「観光圏」と千円渋滞から思うこと-高速道路の活用を [コラムvol.82]

<はじめに>

 先月(4月22日)、観光庁から「観光圏」の2回目の認定地域・14カ所が発表され、全国で30地域となりました。しかしながら、地域の関係者などは別として、国民への認知度は今ひとつ芳しくないのが現実ではないでしょうか。観光圏を旅行するとこんなメリットがあります!という明確なメッセージを発信して行かなければなりません。そのアイデアの一つとして、GW中は”千円渋滞”と言われるほど利用が集中した「高速道路」や「ETC」を活用してはどうでしょうか。

<滞在型観光と観光圏>

 「観光圏」とは、観光圏整備法に基づいて認定される地域のことで、国内外の観光客が2泊3日以上滞在して楽しんでもらえるよう”複数の観光地や幅広い関係者が連携”し、地域が主体となって創意工夫した取組みを行うエリアのことです。この法律に基づく観光圏整備計画が国土交通大臣から認定されると、地域が行う各種事業に対して国から支援されることとなっています。
 滞在型といえば、1987年、総合保養地域整備法(リゾート法)が施行され、地域活性化と内需拡大の名の下で民間による大規模リゾート開発が進められました。リゾートエリア内では”少なくとも年一回、家族が1週間程度滞在する”というライフスタイルが目標とされましたが、やはり1週間の滞在というのは当時の日本人の旅行スタイルからしても背伸びしていたと言わざるを得ません。その経験を踏まえて、まずは2泊3日から・・、しかも一カ所滞在ではなく、観光圏内の複数観光地で2泊を・・というのが観光圏の基本戦略です。両者の枠組みを表に整理してみました。

枠組み

<広域観光と観光圏>

 ところで、広域観光で思い出されるのは、数年前に島根県の津和野に行き、観光案内板を見たときです(写真)。「この案内板は、島根県と山口県の広域観光振興を目的として、山口県が、津和野町(島根県)に設置したものです。」とあります。恐らく山口県側の萩にも、島根県が設置した案内板があるものと推察されます。お互いに案内板を設置し合うというのは広域観光の原点と言えるのかも知れません。こうした情報提供面での連携も観光圏内を移動する旅行者には役に立つものと思われます。
 「広域観光」の意義は、”広域”という空間の広さにあるわけではなく、むしろ”連携”にあります。複数の観光地がそれぞれの特性を生かして、その機能や魅力を補完したり、連携したりすることにより、様々なメリットが生まれます。とはいえ、観光圏内の観光地がいくら連携しても、旅行者が宿泊先として選ばなければ2泊3日とはなりません。2泊してもらいたい”地域の期待”は、必ずしも”旅行者の行動やニーズ”と一致しないという現実があります。
 複数の観光地をどんなテーマで連携させるかは、地域の側よりも、むしろ旅行者目線を持つ旅行会社が得意とする分野と言えます。観光圏と旅行会社の連携こそが実利に結びつく可能性は高いと言えます。観光圏内での実質的な2泊3日の楽しみ方を発地側の旅行会社だけでなく、着地側でも観光関係組織や地域住民なども巻き込んで旅行者に提案していくことが大切です。

広域観光看板
(写真)山口県が津和野町(島根県)に設置した観光案内板

<高速道路やETCを活用して観光圏のPRを!>

 「観光圏」の総合的な案内や施設、イベント情報などのPRを高速道路のSA、PAを活用してはどうでしょうか。
 高速道路のネットワークと観光圏の分布を図にしてみると、ほとんどの観光圏が高速道路と密接に関係していることが分かります。容易に経路変更が可能な自動車旅行では、旅行中に提供される旬な情報は行動を決める際に重要な要素となります。いくつか観光圏をPRするアイデアを。
 ・観光圏お試しタイプ
 観光圏内にハイウェイオアシスがあれば、そこに車をおいて圏内を半日から一日程度楽しむアクティビティやツアーを提供します。観光圏ではありませんが、例えば長野県の小布施ハイウェイオアシスでは、7年に一度の善光寺ご開帳バスツアーが行われています。長野市内で駐車場を探したり、渋滞に巻き込まれることなく往復できることから、このGW期間中は賑わったものと思います。
 ・観光圏内周遊フリーパスタイプ
 どこまで行っても千円という今回の割引制度は、途中のICで降りることをせずに目的地まで直行するという利用者が多かったものと思います。そこで、観光圏内の高速道路であれば、3日間乗り降り自由のフリーパスを検討してはどうでしょう。30カ所の観光圏の中には広大な圏域もあり、域内の移動が容易になるものと思います。
 ・ETCを活用した情報発信タイプ
 伊勢志摩地域では、昨年度、自動車旅行推進機構と連携して、国土交通省のまちめぐりナビ事業を導入し、ETCから車内の携帯電話に季節や地域に応じた観光情報を自動的に配信する社会実験(事前登録が必要)を実施しました。こうした新しいシステムを活用して観光圏の動態情報を発信することも有効かと思われます。
 高速道路は単なる移動のためのインフラストラクチャーにとどまらず、旅行の楽しみを提供する主要な舞台でもあります。高速道路の果たす「交流の促進」、「地域情報の発信」という役割はますます重要になるでしょう。
 また、今回の高速道路割引は、2年間で約5,000億円が投じられ、景気対策のために既に継続も検討されています。ただ、常態化したときにどうなるのか・・、いつでも安いとなれば、今後はそれほど渋滞も起きないものと推察されます。今後、利用状況を詳細に分析し、”千円渋滞”が発生しないよう少しでも利用の平準化を図り、観光産業の生産性向上に寄与する料金システムの構築が期待されます。

広域観光看板