航空路線と観光地 ・・・サイパンと同じ問題が国内観光地にも起こりうる  [コラムvol.100]

 サイパン・テニアン・ロタ(北マリアナ連邦)は、成田から飛行機で約3時間半で行ける身近な南国リゾートです。2008年の日本人来島者数は約21万人(前年比6.6%増)でしたが、2009年に入りインフルエンザ等の影響で1~7月までの来島者数累計は前年同期比で7%減少しています。しかし、懸念されているのは、インフルエンザだけではありません。

■ 不安定な航空座席供給量

 マリアナ政府観光局によると、サイパンへの日本人来島者数は全来島者数の54%(2008年)を占めており、日本人来島者数がサイパンの観光産業を左右する、といっても過言ではありません。日本人来島者20万人以上というのがマリアナ政府観光局の目標とのことですが、実は日本とサイパンをつなぐフライト数は非常に不安定なのです。
 例えば、2009年9月1日には、成田・名古屋・関西空港から合わせて週39便、6,992席が供給されていましたが、10月1日には名古屋便がなくなり週12便、2,252席に減少しています。そして12月20日には、再び名古屋便が復活するので、週28便、5,572席、来年2010年3月1日には33便、6,372便と、毎月のようにフライト数・座席数が大きく変動します。
 最大マーケットである日本からの来島者数を毎月安定的に誘致するためには、フライト数の維持、つまり安定した座席供給量の確保が最優先されるのです。フライト数が安定しないことには旅行会社もツアーを造成できませんし、そうなると「サイパンに行きたい」という需要があってもそれを吸収することができなくなります。

日本~サイパン間のフライト数(週)

■ 航空座席数と観光客数

 サイパンのように、日本の観光地にとっても、ある特定エリアからの観光客が大半を占める場合、そしてそのエリアと観光地が航空路線で結ばれている場合、フライトの数や機材の大きさ(座席数)によって、観光客数が左右されるといえます。
 例えば北海道東部の阿寒湖温泉は釧路空港が最も近いのですが、地元の大手旅館経営者は「かつてに比べ機材が小型化したので、旅行会社がツアーを組んでくれなくなった。これが観光客減少の理由の1つではないか」と言っています。羽田~釧路便の機材から座席数を算出してみると、1999年は1,500席でしたが、2009年は1,190席と、確かに10年間で20%も座席数が減少しています(便数はいずれも5便で変わりません。JTB時刻表10月号より算出)。阿寒湖温泉の観光客数も、1999年度の173万人から2008年度は113万人に減少しています。観光客数減少には複数の理由が想定されますが、羽田~釧路便の座席数の減少もその一因といえるかもしれません。

■ フライト数や機材の変更で誘客エリアや旅行ルートも変わってしまう?

 2009年10月末を目途に、政府のタスクフォースが日本航空の経営再建計画案の骨子をまとめる見通しですが、路線撤退や減便が提案されるのは確実です。また、2009年6月に開港したばかり富士山静岡空港と福岡並びに札幌を結ぶ路線は、すでに日本航空が公表した廃止検討路線に含まれています。静岡県としては、九州と北海道からの観光客を見込んでいたはずですが、日本航空が路線を廃止してしまうと、それらのエリアからの誘客は難しくなります。東京まで飛行機で、そして東京からは新幹線で静岡へ、という旅行ルートもありますが、「直行便で富士山へ」という利便性が失われてしまうからです。フライト数が減る場合も、阿寒湖温泉のように旅行会社はツアーを組みにくくなる可能性があります。

 地方空港周辺の観光地にとってフライト数はいわば「命綱」でもあり、それを維持するためにはどうすればいいか、観光地は真剣に考えなければならないのではないでしょうか?