要旨
「観光地の活性化」は、観光客数だけでなく、「消費額」の視点からも考える必要があります。日帰り客よりも宿泊客の方が消費額が多いことから、観光地が増やすべきは「宿泊客」。ただし、日帰り型観光地でも、飲食や物販で、少しでも多くのお金を使ってもらう工夫が必要です。
■「観光客」として、観光地で心がけていること
毎月数回、出張で国内各地の観光地へ出かけています。仕事の依頼を受けているところへは2週続けて行ったり、講演等何らかのご縁で1回しか行ったことがないところ、場合によっては数時間しか滞在できなかったところもあります。しかし、出張とは言え、常に「1人の観光客」として、私は来訪先で「お金を使う」ことを心がけています。というのも、「観光地の活性化」の重要な指標として、「消費額の増加」による地域経済の活性化、さらには自立型の地域経済への展開を、当財団としてあちこちの観光地で提唱しているからです。
■観光地活性化の指標
「観光地の活性化」の一番わかりやすい指標は、当然ながら「観光客の増加」です。しかし、「観光客」だけが増えたとしても、それを「活性化」といえるでしょうか? 例えば、以前聞いた話ですが、長野県のある小さな村(現在は合併して長野市)には、水芭蕉を目的に観光客が訪れていました。ある年、台風の影響で水芭蕉の群生地へ向かう道路が破壊され、翌年の水芭蕉シーズンまでに復旧できなかったため、その年はまったく集客できませんでした。そのため、役場職員総出で全国にセールスを行ったところ、翌年はものすごい数の観光客が押し寄せたのです。しかし、地元にもたらされたものは、交通渋滞と来訪者の不満だけだったそうです。つまり、この村への観光客はマイカーによる「日帰り客」が大半であり、「お金を使ってもらう場所(飲食店や物販店)がほとんどなかった」のが、原因です。
観光地というのは、「観光産業」に依って生きているところであり、観光客が使うお金で経済がまわっていきます。従って、今後、観光地は「いかに多くの観光客に来てもらうか」だけでなく、「いかに観光客にたくさんお金を使ってもらうか」を考えることが必要となります。また、観光客といっても、「日帰り客」と「宿泊客」では消費単価は大きく異なるため、できるだけ「宿泊客」を増やしていくというのも、観光地の活性化の1つの方法です。宿泊施設が少ない日帰り型の観光地や、通過地点にある市町村であっても、「道の駅」のようなマイカー旅行者や日帰り旅行者が飲食や物販できる場所の魅力を高めることで、消費額を増やすことができます。
■岐阜県の観光消費額の例
下図は、平成17年度の岐阜県の圏域別観光消費額です。岐阜県は、県内を5圏域に分けて観光統計を整備しているのですが、最も日帰り比率の高い西濃圏域と、反対に最も低い(つまり宿泊客比率が高い)飛騨圏域で比較してみました。これを見ると、観光客数では西濃圏域は飛騨圏域の1.6倍ですが、総消費額は飛騨圏域の1/4しかありません。飛騨圏域は、下呂温泉と奥飛騨温泉郷という宿泊拠点を2つ有しているため、消費単価の高い宿泊客が西濃圏域の1.7倍と多いためです。
■観光客にお金を使っていただくためには・・・道の駅の場合
「道の駅」は、2007年3月1日現在、全国に858ヶ所設置されています。8月下旬に出張で訪れた新潟県のとある道の駅は、残念ながら「看板に偽りあり?」と思うようなところでした。道の駅のある市には、色々な特産品があることを事前に知っていたので、「何を買おうかな?」と期待いっぱいで道の駅に連れて行ってもらったのですが、物販施設は「閉鎖」、レストランと物販は同じ敷地の中にあるかなり老朽化したホテルで対応、とのことでした。クアハウスと資料館もあるのですが、資料館の横にはなぜか「老人用休憩施設」が・・・。これまでの体験から、「道の駅は地元の特産品を買えるところ」と考えていましたので、私は1円も使わずに財布をしまうしかありませんでした。
一方、三重県の道の駅「紀伊長島まんぼう」(紀北町、写真→)は、訪れたのが8月上旬の昼時であったこともあり、物販コーナーもレストラン(小規模ですが)も、大変なにぎわいでした。海辺の町なので、地場産品である海産物加工品がところ狭しと並べられているほか(写真左下)、地元名物である「さんま寿司」や「めはり寿司」といったお弁当も売れ筋商品だそうです(写真右下)。町役場の方と一緒の視察でしたが、私はかなり真剣に物販コーナーを見て回り、「あおさのり」を購入して大変満足したのはいうまでもありません。
■最後に
観光地でその土地独自のものを食べたり買ったりするのは、観光客にとって大きな楽しみの1つです。一人ひとりの使うお金は大金でなくても、観光客に気持ちよくお金を使ってもらえる商品とは何か、お店・お宿とはどういうものか、観光地は今1度真剣に考え直す時期にあると思います。