地域に稼いでもらうためにDMOができることは? [コラムvol.475]

コロナ禍は体験商品の造成に強力な支援がある時代

2020年1月以降から今日までの約2年半は、新型コロナウイルスの流行により、全国の観光地は誘客に大きな影響が出た期間となりました。一方で、この期間においては、政府の経済対策としての補正予算の投入等により、観光需要喚起事業(GoToトラベル、県民割等)や事業継続支援のみならず、地域の体験商品の造成に対しても強力な支援制度が作られました。コロナ禍以前にも、主に観光庁において体験商品の造成に関する支援はありましたが、予算額が限られていたことや、事業費の裏負担(※1)が一定程度必要であったこと、支援の申請主体がDMOに限られていること等、多くの制約があったことに比べ、この2年半における体験商品の造成に関する支援は、地域側が比較的自由に、大きな規模で事業ができる立てつけとなっています。

つまり、地域にとって、コロナ禍は、国等の事業を活用することで、新たな体験商品の造成や販売等を一気に加速させるチャンスの期間であるとも言えます。

  • (※1)総事業費における、実施主体(自治体、事業者等)の自己負担分のこと

 

表 直近の体験商品の造成に関する観光庁の支援メニュー(一部抜粋)

体験商品の造成と販売の取組を加速した一般社団法人Clan PEONY津軽

このようなチャンスをうまく生かし、体験商品の造成と販売の取組を加速させた例として、(一社)Clan PEONY津軽の取組を紹介します。Clan PEONY津軽は、弘前市を中心とした津軽圏域(青森県中南地域・西北地域)の14市町村をマネジメント区域とする地域連携DMOで、2020年4月設立、2022年3月登録DMO認定と、設立して間もないDMOです。当該圏域は、世界自然遺産「白神山地」や日本百名山「岩木山」のほか、弘前城や斜陽館などの歴史的建造物、津軽塗やこぎん刺しといった伝統工芸品、りんごをはじめとした農産物や海産物など、魅力的な観光資源を有しています。

当該圏域の従前の課題として、①青森ならではの優れた観光資源がたくさんあるが、宿泊・食・お土産を除くと、「入場料」程度しか地域にお金が落ちておらず、「稼ぐ」視点が不足している点、②体験商品は存在していても旅行者が商品まで辿りつくことができていない点の2点が挙げられていました。

そこで、設立当初のClan PEONY津軽は、まず、地域連携DMOとして地域に存在を知ってもらうために圏域内の事業者回りを行い、体験商品提供事業者との関係性を深めるとともに、「JTB BÓKUN(※2)」を活用し、圏域内の事業者が提供する体験商品を一元的に販売できる販売サイトの整備を行いました。地域連携DMOとしてのスケールメリットを活かし、圏域全体のプロモーションと一元的な体験商品の販売場所を確保した形です。また、同時に、販売サイトで提供する体験商品の造成に着手しました。販売サイトの整備後にも体験商品の造成を進めており、現在も着々と商品の数を増やしています。

通常、このように販売ルートを確保し、体験商品の造成することは、ある程度の時間や労力等を要しますが、冒頭で述べたような直近の国による強力な体験商品の造成に関する支援を活用し、一気に販売体制の整備と商品の造成を進めました。なお、2022年度においては、国による体験商品の造成に関する事業にClanPEONY津軽関連で計9件(ClanPEONY津軽主体:1件、連携採択:8件)採択され、商品の拡大を進めています。

  • (※2)観光事業者向けに販売・予約管理機能及びB2Bプラットフォームを提供するシステム。体験型商品の予約在庫管理にくわえ、流通拡大を支援する。

 

図 津軽地域の観光情報サイトの「津軽なび」内に設置されている津軽圏域の体験商品の販売HP
※2022年8月時点で計9種類の商品が販売されている

 

地域事業者の活躍を下支えするDMOの形

津軽地域では、体験商品の販売場所をDMOが整備したことにより、津軽圏域内の事業者が主体となり、DMOによる販売を見据えながら、国の支援を用いた形で体験商品造成に着手できています。一方、ClanPEONY津軽としては、今後も商品の数を増やし、商品が販売された際に販売手数料をもらうことで、販売システムの維持費の確保を目指しています。圏域内の事業者に体験商品の造成に積極的に着手してもらうためのポイントとして、設立当初の事業者回りが関係性構築につながった点や、国等の支援を用いて商品造成を行う際にClanPEONY津軽に事業の採択や遂行に対する一定のノウハウが蓄積されている点、事業実施に裏負担が必要な場合はClanPEONY津軽が支援している点が大きく、事業者としては、商品の造成や販売に際しかかる費用やノウハウ不足といった障壁が限りなく取り除かれた環境下で商品造成を進めることができます。なお、裏負担の原資の多くは圏域の市町村からの負担金となります。

補助金等を用いて体験商品の造成を進めても、実際の販売に結び付かない例は全国に後を絶つことはなく、その理由の一つに、自治体やDMO、観光協会等が実証事業等の段階で商品造成を行うものの、商品造成時に正式販売を見据えた「体験商品を販売する主体の設定」や「販売ルートの確保」ができていない、ということがよく見受けられます。ClanPEONY津軽の取組に見られるような、地域の事業者が主体的に商品造成に着手できるような環境づくりや事業者側のリスク軽減を図り、事業者にDMOを有効活用してもらうことは、地域全体の利益に資するDMOのひとつのあり方と言えるのではないでしょうか。

 

図 ClanPEONY津軽と圏域内事業者による体験商品の造成から販売までの流れ(筆者作成)

参考