●注目度が高まりつつある聖地観光
近年、「聖地」を訪れる観光に注目が集まっています。昨年は、20年に一度の「伊勢神宮式年遷宮」、60年に一度の「出雲大社 平成の大遷宮」、熱田神宮の創祠1900年、富士山の世界文化遺産登録が重なった年でした。また、聖地は「パワースポット」として位置づけられることが多く、生気を養うために訪れる人もいます。人気を博する聖地観光ですが、信仰の理由上、見られない部分や立ち入ることができない部分があるため、理解しづらいと感じたこともあるのではないでしょうか。
●聖地観光に対するニーズと対応の考え方
訪れる側としては、理解を深めるためにも、可能な限り本物を見たり体験したりしたいと思うのが当然です。一方、聖地を所有・管理する側にとっては、資源の保全を前提としつつ、一定のルールや決まりを設けたうえで、見せられる部分については可能な限り本物を見せ、見せられない部分については、その理由(資源保護のため、来訪者の安全確保のため、神聖領域であるため、など)を明示するとともに、代替案(図・写真・映像・レプリカ等を用いた解説など)による対応を検討すべきでしょう。とりわけ、聖地のような全てを公開することができない資源の場合、どのような考え方や方法で価値を正しく伝えるかということが非常に重要です。
●聖地での対応 ~沖縄とハワイを例に~
伝え方について、沖縄とハワイの例を取り上げて考察します。
沖縄には、古(いにしえ)からの琉球神話や御嶽(うたき)信仰等にまつわる聖地が多く存在します。来訪者の中には、その神秘性に興味をひかれる人が少なからずいますが、残念ながらこれらの一部は信仰上の理由で「立入禁止」とされています。信仰の歴史や文化、しきたりは当然尊重されるべきものです。その一方で、単に「秘密を知りたい」という興味本位の場合は論外として、その地域の文化を学びたい、文化に触れたいという知的好奇心に駆られるのは、人として無理からぬことと思われます。
そこで、「何もかも禁止」とするのではなく、前述したように、一定のルールや決まりを設定・明確化したうえで説明・案内を施し、どうしても立ち入りが認められない、見せられない部分については何らかの代替案で対応するという、いわゆる「管理の施された責任ある観光」ができるようにしてみてはいかがでしょうか。
具体例を挙げてみます。沖縄県の久高島(くだかじま)にある「フボー(クボー)御嶽」は神聖な領域の一つであり、立ち入ることは禁じられています。その代わりとして、入り口には簡単な説明板が設置されており、どのような箇所なのか理解できるようになっています。そしてもっと知りたい人のために、より詳しい解説がなされている「久高島民俗資料室」が島内に設置されています。
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また、アメリカ・ハワイ州のモロカイ島では、先住民の信仰箇所を「聖域」として定め、先住民を尊重しています。このエリアには柵の設置等による立ち入り禁止措置が施されておらず、その代わりとして心構えとルール遵守(罰則つき)を示す看板を掲げています。
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このような対応を行うことにより、来訪者にとってはその地域のことを一層理解することができ、地域にとっては生活文化の伝承・保存及び魅力度の向上、さらには経済的な効果も含めた地域の活性化につながるのではないかと思われます。
●資源の「保護」と「活用」の両立を目指して
聖地の場合、社寺仏閣等を除くと、神聖な場所であるためか、「活用」という考え方がそれほど前面に出てこなかったように思われます。資源の「保護」はもちろん重要ですが、それは何もさせないこととは限りません。適切に「活用」されることが「保護」につながることもあります。地域のお祭りを例に挙げると、徳島県那賀町の木沢・小畠(きさわ・おばたけ)地区に伝わる『小畠だんじり』は、過疎化や少子化のため30年近く途絶えていましたが、2010年に復活したことにより、屋台組み上げの技術が継承されるとともに、地域に活気が蘇りました。このように、「保護」と「活用」は両立できますので、今後も資源が「保護」され、同時に「活用」されることを願っています。
参考文献:『自然の聖地 保護地域管理者のためのガイドライン(国際自然保護連合:IUCN)『地域づくり』第253号(2010年7月)(財団法人地域活性化センター(当時))