訪日リピーター「だからこそ」利用したい団体ツアー [コラムvol.371]

 当財団では、台湾、香港、中国の旅行会社9社を対象に訪日旅行商品(団体ツアー)を収集し、集計・分析を行う「JTBF訪日旅行商品調査」を実施しています。私が本調査を担当するようになり3年目となりますが、各国で販売されている旅行商品も少しずつ変化してきているように感じます。今回のコラムでは、各国の訪日旅行商品の団体ツアー利用者像から各国の商品を考えてみたいと思います。

訪日回数が増えると団体ツアーを利用しなくなる!?

 一般的に、旅行に慣れていない場合や初めて訪れる場所は団体ツアーに参加し、旅行の経験回数が増えると、自由度の高い個別手配にシフトしていく…ということが言えるのかもしれません。

 「JTBF旅行商品調査」の対象国・地域の訪日経験回数と旅行手配方法の関係を見てみると、予想通り、訪日回数が増えるにつれて、個別手配が増える傾向が明らかになりました(図表1)。香港、中国が初訪日と訪日リピーターの個別手配率の差が歴然としているのに対し、台湾は訪日回数の増加とともにゆるやかに個別手配にシフトしており、訪日リピーターであっても一定数は団体ツアーに参加していることがわかります。

各国・地域の団体ツアー利用者像と商品内容

 3カ国・地域の商品を分析し、各国の傾向を把握したところ、団体ツアー利用者像と旅行商品の関係が少し見えてきました(図表2)。

 台湾の訪日旅行商品は5日程度で南九州を周遊するものや、沖縄に滞在するもの等、一旅程につき、一つの地域ブロックを楽しむ商品が多い点が特徴です。当財団が現地の旅行会社等を対象に実施したヒアリング調査によると、台湾のリピーターは日本の地方への訪問意向が高い一方、地方でネックとなっている二次交通には不安感がある旅行者も少なくないため、移動に不安を感じることなく、効率的に地方を楽しむ商品が造成されているようです。こうした理由から、リピーターでも団体ツアーへの参加が一定程度あるようです。この他にも、親子自然体験ツアー(白馬、立山等)、4日間毎日異なるゴルフ場でゴルフができる「ゴルフ三昧」ツアー(静岡)、サイクリングツアー(しまなみ街道、能登半島、京都などを自転車で楽しむツアー)、富士山登山ツアー等、もはやSIT(Special Interest Tour)とも言える商品を積極的に販売する旅行会社が増えています。

 これと対照的なのが中国です。旅程は長めで、ゴールデンルートを周遊するツアーが多く、地方への訪問も一部の都道府県に偏っています。団体ツアーの利用者のほとんどが初訪日であるとすれば、こうしたツアー内容であることも納得できます。

 香港は訪日回数と旅行手配方法の関係では中国に似ているのに対し、旅行商品の内容では台湾に近い印象を受けます。地方の商品が増えているだけでなく、近年では、有名タレントや日本通タレントが同行する商品や、観光列車(おれんじ食堂、東北エモーション、指宿の玉手箱等)が組み込まれた商品、白川郷の放水ショーや札幌雪まつりの雪像解体ツアーといった少々マニアックな素材を扱う商品が、いずれもかなりの高額で販売され、主に訪日リピーターに利用されているようです。年々個別手配の割合が高くなっている香港では、各旅行会社が、個人旅行向けパッケージ商品や個別手配とは徹底的に差別化を図り、市場規模が小さくても、商品単価を上げることで生き残りをかけているようにも感じられます。

訪日市場の成熟化とともに団体ツアーへの期待も変化

 「団体ツアー」と聞くと、とかくビギナー向けの商品というイメージがありますが、訪日市場の成熟化に伴い、少しずつ商品の内容も変化しているのではないかと思います。成熟化している市場だからこそ、日本の多様な魅力を理解し、日本で体験してみたいこと、行ってみたい場所等のニーズが細分化されている一方、これらのニーズは個別手配だけでは対応できないという事態も出てきています。こうした状況を受け、台湾や香港の訪日旅行商品では地方に焦点を当てた商品や、SITのような素材を扱う商品を積極的に販売しているのかもしれません。

 現在、訪日市場は過去最高を5年連続更新する等、好調な状況が続いていますが、そう遠くない将来、訪日外国人旅行者数の伸びが鈍化する可能性もあるでしょう。そんなときに訪日市場を支えるのは、訪日リピーターの8割を占める近隣の東アジアからのリピーターではないでしょうか(図表3)。日本のことをよく知っているからこそ「したい」ことはたくさんあるけど「できない」状況はますます増えていくものと考えられます。また、こうした国・地域の旅行会社は団体ツアー利用率が下がる中、訪日リピーターのニーズに対応した良い素材はないか常にアンテナを張り、商品造成にも工夫を凝らしています。

 昨今、訪日外国人旅行者の個別手配化が進み、地方自治体のインバウンド関連施策は、FITを対象としたものに徐々にシフトしてきていますが、訪日リピーター=FIT「だけ」ではないことを念頭に置き、今後は、訪日リピーターのニーズと旅行の障壁になっていることは何かを意識して、発地の旅行会社にセールスしていくことも必要になるでしょう。