先日、旅館の経営者が集まる会議で、ある方が「お客様から、旅館での新しい過ごし方についてアイデアをいただくことがある」と発言されました。旅慣れた人の声に耳を傾けて、一緒に商品プランを作っていくということでしたが、同席したメンバーもうなずきながら「そういえば、最近我々自身、あまり旅行してないなぁ」。
今、観光産業は、人々を旅立ちへと駆り立てるような商品を提供できているでしょうか。人々の「豊かな旅」体験につながる商品づくりの方法について、「豊かな料理」の創作と重ね合わせて、考えてみます。
■地域で”食材”探しをしよう
私たちの日頃の食事は、野菜や肉・魚といった食材を使うという点では、一流の料理人が作る料理と違いはありません。職業料理人の大きな違いは、自らが提供したい料理の形を強烈に打ち出してお客様を呼び込んでいることでしょう。お客様を満足させるために、例えば、生産地へ足を運ぶなど納得のいくまで食材を吟味する、調理技術の更なる向上を目指す、研鑽のために国内外の名店へ修行・体験に行き、常に他店の研究を怠らない-こうした、選りすぐりの食材を見つけ出そうとする姿勢や、食材への創意工夫を凝らした手の入れ方は、地域資源を活用した旅行商品づくりについても参考になりそうです。
特に私は、「自分の料理にこの食材を使いたい」と認識できる力、つまり観光産業界においては「この地域資源を使って商品をつくりたい」と認識できる力が大切と考えます。
観光による地域振興の最初のステップとして、「地域資源の発掘」という活動が知られています(「地域資源調査」や「地域のお宝探し」「地域資源の棚卸し」とも表現されるようです)※
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その際にガイド同行のまちなか散策なども行われますが、これを単なるイベントで終わらせず、きちんと地域振興事業の一つとして位置づけていくことが必要で、この時、資源を発掘する人達の”旅行経験の豊かさ”がとても重要だと感じるのです。
※ | 中小企業庁は「中小企業地域資源活用プログラム」として、「地域の観光資源として相当程度認識されているもの」を対象に、新商品づくり等事業創出への支援を行っています。「地域資源の認識化」が急がれます。 |
■経験豊かな旅人が「豊かな旅」をつくる
地域資源の発掘は、ガイドや外部専門家の解説を聞きながら地元地域を歩くことで、今はまだ隠れている地域の魅力に”気付くことができる”という前提で取り組まれますが、果たして、すべての参加者が同様に「お宝を発見する」ことができるものでしょうか。
残念ながら、同じ事象を見たり体験したり、人との交流を通して、それらが価値ある資源であると認識できるかどうかは、人によって差があると思われます。つまり、ある程度旅行経験を重ねないと、人々に感動を与えるものとは何か、どこにその価値があるのかはわからないものですから、旅行経験が乏しい人には地域資源の発掘はなかなか難しいのではないでしょうか。
大切なことは、観光による地域振興を図ろうとする地域内で「旅行経験が豊かな旅人」をどんどん増やすということです。先進地視察として、自分たちの取り組みに参考となる地域へ出かけて、そこの風物に触れたり先達の話を聞くといった体験を重ねることと共に、一旅行者として、仕事(地域振興)の視点を忘れて気ままに各地を旅してみることも大切です。お年寄りや子どもたちの声に耳を傾けることもいいでしょう。
そうした旅行経験を重ねたうえでこそ、他地域と自らとの比較が可能になり、自慢したい自分たちの地域資源が見えてきます。そしてそれを、より美しく整える、容易に到達・触れる・入手ができるようにする、より魅力的なストーリーを付与するなどして人々を惹き付ける商品へと創り上げ、地域の外へ積極的に打ち出していくことで、「豊かな旅」を提供することができるでしょう。
こうした一連の取り組みは、研究熱心な料理人が優れた食材を見つけ出し、手を加えておいしい料理に仕上げる、そしてその店・料理人のファンを獲得しようとしている-そうした仕事術に似たところがないでしょうか。
■旅に出よう
料理の創作が、手元にある食材やすでに身に付けた調理技術だけに頼っていては斬新なものが生まれないように、地域づくりも、自らの足下だけを見ていては、現在の観光産業を取り巻く厳しい状況を打破する策を編み出すことは期待できません。マーケットを知り、各地を訪れてライバルを知り、自分たちの地域にある価値探しをする、そして、地域づくりが身近な生活に根ざした活動の連続であるが故に、日常を離れて旅に出ることが、実はとても大切なことだと感じます。「人はなぜ、何を求めて旅に出るのか」といった壮大な問いへの答えは、旅先の非日常の時間の中でしか、見つからないのかもしれません。
私自身、今年度もまた多くの地域を訪れ、様々な方々との交流によって仕事の幅も広げていきたい-そう思いながらも、東京で過ごす大型連休です。
次回(約半年後)の私のコラムでは、「休暇の分散」について書いてみたいと思っています。
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