概要
第十話 観光地ブランド力の強化戦略 ~ オピニオンリーダー層が選ぶブランド力のある国内旅行先について
観光まちづくりが盛んになる時流にあわせ、観光地のブランド力への関心は高まっています。第十話では、オピニオンリーダー層(以下ではOpinion Leaderの頭文字を取ってOL層と言う)に聞いたブランド力のある観光地についてお話します。(調査の概要)
OL層に対して、”「ブランド力のある旅行先」と言ったら、あなたはどんな旅行先をイメージされますか”という質問をしています(単数回答)。その結果を示したものが図表1で、回答個数が多い上位10か所の国内旅行先を示したものです。「京都」は337票を集めて第一位で、次いで沖縄、北海道が続いています。
温泉地だけでみると湯布院が首位であり、以下に箱根、黒川温泉が入っています。自然系観光地では屋久島が7位に入っています。
ブランド力に関する各々の観光地に対する認識は性年齢別に異なります。(図表2)
例えば、女性層において、京都の人気は男性層よりも相対的に高くなっています。特に50代女性の36.4%、60代以上の37.2%が京都をブランド力のある旅行先として評価しており、その比率は同年代の男性より1割程度高い数字になっています。また、湯布院は20代、30代の若い女性において同年代の男性より高く評価されています。
この他、沖縄は比較的20代~40代の若い年代においてブランド力が強く、一方で北海道は60代以上の年配層においてブランド力が高い傾向にあります。
◆面的にみたブランド力分散の傾向
都道府県別の順位をみると(図表3)、首位にある京都府は、ほとんどの人が「京都」と回答しており、京都市街のブランドイメージが強く顕れています。同様に千葉県もTDRのブランドイメージが最も強くなっています。沖縄県は、石垣島、宮古島、西表島などとの回答も若干ありますが、県内の個別観光地よりは沖縄全体としてのブランド力が強いようです。
一方で、観光地ブランドが分散している都道府県もあります。代表的な例は北海道で、北海道全体のブランド力も強いが、札幌、知床、ニセコ、富良野などの個別地域の他、施設レベルでも、旭山動物園がブランド力ある観光地として認識されています。同様に長野県も県内の個別観光地のブランド力が比較的強い一方で、長野県との回答はほとんど見られません。
このように都道府県別にブランド力と記入された旅行先をみると各都道府県別の観光地ブランド力の現状と今後の課題がみえるのではないでしょうか。
沖縄県は全体としてのブランドイメージが強く、沖縄のビーチや定番化された沖縄文化のイメージが強く、地域の多様な魅力が陰に隠れて観光客に伝わりにくい部分もあるでしょう。一方で、長野県のような地域は、個々の観光地のイメージは強いものの、長野県としての魅力を旅行者に訴求していくことが今後の課題となるでしょう。
その他、4位にある大分県、8位の鹿児島県、9位の熊本県などは、湯布院、屋久島、黒川温泉などの個別観光地に回答が集まっています。このような個別地域が上位に位置するのは何故でしょうか。
◆ブランド力が評価される理由
旅行の達人とも言うべきOL層が評価した観光地のブランド力とは、どのようなイメージから構成されているのでしょうか。
旅行先へのイメージに関する選択肢をいくつか示して、その中から「ブランド力のある観光地に当てはまるもの」を選んでもらっています(複数回答)。
図表4がその結果です。「旅行満足度が高いところ」「観光サービスの水準が高いところ」「リピーターが多いところ」などで回答率が高く、観光地ブランド力に関する一般的なイメージとなっているようです。その他に、「独自の世界観をもっているところ」や「観光事業者にプロ意識があるところ」などもやや高く評価されています。
◆ブランド力の根源は何か?
ところで、上記の選択肢への回答傾向を詳しくみると、相関性の高い選択肢群が幾つか見受けられます。たとえば、「満足度が高いところ」と「観光サービスの水準が高い」や、「最近注目を集めている」「人気ランキングで上位にある」「観光客の数が多い」などです。
そこで、統計学の手法の一つである「主成分分析」を用いて、各イメージの分類を試みました。(図表5) その結果、「旅行費用が高い」と「独自の価値観」が最も背反する要因として示されました。「旅行費用が高い」とともに「負」の方向にあるイメージが「観光客の数が多い」、「人気ランキングで上位」などの言わば、「大衆性」「知名度」「多数派」などを表すイメージです。
一方で、「独自の価値観」とともに「正」の方向にあるイメージは「地場産業の職人がいる」とか「地域に住む人々を尊敬できる」などは、言わば、観光地が持つ「固有性」、「差別性」、「オンリーワンの価値」などを示すイメージだと思われます。
観光地のブランド力とはこの両者のイメージの中で、どちらかに他地域に対する高い「競争力」があれば、その観光地のブランド力が高く評価される傾向があると考えられます。 そして、OL層にとってのブランド力のある観光地は、後者の特徴を持つ地域となっています。
“「ブランド力のある旅行先」と言ったら、あなたはどんな旅行先をイメージされますか”の問いに対するOL層と非OL層(年4回以上宿泊旅行をしているが、影響力や能動性等の点でOL層より下位にある層)の意見を比較したのが図表6です。OL層は非OL層に比べて「観光サービスの水準が高い」「独自の世界観を持っている」「観光事業者のプロ意識がある」をより高く評価し、先述した「固有性」、「差別性」、「オンリーワンの価値」を重視していると考えられます。
観光産業の規模や、資源の蓄積度などから、京都、沖縄、北海道などがトップ3を占めるのは自然な結果とも言えるでしょう。しかし、湯布院、屋久島、黒川温泉等、面的にも多様性からも限定された地域であっても、地域独自の世界観が観光客に伝わればブランド力が高まる結果につながっています。
中でも鍵となるのは「独自の世界観」であり、観光まちづくりを進める地域がそのブランド力を高めていく上での道標となるものではないかと思います。
私どもでは皆様が日頃感じている旅行市場への疑問や関心のあるテーマなどについてお便りを募集しておりますので宜しくお願いします。
< 孫・塩谷 >
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発注者 | 公益財団法人日本交通公社 |
プロジェクトメンバー | 塩谷英生 |
実施年度 | 2009年度 |