わたしの1冊
第29回
『将の器参謀の器』
童門冬二・著
青春出版社刊
小林昭治
一般社団法人八ヶ岳ツーリズムマネジメント代表理事、
八ヶ岳観光圏整備推進協議会代表、
全国観光圏推進協議会会長(2023年5月10日現在)
平成19年1月1日から施行されている観光立国推進基本法が、令和5年3月31日に①持続可能な観光地域づくり戦略②インバウンド回復戦略③国内交流拡大戦略を3大基本方針として改正され、閣議決定されました。
この観光立国推進基本法の基本理念は「住んでよし・訪れてよしの国づくり」で、それを実現すべく関係者の責務等として①国の責務②地方公共団体の責務③住民の役割④観光事業者の努力等が概要にまとめられています。
この度閣議決定された推進基本法を進めるため、平成21年から推進基本法と関わりの深い、国の観光圏整備法に則り、「観光圏地域づくりプラットフォーム」と「観光地域づくり法人」を介しての観光地域づくりに取り組んできた経験から、推進基本法の「住民の役割」が益々重要視されると考えられます。
なぜなら推進基本法の副題に「持続可能な形での観光立国の復活に向け」とあり、3大基本方針の一丁目一番地として「持続可能な観光地域づくり戦略」が謳われているからです。
持続可能な観光を目指すには、地域の本質に触れる深い体験価値や、観光を通じた「地域住民との交流」、「地域貢献」を重視する取り組み、さらには、サスティナビリティを意識する旅行者の観光行動による恩恵を地域の経済・社会・環境へ還元する好循環の機会を設ける地域となることを視野に入れた「観光地域づくり」の取り組みが最も肝要と考えられるからです。
このような「持続可能な観光地域づくり戦略」を推進するには、地域住民の地域に対する「誇り」・「思い」・「希望」・「意識啓発」を把握しての住民を中心とした観光地域づくりが大きな鍵になるでしょう。
私の愛読書は、童門冬二著書の『将の器 参謀の器』です。
私の出身が山梨県(甲斐の国)であることから武田信玄という戦国を代表する武将の国ということもあり戦国時代には深い興味があり、自分自身を戦国時代の武将や参謀に置き換え様々な思いを馳せることで行動を考え、自分の成長の糧となっています。
その愛読書の中で現在の観光地域づくりに感銘と共感できる2つの事例を紹介させていただきます。
まずは武田信玄の「人は城、人は石垣、人は堀」です。それは「貧しいこの国で、手持ちの資源で最も可能性を持っているのは人間」という考えであります。まさに地域住民と一緒になっての観光地域づくりの取り組みではないでしょうか。
次に多くの改革を手がけた徳川8代将軍徳川吉宗が設置した「目安箱」であります。
この「目安箱」は、国民の意見箱で、今で言えば、観光地域づくり法人と住民が直接結びつく手法のように捉えることができます。
当観光圏では住民満足度調査等を隔年で実施しており、住民と一緒になっての持続可能な観光地域づくりの誘客事業に活かしております。
観光とは「国の光を観(み)るは、もって王の賓たるによろし」が語源と言われております。
国の推進基本法が改正されたことから今一度住民との関わりを見つめ直す機会にしたいと考えるばかりです。
小林昭治(こばやし・しょうじ)
昭和33年6月30日生まれ。
現在観光庁広域周遊観光促進「四国地域連絡調整会議/有識者」、東京都観光まちづくりアドバイザー、東京都立大学非常勤講師、山梨県考古博物館協議会委員、(公社)日本観光振興協会観光地域づくり研修登録講師、全国市町村職員中央研修所観光地域づくり講師などを兼務している。