先読み!マーケット 第四話

概要

第四話 視点を変えて宿泊旅行統計を読む

みなさんこんにちは。観光文化事業部の安達寛朗です。塩谷と一緒に「先読み!マーケットトレンド」のコーナーを担当することになりました。どうぞよろしくお願いします。

さて、昨年から宿泊旅行統計が国土交通省により整備されています。これまで自治体ごとに作成されていた観光統計と異なり、自治体間で比較することもできますので、自治体や観光施設などの方にとって様々な使い方ができると思います。ここではその中で、プロモーション費用を計画的に配分する上で参考になる、都道府県別の県外旅行発生数に着目してみます。

◇県外宿泊旅行の発生源はどこ?◇

宿泊旅行統計をみる際は、どの都道府県にどれだけの宿泊量があったかという、着地側の視点でみることが多いと思います。ただ、宿泊旅行統計のデータには、各都道府県への宿泊者がどこから来たのかという、宿泊者の居住地データも掲載されています(従業員数が100人以上の宿泊施設についてのみではあります)。今回はこの居住地別比率を使って、宿泊旅行統計を発地側の視点からみてみたいと思います。

図1のグラフによりますと、最も大きい県外旅行の発生源は「東京都」であり、5,000万人泊以上の県外旅行需要が発生しています。これは県外旅行需要全体の25%近くを占めており、県外旅行者の実に4人に1人は東京都民ということになります。続いて、大阪府、神奈川県、愛知県となっており、経済規模の大きな都府県において、県外旅行が多く発生していることが分かります。都道府県民一人あたりの県外旅行宿泊数をみても、経済規模の大きな都道府県において高くなる傾向が見られますが、北海道の場合は道民による道内旅行も多いため、一人あたりの県外旅行宿泊数は少なくなっています。

 図1 県外宿泊旅行の発生源(県外旅行の延べ宿泊数)
資料:「宿泊旅行統計」(国土交通省)より(財)日本交通公社作成

資料:「宿泊旅行統計」(国土交通省)より(財)日本交通公社作成

◇流入超過幅が大きいのは沖縄県。東京都は流出超過に。◇

先ほどは、宿泊旅行統計を県外旅行の発生量データに変換しました。県外旅行の発生量は、宿泊旅行需要の県外への流出と捉えることもできます。そこで、県外旅行の流出量と流入量の差に着目し、宿泊旅行需要の収支を整理してみました。もし県外旅行の流出量のほうが流入量よりも多いようであれば、それはその県にとって宿泊旅行需要収支が赤字になっている、ということになります。(旅行先によって異なる旅行代金も考慮できれば、もっと正確に収支の差を見ることができます。)

図2を見ますと、宿泊旅行需要収支のプラス幅が最も大きくなったのは沖縄県でした。沖縄県への県外旅行の流入量は、流出量の実に8倍以上に達しており、大幅な流入超過となっていることがわかります。次に流入超過幅が大きかったのは北海道でした。北海道は、県外旅行の流入量は沖縄県よりも多いものの、流出量も多いため流入超過の幅は沖縄県よりも小さくなっています。一方、流出超過となっているのは東京都、埼玉県、大阪府などの、大都市圏を構成する都道府県でした。特に、東京都では流入量が2,000万人泊以上と最も大きくなっていますが、流出量も5,000万人泊以上となり、3,000万人泊も流出超過となっています。ただし、同じく大都市圏を構成する京都府や千葉県では流入超過となっています。

このような流出入の差は、いったい何に起因しているのでしょうか。まず、県外への宿泊旅行の発生量については、県内総生産と非常に強い相関関係にあることがわかりました。このことから、県内総生産の大きい都道府県では、宿泊旅行需要の県外への流出が大きくなる傾向にあります。

一方、県内総生産は県外からの出張需要とも関係が深いため、県内総生産の大きい都道府県では宿泊旅行需要の県外からの流入量も大きくなる傾向が見られます。ただし、宿泊旅行需要に占める出張需要の割合は、06年度に当財団の行なった調査(JTBF旅行量調査)によりますと19%程度となっています。このため、県内総生産で説明できる部分は限られ、流入量に対する県内総生産の影響は、流出量に対するものほど大きくはありません。むしろ、観光地として人気の高い北海道や沖縄県、千葉県といった都道府県への観光需要が大きく、これらの都道府県が流入超過になっています。なお余談ですが、千葉県への延べ宿泊数に占める浦安市の割合は4割近くとなっており、千葉県は東京ディズニーリゾートがなければ福岡県に次ぐ流出超過県となりそうです。

 図2 県外宿泊旅行需要の収支
資料:「宿泊旅行統計」(国土交通省)より(財)日本交通公社作成

資料:「宿泊旅行統計」(国土交通省)より(財)日本交通公社作成

最後に、私どもでは皆様が日頃感じている旅行市場への疑問や関心のあるテーマなどについてお便りを募集しております。今後の調査設問などに取り上げたいと思いますので宜しくお願い致します。ではまた。

< 安達 >

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発注者 公益財団法人日本交通公社
プロジェクトメンバー 安達寛朗
実施年度 2008年度