ブレジャー旅行者の特性と地域における取組み [コラムvol.465]

はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大により、仕事と休暇を組み合わせた滞在型旅行が「新たな旅のスタイル」として位置付けられ、その推進のため様々な取り組みが展開されているが、この新たな旅のスタイルの一つに、出張等の機会を活用して出張先等で滞在を延長するなどして余暇を楽しむブレジャー(Bleisure)がある。

日本においてブレジャーのような行動は、例えば前日から出張先を訪れる、出張先での業務後1泊してから帰るといったものは存在していたと思われるが、それほどマーケットとして注目されてはこなかった。しかしコロナ禍で働き方への意識が変化する中、コロナ禍が一定程度収束しいわゆる出張が行われるようになってくれば、家族等が同行したり、業務の前後で休暇を取得したり、休暇の間で業務を行うといった需要が今後増加してくる可能性はあると考えられる。

また、受け入れる地域や施設の立場からすると、同じ延べ来訪者数でも、同一の人が滞在する割合が高い方が感染症拡大リスクは低い。このため、同じ人に1日でも長く自分たちの地域や施設に滞在してもらえるようにすることが、ポストコロナ時代における観光振興の重要な視点の1つとして考えられるが、ブレジャー需要を取り込むことは、この視点に合致するものと考えられる。

本コラムでは、こうした問題意識のもとで執筆した筆者らの論文(※1)から、ブレジャー旅行者の特性や地域における取組みについてのポイントを紹介したい。

※1:守屋邦彦、池知貴大(2021)「日本人ブレジャー旅行者の特性と地域における取組みについての一考察」(日本観光研究学会、観光研究Vol.33特集号)

ブレジャー旅行者の属性面での特性とは

筆者らが実施したブレジャー旅行者へのアンケート結果(※2)を分析した結果、まず属性面では、ブレジャーの実施には、普段からの旅行経験、年齢、テレワークの実践、ブレジャーを実施した訪問地の訪問経験が影響することが明らかとなった(図1)。

普段からの旅行経験については、国内旅行、海外旅行とも0回と1回以上ではブレジャー実施の割合に大きな差がみられた。一方で、旅行回数の増加については割合に大きな差はみられなかったことから、旅行回数の増加については旅行経験の有無ほどにはブレジャー実施に影響を及ぼしていないものと考えられる。

年齢については、1989年~1995年の間に生まれた世代が、それより年齢が上の世代に比べてブレジャー実施の割合が高かった。これは、若い世代においては未婚で自分の時間を確保しやすい、私生活を優先したいといった意識が高いことが影響していることも考えられる。

テレワークの実践については、制度が導入されており、自身も実践している場合にブレジャー実施の割合が高かった。ブレジャーを実施することでオフィスを離れる期間が長くなるものの、場所の制約が少なく働けるテレワークが実践できることにより、ブレジャーを実施しやすくなることが考えられる。

ブレジャーを実施した訪問地への過去の訪問経験については、0回と1回、2回ではブレジャー実施の割合に大きな差がみられた。一方、3回以降からは割合が低下していることから、業務目的で一、二度訪れた際に訪問地について何らかの興味関心を抱き、次に訪れる機会でブレジャーを実施する、という傾向があることがうかがえる。

図1 ブレジャー実施者の属性に関する特性まとめ
出所:筆者作成

※2:2019年5月に実施した、株式会社クロスマーケティングのアンケートパネルを対象としたインターネットアンケート調査の結果を分析。調査対象者は2018年度に宿泊を伴う出張(仕事目的の旅行)を行った全国の20歳以上の男女とし、回答者数は1,500名。コロナ禍以前のデータを利用しているのは、コロナ禍においては業務目的の旅行の実施が大きく減少するなどの特殊な状況であり、コロナ禍が一定程度収束した後の知見を現時点で得るためのデータとして適切ではないと判断したため。

ブレジャー旅行者を仕事と私生活の関係で分類すると

ブレジャー旅行者について、アンケート結果を分析した結果、仕事と私生活の関係に基づくグルーピング(セグメンテーション)とブレジャーの実施に関係があることが明らかとなった(図2)。仕事と私生活を上手く分けつつも、仕事のことを私生活の間でもきちんとマネジメントできている層(セグメント2)でブレジャー実施者の割合が高いことから、仕事と私生活のバランスが上手く取れていることが、ブレジャーを実施する上では重要なポイントとなることがうかがえる。しかしながら、セグメント2は調査対象者全体の16%であり、仕事と私生活のバランスが上手く取れている層はそれほど多くはなかった。

図2 仕事と私生活の関係に基づくセグメンテーションとブレジャー実施の関係
出所:筆者作成

地域に求められる取り組みとは

これらのブレジャー旅行者の属性やセグメンテーションの特性から、企業・団体がブレジャーやテレワークの規程を整備すること、国が企業・団体のこうした取り組みを後押しすることなどにより、仕事と私生活のバランスを上手く取れる層を増加させていくことがブレジャー促進にもつながるものと考えられる。一方で地域においては、業務目的ではじめて自地域を訪れた若い世代の旅行者に対して、次に自地域を訪れた際にブレジャーを実施したくなるよう、自地域に関する各種情報を与えて関心を持ってもらうような取組みが重要と考えられる。また、コワーキングスペースの整備及び立地場所の紹介など、ブレジャー実施時にも仕事のことをきちんとマネジメント出来る環境の整備及びその情報提供も重要と考えられる。

おわりに

今回紹介した研究ではブレジャー旅行者が対象であったが、今後は休暇の合間に仕事も行うワーケーション旅行者やアドレスホッパー等と呼ばれる、特定の拠点を持たずに国内外を移動しながら暮らしつつ仕事をするといったライフスタイルの人達などへも視野を広げた研究も必要と考えられる。そして、こうした旅行者に関する知見の蓄積と共に、受け入れる地域側において、業務目的の旅行の1つでもあるMICEの誘致・開催の促進などとも連動しつつ、こうしたブレジャー旅行者の受入れを拡大させていくためにどのような取り組みが求められるのかについての研究を今後も進めていきたい。