の事務局を務めながら、歴史地区再生による観光まちづくり事業「NIPPONIA」の立ち上げ・推進に従事。集落丸山(兵庫県丹波篠山市)、篠山城下町ホテル NIPPONIA(兵庫県丹波篠山市)等、複数のプロジェクトの企画支援・開発に携わる。2019年10月同社代表理事に就任。現在は、NIPPONIAのさらなる充実に向けたネットワーク構築と人材育成に注力している。