概要
第七話 リピート志向の旅行者は不況に強い?!
こんにちは。(財)日本交通公社の安達です。
歴史的な景気の後退局面の中、大きな期待を背負ってオバマ新政権が誕生しました。しかし、大統領就任式当日の米国市場では株価が大幅に下落するなど、まだまだ景気の先行きに明るさはみえません。このような状況の中、(財)日本交通公社では昨年12月に、宿泊施設における現状を把握するため「JTBF宿泊客動向調査」を実施しました。この調査において、宿泊施設の方々に今後有望であると考えているマーケットを質問させていただいたところ、「自施設へのリピーター」がもっとも多く6割を超える結果となりました。
景気の悪化が進んでいる状況においても、むしろそのような状況だからこそ、リピーターに対する期待の高さがうかがえます。そこで、今回はリピーターについて考えてみたいと思います。
◇全体の2割が宿泊施設リピーター ~ 30代でお気に入りの宿を見つける?◇
どれくらいの人が、お気に入りの宿泊施設にリピートしているのでしょうか。やや古いデータで恐縮ですが、06年10月に実施した「旅行者動向調査」(旅行の実態や意識について全国4,000人を対象にした郵送アンケート調査)の中で、「3回以上利用経験のある宿泊施設はありますか?」という質問をしています。この結果をみますと、同一の宿泊施設を3回以上利用した経験のある人(以下、宿泊施設リピーター)は全体の2割程度いることが分かりました(図表1)。
また、宿泊施設リピーターは連泊滞在型の旅行をしやすいことも分かります(図表2)。このため、連泊滞在を増やしたいとお考えの宿泊施設では、リピーターの獲得に集中的に取り組むことも効果的かと思われます。
図表1 宿泊施設リピーター比率 | 図表2 宿泊施設リピーターと連泊滞在のしやすさ |
この宿泊施設リピーター比率は年代が上がるにつれて高まる傾向にあります(図表3)。特に、34歳以下と35歳以上ではこの比率に大きな差があることから、30代前後でお気に入りの宿泊施設を見つけてリピートし始める人が多いのでは、という可能性が考えられます。
ここで、「オピニオンリーダー調査」にも関連する設問がありますので、それもあわせてみてみましょう(08年6月調査の概要、08年11月調査の概要)。08年6月と11月に実施した「オピニオンリーダー調査」では、「良い観光地や宿が見つかれば、同じ所へ足を運ぶかどうか」、「良い観光地や宿が見つかっても、違う所へ足を運ぶかどうか」を質問しています。図表4の基準で「リピート派」と「新規開拓派」に分類したところ、オピニオンリーダー層ではリピート派が過半数に達し、リピーターの存在感の大きさがわかります(図表5)。年代別にみると、リピート志向は30代から50代において高くなっており、一度お気に入りの場所を見つけるとしばらくは新規開拓しなくなる傾向が強まることが分かります。若い世代の宿泊客をリピーターにすることで、30代から50代にかけて何度も来てもらうことができれば理想的でしょう。
リピート派は、「自分の勧誘がきっかけでその宿を利用している人がいる」や「施設やサービスの改善点を伝えたことがある」の選択率が高い傾向にあり、新規顧客の獲得やサービス内容の改善といった面においてもお気に入りの宿への貢献がうかがえます。
また、リピート派は「国内旅行の最新情報に敏感」、「話題の旅行先にはすぐ行く」、「好奇心が旺盛」といった項目の選択率が低く、やや控えめでのんびりした人が多いようです。
図表3 宿泊施設リピーター比率(年代別) |
図表4 リピート派の分類基準 (オピニオンリーダー層) |
図表5 リピート派比率(オピニオンリーダー層) |
◇宿泊施設へのリピート理由 ~ 価格を重視しないリピーターも4割◇
「旅行者動向調査」(06年10月実施)において、お気に入りの宿泊施設へのリピート旅行の主目的を質問したところ、「その宿泊施設への宿泊が主目的」は3分の1程度となりました(図表6)。「オピニオンリーダー調査」(08年6月実施)では、今後「観光する時間よりも宿泊施設での滞在時間の方が大切だ」と考える人が増加する、という結果が出ています。人口の減少にともない旅行市場も伸び悩みが予想される中、宿泊施設での滞在を目的とする旅行市場はこれから拡大が期待できるため、ここを効果的に取り込んでいきたいところです。
宿泊施設リピーターのリピート理由(旅行者動向調査、06年10月実施)をみると、「価格が手ごろ」がもっとも高くなりました(図表7)。しかし逆に捉えれば、価格に敏感には反応しない層が4割程度はいる、と考えることもできるでしょう。
次に、「何度も利用していて安心」が高くなっています。サービス産業の特徴として、「無形性」(サービスには形がなく、実際に受けるまで本当の内容・質がわからない)がよく指摘されます。どれだけ雑誌やホームページで宣伝したとしても、サービスの全てを正確に伝えることは難しいでしょう。しかし、一度利用したことのある施設であれば、ある程度サービス内容を正確に想像することが可能になります。つまり、利用してもらうことがその施設にとって一番の宣伝になるのです。また、サービス産業には「変動性」(サービスは生産と消費が同時に行なわれるため品質の管理が難しく、接客要員の状況等によってサービスの質がばらつく)という特徴もあります。最初に満足度の高いサービスを提供しても、その後も同じレベルを維持できなければいけません。「何度も利用していて安心」が2番目に高くなっていることから、これらの点に対してリピーターが強く反応していることが分かります。
図表6 宿泊施設リピート旅行の目的 | 図表7 宿泊施設へのリピート理由 |
ここで、?リピート理由に価格の手ごろさを選択したかどうか、?旅行の主目的がその宿泊施設への宿泊か周辺観光か、の2軸で宿泊施設リピーターを分類し、それぞれのリピート理由を整理しました(図表9)。すると、「A.価格は重視せず 宿泊施設目的」グループのリピート理由は、「温泉・お風呂がよい」がもっとも高くなり、「サービスがよい」、「料理がよい」とつづいています。価格を重視せず宿そのものを目的にリピートしてもらうためには、温泉やお風呂での差別化が効果的のようです。「何度も利用していて安心」が低くなっていますが、これはこの項目を重視していないというよりも、前提条件であり当然のこととして捉えられている、と考えたほうがよいでしょう。
「C.価格を重視 宿泊施設目的」のリピーターは、「A.価格は重視せず 宿泊施設目的」と同様に「温泉・お風呂がよい」がもっとも高くなっています。一方で、「A.価格は重視せず 宿泊施設目的」では2番目に高かった「サービスがよい」は2割程度にとどまっています。宿にはこだわるが価格も重視するリピーターは、サービスの優先順位を低くし、温泉やお風呂、料理にこだわっていることがわかります。ただし、「何度も利用していて安心」も高くなっていますので、一定程度のサービス水準は確保する必要があるでしょう。
図表8 宿泊施設リピーターのグループ | 図表9 宿泊施設へのリピート理由(グループ別) |
◇リピート志向の高い旅行者は不況に強い?!◇
最後に、今後のリピーターの旅行動向を見てみましょう。「オピニオンリーダー調査」(08年6月、11月実施)によりますと、リピート派と新規開拓派(図表4を参照)の旅行意向はいずれも11月調査のほうが低いものの、リピート派のほうが底堅く推移すると期待されます(図表10)。
この背景には、08年9月以降に深刻化した金融危機の影響がうかがえます。「オピニオンリーダー調査」(08年11月実施)では、今回の金融危機が収入や資産運用等に与えた影響について質問しています。その結果をみると、新規開拓派のほうがより金融危機の影響を受けている傾向が見られ、金融危機の影響を受けている人のほうが今後の旅行回数を減少させると回答しています。新規開拓派は、旅行だけではなく資産運用についても積極的であり、今回の世界的な株安の影響を強く受けているようです。逆にいえば、リピート派は堅実な資産運用を行なう傾向にあるため、景気の波に左右されにくい可能性が指摘できます。
図表10 リピート派と新規開拓派の今後1年間の旅行意向(オピニオンリーダー層) |
最後に、私どもでは皆様が日頃感じている旅行市場への疑問や関心のあるテーマなどについてお便りを募集しております。今後の調査設問などに取り上げたいと思いますので宜しくお願い致します。ではまた。
< 安達 >
この研究・事業の分類
関連する研究・事業 | |
---|---|
関連するレポート | |
発注者 | 公益財団法人日本交通公社 |
プロジェクトメンバー | 安達寛朗 |
実施年度 | 2008年度 |