1.「観光振興の担い手」を考えよう
「地方創生」や「2020年オリンピック・パラリンピック」を踏まえ、全国各地で観光振興の計画づくり(以下、観光計画)が急ピッチで進められています。しかし、観光計画には決まった形はありません。各地の自然環境や歴史的な蓄積、農業や商工業、観光業、住民意識などに適した計画を自ら策定していかなくてはなりません。また「絵に描いた餅」と言われない計画にするために、計画した施策について、想定する予算、スケジュール等とともに、遂行する「担い手」を具体的に描くことが重要になります。
「観光振興の担い手」については、地域の観光振興のプロセスや人材(キーパーソン)に焦点を当てたレポートがいくつかありますが、その一つに、観光庁が公開している事例集「地域いきいき観光まちづくり2011(http://www.mlit.go.jp/kankocho/page04_000041.html)」があります。この事例集は「地域住民と観光客が共に楽しむ観光まちづくり」に着目した40事例について、地域のキーパーソンへのインタビューや現地調査をもとにした各地域の観光まちづくりのプロセスを、4ページにわたって比較的丁寧に解説したものです(関心のある方は是非ご一読下さい。一つ一つの事例も読み応えがあります)。
本コラムでは、この事例集で紹介されている内容から、「キーパーソンのバックボーンとなる業種」や「連携して観光振興に取り組む方々の業種(組織)」について抽出し、観光振興の現場において、実際にどのような方が「担い手」となっているのかを紹介しようと思います。
2.観光振興の担い手はどんな人?
40事例に紹介されている「キーパーソンのバックボーンとなる業種」や「連携して観光振興に取り組む方々の業種(組織)」を見ると、実に多様な方々がその地域の観光振興に関わっていることがわかります(図1.観光庁「地域いきいき観光まちづくり2011」に見る観光振興の取り組みの担い手・関係者の概要)。その地域の特色が都市、農村、観光地(温泉地等)といった地域差はありますが、概ね一次産業、二次産業、三次産業の全てが関わっていることがわかります。 特に、キーパーソンの方々は、一見すると観光関係以外の出身の方が少なくありません。図2を見ると、比較的観光とは関係が薄い職業出身の方(民間企業、農業団体、その他)が17名、観光とやや関係のある職業出身の方は、専門家、飲食業、行政や商工団体の14名、観光関連産業の職業出身の方は、宿泊業と旅行業を合わせた9名でした。
3.キーパーソンに求められるのは、観光の専門力よりも経営力?
観光振興というと、国内はもとよりインバウンドの観光客を誘致すること(キャンペーン、プロモーション活動、イベント事業等)が求められることが多く、そうした専門知識や人脈が求められる場合も少なくありません。しかし、今回取り上げた事例集では、そうした専門知識等を有していそうなキーパーソンは少数派であることがわかります。
さらに、キーパーソンのバックボーンをもう少し深掘りすると、経営者の経験を有する方が18名と、半数に迫る割合でした(図2)。実際に個別の事例を見ても、「長期的な構想力(「100年後も豊かな町に」「自分たちのふるさとを世界に誇れる町に」」「価値創造・イノベーションの発想(「日々の生活が観光資源」「見方・見せ方を変える」)」「マーケティング(「この地域が求められているニーズ」「地域外オーナーを顧客化」)」「行動力・突破力(「理屈をこねるよりまず動く」)」「マネジメント(「地域経済効果を意識したツアーづくり」「商品価値を損なわない」)」等、経営の教科書にあるような言葉で地域の観光振興の取り組みが語られています。
4.これから地域に求められる人材のヒントが?
現在の観光振興は、「地域の活性化の手段」として語られることが多くなっています。これまで流通経路が固定化していた地域の一次産業、二次産業を、観光という新しい機会を設けて活性化させること。地元の方が顧客の中心だった商店街や飲食店を、観光客という新しい顧客で活性化させること。こうした「観光」が梃子になって、地域全体を「住んで良し、訪れて良し」の地域に生まれ変わらせることがねらいになっています。
こうした時代においては、観光振興の担い手が、必ずしも観光の専門家である必要がないというのはむしろ自然かもしれません。また、事例に取り上げられた地域のキーパーソンには「経営」の経験を有する方々が少なくありませんでした。例えば、「限られた時間と予算の中で、地域の人、モノ、カネを有効に活用し、実績をあげ、成果を見える化し、持続的な事業を作り上げる(そして地域を元気にする)」といった、経営的な思考を有する方が、観光振興施策の「担い手」となることが求められているとも言えそうです。