文化財担当者の「知識知見」が観光資源に

 2021年12月4日に催行された風の旅行社主催のツアー「甲州街道今昔ものがたり」〜勝沼宿、石和宿、甲府柳町宿、韮崎宿を巡る〜で、勝沼宿のガイドを務めました。
 いわばこちらの「知識のひけらかし」の機会なのですが、率直に楽しくて面白かったです(笑)。参加者の皆さんはノリが良く、ダイレクトに反応があり、お客さんに助けられたところもあったと思います。
 教育委員会では地区の学習会や散策会などでガイドツアー的なことを行っており、最初の数分でちょっと軽口を叩いたりして、相手がどういう反応をするか確認しています。そこでシーンとするようなら、話の内容をかしこまったものにしますが、今回は最初の反応が良かったので、いろいろ自由にお話しできました。
 今回のツアーで印象的だったのは、ブドウ畑を覆うようにたれ込む雲の話をした時、どうしてこうした変わった形をしているのか、とても興味を持たれたことです。
 雲の正体はブドウの枝などの焼却処分で出る煙なんですが、上の空気が冷たいから蓋をされた状態で一定以上の高さから上に行かないので、そのような形になるんです。我々にとっては当たり前の風景ですが、よそから来る人にとってはとても面白い地域固有の景観なのだと感じました。
 ただ見て感動したというだけではなく、何故その現象が起きたかがわかると、他の場所で同じような光景を見た時に「山梨でこの説明聞いたな」と思い出すこともあるでしょう。そういう意味では我々のガイドは観光でもなく教育でもない、その中間を行くようなことをやっているのだと思います。
 勝沼を案内しましたが、私は勝沼の住民ではありません。合併して同じ行政区になったのですが、隣で暮らしながら気づかなかったことがたくさんあったので、自分の気づきを中心に話をしたつもりです。
「自然が作った地形を人間がうまく利用し、結果的にブドウの栽培が支持されて、今のような風景になった」と、言葉で言うと簡単ですが、大きな起点となったのは明治の大水害、畑地が解放され、みんながブドウを作るようになったことなど、歴史を追う話もしました。
 地域の特徴をジオグラフィー的な面から知ってもらいたいことがいろいろありますし、皆さんも人文的というよりも自然史的な歴史や、地形や気象状況といった話により興味を持たれていた気がします。
 今回のツアーで我々のような文化財担当者が持っている知識や経験、専門的な話が一つの観光資源になり得ることをあらた
めて実感できました。今後も、こうしたことを強く意識していきたいと思いました。(談)

飯島 泉 氏(甲州市教育委員会生涯学習課長)
甲州市教育委員会生涯学習課長。1988年塩山市(現・甲州市)教育委員会入庁。生涯学習課文化財担当、文化財課歴史まちづくり担当、文化財課課長を経て、2022年から現職。県指定史跡向嶽寺庭園発掘調査、県指定史跡武田勝頼の墓の経石調査および周辺発掘調査などに携わる。ほか、ブドウ畑とワインの文化的価値に関する講義など甲州市の文化財保護と普及促進にも取り組んでいる。