概要
第六話 オピニオンリーダー層にも金融危機の影響 ~2009年の国内旅行市場予測
世界金融危機の影響が実体経済に波及しています。もともと日本経済は、2006年末頃をピークに2007年以降は下り坂にありましたが、追い打ちをかけるように歴史的な株価暴落が10月に起こり、消費者の買い控え、企業の設備投資の縮小、不動産業などの倒産増加、非正規社員の契約打ち切りといった形で景気低迷が深刻化しています。
こうした状況になると、景気動向に比較的左右されにくい旅行者層を顧客の中心に据えていく戦略の重要性を否応無しに認識させられます。
今回は、旅行市場の中核を占めるオピニオンリーダー層の旅行動向を中心にお話をします。
◇旅行頻度と旅行重要性への認識との相関◇
オピニオンリーダー層における「旅行」の重要性への認識について確認しておきましょう。下図は、「オピニオンリーダーに聞く旅行者モニター調査(07年11月実施)」で「旅は人間の成長にとって欠かせないものだと思う」か否か、を聞いたものです。この考え方に「当てはまる」と回答した人の比率は、年間国内宿泊旅行回数が「4回以上」の人で40.6%、「0回の人」で15.1%と、旅行頻度に比例して強まることがわかります。さらに、「4回以上」かつ「旅行好き」「周囲への影響力がある」といった特性を持つオピニオンリーダー層に絞ると「当てはまる」は63.2%とさらに高い比率を占めます。
他にもこの調査では「旅行に行かなくても近場で十分楽しめると思うようになった」人は旅行頻度が少ない人に多く、「どこでもドア(瞬間移動装置)があると旅行の楽しみが失われると思う」人は旅行頻度の高いほど多いといったことなどが分かっています。
筆者は08年の3月と10月にオピニオンリーダー層へのグループインタビューを実施しましたが、この層の消費における「旅行」の優先順位が高く、比較的景気の影響を受けにくいことを改めて実感しました。もちろん、この層は比較的富裕層が多いことから「逆資産効果」などの形で景気の影響は受けるのですが(下図)、安い商品を探したり、交通費を節約するなどして、できるだけ回数を減らしたくないという人が多いのです。
◇「減る」が上回った2009年の旅行意欲◇
08年11月末に実施した最新の調査結果をご覧いただきたいと思います(調査の概要)。
最初の図は今後1年間の旅行回数の増減について聞いたものです。回を追う毎に景気後退の影響から「増える」との回答が減っています。11月調査では「減る」が26%と「増える」22%をやや上回っています。世界金融危機の実質な影響を半数以上の人が受けていて、特に「株や債権、投資信託などの損失」が大きな影響を与えています。
次の図は今後1年間の旅行について、1回当たり費用の増減見通しについて聞いたものですが、やはり「増える」(18%)よりも「減る」(27%)との回答が上回っています。
宿泊旅行の費用を抑えるための方法についても聞きました。1位は「ネット予約で費用を抑える」47%、2位は「安い旅行商品を探す」43%で、情報探索の自助努力によって流通マージンや価格を抑えようという動きが上位に来ています。「旅行回数を減らす」は40%と3位、「遠距離の旅行を減らして近距離の旅行にする」は29%で8位、「旅行日数を短めにする」は23%で10位です。この他、「お土産代を減らす」「高速道路割引の活用」「宿のグレードを落とす」「交通費を減らす」など、個別の費用を抑えるとの意見も3割前後になっています。
◇2009年の旅行市場見通し◇
最後に、昨年12月17日に「旅行動向シンポジウム」の席上で発表した2009年の宿泊旅行市場の見通しをご紹介します。出張・帰省等を含めた宿泊旅行延べ回数の伸び率は、-2.5%と予測しています。低頻度層の参加率が低下するものの、オピニオンリーダー層を中心に旅行頻度の高い層では年間としては横ばいもしくは微減程度になるとみています。また、旅行消費単価はガソリン価格等の低下を背景に-2.0%を予想しています。
今回ご紹介できなかったオピニオンリーダー層の志向する旅行内容等については、いずれまたお話ししたいと思います。
私どもでは皆様が日頃感じている旅行市場への疑問や関心のあるテーマなどについてお便りを募集しておりますので宜しくお願いします。ではまた。
< 塩谷 >
この研究・事業の分類
関連する研究・事業 | |
---|---|
関連するレポート | |
発注者 | 公益財団法人日本交通公社 |
プロジェクトメンバー | 塩谷英生 |
実施年度 | 2008年度 |