■観光地域づくりを担う人材の重要性
地域で観光地域づくりを進めていく上では、地域としての戦略・計画づくりや各種取り組みの企画立案、関係する様々な主体の間の調整業務といった役割を担う人材(ここでは仮に「観光地域づくり人材」と呼びます)の役割が重要となります。 地域においてそのような人材の発掘や育成、能力向上を図っていくためには、既に活躍されている方々の実際の取り組みや、その前提となる考え方や行動理念を参考にすることは一つの有効な方法だと思われます。 これに関して、一昨年度(2011年度)の調査事業の一環として、全国で観光地域づくりに先進的に取り組む24名の「観光地域づくり人材」の方々を対象として、 |
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○ | 観光地域づくりに取り組むに当たってどのような「想い」や「志」を持っていた(いる)のか |
○ | これまで自分として取り組んできた具体的な観光地域づくりの内容とその背後にある考え方はどのようなものか |
といった内容をインタビューさせていただく機会がありました。 今回は、テキストマイニングと呼ばれる手法を用いて、全国で観光地域づくりに先進的にとり組む方々のインタビューの発言中でどのようなキーワードが使われているのか、またそれらはどのような文脈(組み合わせ)の中で使われることが多いのかという傾向を見ることで、観光地域づくり人材にもとめられる考え方や行動特性について考察してみたいと思います。 |
■観光地域づくり人材のインタビュー発言から読み取れるもの
まず、全24人のインタビューの発言内容を対象として、どのようなキーワードが多く出現しているのかを見てみました。(表1)
上位30位までのキーワードを見ると、まず目を引くのが、出現数の第1位に「地域」、第3位に「町」といったキーワードが挙がっていることです。
通常、観光とは地域固有の「観光資源」があり、それを見たり体験したりするための仕掛けとしての「商品」があり、そこに地域外から「観光客」が訪れれば成り立つもの、というのが一般的な考えです。
しかしながら、今回の結果では、観光資源そのものに関するキーワードは「温泉」(20位)くらいしか見あたりません。また、商品に関するキーワードは「商品」そのものが6位、「体験」が25位などと一部10位以内には入っていますがトップ3ではありません。また、企業の経営であれば最も優先すべき“顧客”となる観光客については、「お客」が8位、「お客様」が22位と、いずれも上位ではありませんでした。
上記のようなキーワードではなく、観光地域づくり人材の口から最も多く語られたのは実は「地域」という言葉だったのです。
表1 キーワードの出現回数上位30位 |
また、24人のインタビュー記録の中で出現したキーワードの共起関係の強さ(出現パターンの似ている度合い)を表したのが図1です。図中の丸の一つ一つがキーワード、その大きさが出現回数、それらを繋ぐ線の太さは共起関係の強さを表しています(関係の強い順に上位70位までの線のみ描画しています)。また、各キーワードの丸の色は全体の構造の中での中心性の強さ(他のキーワードと併せて語られる度合い)を表しており、水色、白、ピンクの順に中心性が高くなることを示しています。
この図からは、「観光客の来訪を誘引する体験などの商品を作り上げること」や、「旅館や行政、農家といった地域の関係者(ステークホルダー)との連携」といった内容が語られている様子がうかがえますが、それ以上に「地域や地元の町と自分」の関係に重点を置いて話がされていることが分かります。
図1 キーワードの共起関係 |
以上のことから、観光地域づくりを推進するにあたって、観光地域づくり人材に求められる考え方や行動特性としては、観光客を意識した「観光振興」とともに、地域の様々な関係者などに目を向けた「地域づくり」の両方の側面が必要である、ということが言えるでしょう。
■おわりに
2003年に取りまとめられた「観光立国懇談会報告書」では「住んでよし、訪れてよしの国づくり」という考え方が示されました。
これは「自らの地域を愛し、誇りをもって暮らしているならばおのずと誰しもが訪れたくなる」という考え方で、我が国が“観光立国”としての取り組みを進める際の基本理念ともなっているものですが、この考え方は、今回の分析で観光地域づくり人材に求められる考え方や行動特性として挙げられた「観光振興」と「地域づくり」の両立、という考え方とも通底するものと思います。
実際、観光庁では、平成25年3月に観光圏整備法(「観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する法律」)に基づく「観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する基本方針」を改正し、「観光振興」と「地域づくり」の両輪に取り組む民間の観光地域づくり人材を「観光地域づくりマネージャー」として制度の中に明確に位置づけました。
具体的には、今後新たに観光圏として認定を受けようとする地域では、上記の「観光地域づくりマネージャー」で構成される「観光地域づくりプラットフォーム」と呼ばれる組織を設置し、同組織が観光に関する様々な事業を実施するに当たっての基本的な方針の策定や、地域におけるワンストップ窓口の構築、事業全体のマネジメント等を行うといった地域づくり(地域マネジメント)を行うことについての必要性が明記されています。
今後、各地域においては、上記の「観光地域づくりマネージャー」を見出し、育成するための仕組みづくりが求められますが、その際には、行政等が中心となって、専門的知見を有する地域の大学等と連携してプログラム開発・実施などに取り組むなどの取り組みが期待されるところです。
※今回の分析および結果の出力にあたっては、立命館大学・樋口耕一氏作成のテキストマイニング用フリーソフトウェア「KH Coder」を使用しました。