観光研究最前線…①
新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向3〜JTBF旅行実態調査結果より

公益財団法人日本交通公社観光文化振興部 企画室長/上席主任研究員
五木田 玲子
観光地域研究部 研究員
仲 七重

 公益財団法人日本交通公社では、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行が旅行市場におよぼした影響把握を目的に、定期的に実施している「JTBF旅行実態調査」の調査内容を拡充し、分析を進めている。今回は、2020年の観光・レクリエーション旅行(以下、観光旅行)の実施状況及び旅行実態、今後の旅行予定・意向をとりまとめて紹介する。

1.2020年の旅行実施状況
 2020年の観光旅行を振り返ると、2月上旬のクルーズ船での集団感染、2月下旬の全国一斉休校要請や北海道緊急事態宣言、3月上旬の専門家会議による3密回避提言などを受け、コロナの影響による旅行のとりやめは国内旅行・海外旅行ともに3月に急増した。国内旅行は、1回目の緊急事態宣言下の4〜5月には8割強がとりやめたが、6月以降はとりやめが徐々に減少し、11月には3割まで下がった。しかしながら、第3波下となった12月に再び増加に転じ、半数以上が旅行をとりやめた。一方、海外旅行は、4月のとりやめは9割に達し、以降、入出国制限等の影響もあり、高水準のままほぼ横ばいで推移した(図表1)。旅行とりやめを決めたタイミングは、2〜4月は国内旅行・海外旅行ともに当月になってからが3〜5割を占めており、急な判断が求められたことがうかがえる。感染が急拡大した12月も国内旅行の当月とりやめは4割を超え、1回目の緊急事態宣言下にあった4月と同水準にまで増加した。

 旅行をとりやめた理由については、国内旅行・海外旅行ともに「感染リスク回避」が年間を通じて最大の理由となった。国内旅行において「自粛要請」は緊急事態宣言下であった4月及び5月に4割を超えたが、年末年始の移動自粛が要請されていた12月には3割にとどまり、緊急事態宣言下より低い割合となった。海外旅行は、国内旅行に比べて「旅行先の受入制限」や「現地までの交通制限」が多く挙げられた(図表2)。

2.2020年の国内旅行の実態
 ここではコロナ禍中に実施した国内宿泊観光旅行についてみていく。コロナ禍の影響で旅行予定に変更が生じた割合は1月には1割に満たないほどだったが、感染拡大とともに徐々に増加、緊急事態宣言下であった4月には3.5割を占めピークとなった。その後、変更割合は減少、感染拡大傾向にあった8〜9月にやや増加したものの、11月には1割を下回った。しかし、12月には感染急拡大の影響から再び変更割合が増加した。このように、年間を通じて、感染拡大にともない、旅行内容の変更割合が増加する傾向が確認された(図表3)。

 では、どのような変更が行われたのか。コロナ禍によって変更した内容は、8月を除いたすべての月で「活動内容・訪問先」の変更が最多となった。8月は「旅行先を国内の他地域へ」の変更が最も高く、夏休みを利用した比較的遠方への旅行から近隣の旅行への変更が多かったと推測される。「旅行先を海外から国内へ」の変更は、1月から5月には1〜2割を占めたが、6月以降は1割未満で推移した。これは、日本や各国の出入国制限の状況を考慮し、旅行計画の段階から海外旅行が候補に入らなくなったことが要因のひとつと考えられる(図表4)。

 コロナ禍の旅行実施にあたっての気持ちは、1〜2月は「コロナに対する不安は感じなかった」「今の状況では自分にあまりかかわりはないと思った」が目立ったが、3月になるとそれらは上位ではあるものの割合は減少。4月以降は「心配しても仕方ない」が最も高い割合で推移し、12月には「コロナに対する不安は感じない」も同程度に増加した。「旅行先の観光地を応援したい」は、6月以降は2割前後を維持、9月以降は上位3位以内に入っており、一定の割合を占めた(図表5)。

 旅行に行った感想は、1〜2月は「平時と特段変わらない」が8割を超えていたが月を追うごとに減少、4月以降は「混雑がなく快適」が最多となった。3月から7月にかけては、「閑散としていて寂しい」が「想定より混雑」より高い割合で推移したが、8月以降その割合が逆転した。「平時と特段変わらない」も6月には増加に転じ、12月には半数が「平時と特段変わらない」と回答した。「感染が不安」は3月にピークとなり、4月以降、1.5〜2割程度で推移した。裏を返せば、8割は感染不安を感じずに旅行できていたことになる(図表6)。

 旅行中のコロナ対策は「マスクの着用」が6月に9割を超え、9月以降は10割に近い値で推移した。「特に何もしていない」は月を追うごとに減少、10月以降は1%未満にとどまった。この1年間でマスク着用、手指消毒、手洗い・うがいなど、旅行先での感染対策の徹底が進んだ(図表7)。

3.今後の旅行予定・意向
 この先3ヶ月間の観光旅行の予定を尋ねたところ、1月調査(21年1〜3月の旅行予定)では「もともと旅行に行く予定はない」が6割以上を占め、調査開始以降、最も高くなった。1〜3月は観光旅行が最も少ないシーズンではあるものの、10月調査と比較して「旅行に行きたいが、まだ予定を決めていない」「いまのところ国内宿泊旅行を実施予定」ともに10ポイント程度減少。緊急事態宣言の発出やコロナの感染者増加が影響し、直近の旅行意向は低位にとどまった(図表8)。

 次に、コロナ収束後の旅行意向に目を向けてみる。本調査は、2020年5月から四半期毎に実施しており、7月時点では5月時点に比べてや旅行意向が減退したものの、10月時点では回復、1月時点では旅行意向がさらに増大した。5月調査は緊急事態宣言下ではあったものの新規感染者数が減少傾向にあった時期、7月調査は第2波に向けて感染拡大していた時期、10月調査は国内旅行喚起策であるGoTo トラベルに東京が加わった時期、1月調査は急速な感染拡大に伴い第2回目の緊急事態宣言が発出された時期にそれぞれ実施したものである。当初、旅行意向はコロナの感染状況と連動して変動する、つまり感染拡大期に実施する調査では旅行意向は低くなるという仮説を持っていたが、1月調査は感染急拡大期にもかかわらず、感染が比較的落ち着いていた10月よりも旅行意向が高まった。この結果より、コロナ禍の長期化にともない、自粛してきた分、旅行に行きたいという思いがこれまで以上に増してきていると考えられる(図表9)。

 一方、「これまでのようには旅行に行きたくない」「まったく旅行に行きたくない」も1割弱を占める。男女とも10〜20代は積極的な旅行意向を示したのに対し、70代は旅行を控えがちな傾向を示した。70代はコロナに対して強い不安を抱いており、旅行意向も低位にとどまる。国内ではワクチン接種が進みつつある。10〜20代、70代、今後の両者の旅行意向にも注目していきたい。
(ごきた れいこ/なか ななえ)