旅行者の視点から観光地を評価するための指標として、「満足度」はよく用いられるもののひとつです。筆者はこのテーマについてここ何年か継続的に追っておりまして、国内外の研究面を中心とした動向と課題については、当財団の機関誌「観光文化」221号に小論(詳しくはこちら)を掲載しました。
今回のコラムでは、上記の原稿では紙幅の都合で割愛したトピックについてご紹介したいと思います。
「狩野モデル」の応用
観光地づくりの実務上で重要なのは、満足度を継続的に測定することと、その評価を向上させていくことであるといえます。後者に必要なのは、一体どのような要因が満足度の変化に影響を与えているのかについて理解を深めることです。
観光地に対する満足度は、旅行者がその地域での滞在に対してどれくらい満足したかという主観的な評価であると定義できます。そのため、観光地での滞在を構成する様々な要素の評価が、満足度に影響します。
もっとも、旅行者が1回の滞在で体験することをリストアップしようとすると、案内標識や駐車場の利便性といった交通インフラに関するものから、地域の景観、個別の施設の接客、食事の内容といったように、その数は膨大にのぼることがわかります。すべての項目を網羅することが理想ではありますが、現実的には、優先すべきものとそうでないものを区別し、ある程度メリハリをつけて対応をとっていくことになるでしょう。
その際に有用な手がかりとなるのが、1980年代に狩野紀昭氏(東京理科大学名誉教授)によって提唱された、通称「狩野モデル」です。このモデルはもともと製品の品質要素を分類するために作られましたが、サービスや観光地を対象としても応用できるものです。海外でも広く知られており、「Kano Model」というキーワードでウェブサイトを検索すると、多くの英語で書かれたページがヒットします。
狩野モデルは、製品の品質要素を合計5つに分類しているのですが、このうち重要なのが、以下の3つです。
狩野モデルの意義は、重要な品質要素を、評価を向上すればするほど満足度が上がるもの(一元的品質)だけでなく、一定レベルまで底上げをすればそれ以降は満足度の向上に寄与しないもの(当たり前品質)、さらには評価が低くても致命的ではないものの、もう一段ステップアップするためには必要なもの(魅力的品質)といった具合に細分化したところにあります。
地域での滞在に関する様々な評価項目を、これらの3分類に置き換えて考えてみることで、観光地としての満足度を向上させていくために重要となってくるものを、より詳細に把握できるようになります。特に、一定のレベルに達した後も「当たり前品質」の評価向上に注力し過ぎないようにすることは、効率的な事業展開に大きく貢献するでしょう。
国内観光地における「魅力的品質」と「当たり前品質」
それでは、観光地における「魅力的品質」「一元的品質」「当たり前品質」とは具体的にどのようなものがあてはまるのでしょうか。当財団が調査を受託した観光庁「観光地域における評価に係る検討実施業務」(2013年度)では、国内観光地全般を対象として、大規模な満足度調査を実施しています。こちらの調査結果を活用してみると、下表のように、具体的な評価項目と対応させることができました。国レベルで観光地の満足度を向上させる観点からは、食事や買い物といった地域内の消費に関する評価の底上げが重要となってくるものの、一定のレベル以上まで引き上げたら、それ以降は滞在プログラムの評価向上が鍵になってくることを読み取れます。
もちろん、すべての観光地にこの結果があてはまるわけではなく、地域の特性によって具体的な項目は異なってくると考えられることや、地域ごとにこの種の分析を行うにはややコストがかかることには留意すべきでしょう。しかし、仮に実際の調査を行わないにしても、3つの分類軸を思い浮かべながら、観光地としての満足度向上に関する議論を進めることには一定の意義があると考えます。
参考文献
- 狩野紀昭,・瀬楽信彦・高橋文夫・辻新一. (1984). 魅力的品質と当り前品質. 品質, 14(2), 147-156.
- 観光庁 (2014). 観光地域における評価に係る検討実施業務報告書