この夏も、日本の各地で様々な祭りが催され、賑わいを見せています。地域コミュニティの基盤であり、人々の心のよりどころでもある祭り、とりわけ勇壮な祭りや地域性豊かな祭りは、観光資源としても高い価値を持っています。
一方で、地域コミュニティの存続が危ぶまれつつあるわが国の現状を直視したとき、果たして、今ある祭りのうちどれだけのものが将来に残されているだろうか、という不安を抱かずにはいられません。この機会に、日本の祭りと観光、そして祭りのこれからについて考えてみたいと思います。
■ 「祭り」とは?
資料:『日本の祭り文化事典』(2006,東京書籍)
「祭」は「まつらうこと」。「まつらう」とは、神様に謹仕する、服従・奉仕するという意味で、そもそもの祭りには「神をお迎えし、お供え物を奉り、人の暮らしを守ってもらう」という意味合いがあるようです。
『日本の祭り文化事典』(2006,東京書籍)では、地域共同体の生活と関わる「祭り文化」について、3つに分類しています(図表1)。本来の祭り(祭り文化)は、地域の人から人へと代々受け継がれてきた「生きた伝承」であり、人々の生活に欠かせない大切なものということができます。
■ 多様な日本の祭り
では、こうした祭りは全国でどのくらいあるのでしょうか? 『日本の祭り文化事典』(前述)によると、その数は1,184(新暦で実施の祭り1051、旧暦で実施の祭り133)、また『祭りの事典』(2006,東京堂出版)には、各地域に繰り広げられる身近な1,098の祭りが紹介されています。あらためてわが国の祭りの多さを実感させられます。
祭りは「地域の文化を映す鏡」ともいえます。祭りの楽しみ方は人それぞれですが、個性的な祭りほど、地域それぞれの風土と文化が感じられて楽しいものです。日本三大奇祭に数えられる秋田県の「なまはげ」や長野県諏訪市諏訪大社の「御柱祭」、山梨県富士吉田市の「吉田の火祭」や、裸祭りで有名な岡山県岡山市西大寺の「会陽」などは個性的な祭りの代表ですが、山形県上山市の「カセ鳥」(商売繁盛や火伏せを祈願する行事)、沖縄県宮古島の「パーントゥ」(悪霊払いの伝統行事)など極めてユニークな祭りも沢山あります。
■ 祭りと観光
祭りは、本来、地域共同体の生活に根付いたもので、その地に住む人々のためにあるものですが、華やかな神輿渡御の行列や風流(ふりゅう)の形式を取り入れ、見せる美しさを人々が意識し始めたところから次第に「祭礼化」していったといいます。つまり、祭礼化された時点で、祭りは地域の人のものだけでなく、すでに地域外の人に見られる存在となり、観光対象としての性格をもつものになったのです。
一方、観光の側から祭りをみると、訪れた地の歴史遺産や暮らしのたたずまい、様々な行事など、自然観光を除けば、ほとんどの観光は、それぞれの気候風土の中で育まれた地域固有の文化を見ること(体験すること)ですから、地域コミュニティの要ともいえる祭りは、そうした地域固有の文化を見る・体験する観光の重要な対象ということができます。
観光資源としての祭りについては、当財団が監修し、最近発刊した『美しき日本~旅の風光』に、日本の誇る観光資源として評価された年中行事(祭りや伝統行事)が紹介されています。特A級に評価される「青森のねぶた・ねぷた」、「式年遷宮」、「y・祭」、「阿波踊」、「博多y・山笠」をはじめ、ここに紹介された31の祭りや伝統行事からは、それらの観光資源としての魅力と同時に、日本の文化の多様さ・奥深さが伝わってきます(図表2)。
祭りの楽しみ方や魅力の感じ方は、人それぞれですが、筆者は、特に以下の点に、他の観光資源にない魅力(違い)を感じています。
第一には、祭りは演劇にも似て、舞台、役者、観客がそろって成立するところです。地域の人々と旅行者が溶け合い、同じ時間を共有し、観客も祭りの一部となって創り出される独特の雰囲気は、祭りでしか体感することのできない魅力ではないでしょうか。
第二には、祭りのもつ期間の限定性ということです。祭りは、特定の日に執り行われ、瞬時に終わってしまいます。事前にその情報をつかんで、それに合わせて現地に赴かないと実体験することができない分、希少性が高いといえるでしょう。
ちなみに、「見たくても簡単に見られない祭り」があることをご存じでしょうか。「式年遷宮」(出雲大社60年おき、伊勢神宮20年おき)や諏訪大社の「御柱祭」(6年おき、次回2016年)は有名ですが、茨城県常陸太田市・日立市の「金砂神社磯出大祭礼(金砂の田楽)」は、何と72年間隔(次回2075年)という地元の人でさえ一生に一度経験できるかどうかという祭事もあります(どうやって伝承しているのか、興味が湧きますね)。
■ 祭りのこれから
近年、地域の活性化を狙いとした新しい祭りやイベントが各地に増えつつありますが、一方で懸念されるのは、特に過疎化が進む地方都市や農山漁村の暮らしに根付いた祭り文化のこれからです。
少子化・高齢化が著しいスピードで進むわが国の今後を見据えたとき、30年後、50年後に、果たしてどのくらいの祭りを残すことができるのか、残っているのか、また、それら祭りの伝承を支える上で、観光がどのような役割や関わり方ができるものなのか。
祭りと観光の問題については、観光資源化における「祭りの真正性」や「伝統文化への影響」といった議論もありますが、「祭りのサステイナビリティ(持続性)」もまた、向き合わなければいけない大きなテーマだと考えています。
関連リンク1 当財団機関誌「観光文化」222号 特集:観光資源評価研究「美しき日本 旅の風光」
関連リンク2 書籍『美しき日本 旅の風光』 Excellent Japan ―A Scenic Portfolio
図表2 観光資源評価から見た日本の代表的な年中行事(祭りや伝統文化)
評価 | 評価の基準 | 観光資源数 | 資源名(都道府県) |
特A級 | わが国を代表する資源であり、世界にも誇示しうるもの。日本人の誇り、日本のアイデンティティを強く示すもの。人生のうちで一度は訪れたいもの。 | 5 | 青森のねぶた・ねぷた(青森) 式年遷宮(三重) y・祭(京都) 阿波踊(徳島) 博多y・山笠(福岡) |
A級 | 特A級に準じ、わが国を代表する資源であり、日本人の誇り、日本のアイデンティティを示すもの。人生のうちで一度は訪れたいもの。 | 26 | さっぽろ雪まつり(北海道) 仙台七夕祭り(宮城) 竿燈まつり(秋田) 大曲の花火(秋田) 花笠まつり(山形) 相馬野馬追(福島) 秩父夜祭(埼玉) 三社祭(東京) おわら風の盆(富山) 城端曳山祭(富山) 御柱祭(長野) 高山祭(岐阜) 郡上おどり(岐阜) 尾張津島天王祭り(津島祭り)(愛知) 葵祭(京都) 時代祭(京都) 天神祭(大阪) 岸和田地車祭(大阪) 東大寺二月堂修二会(お水取り)(奈良) 会陽(裸祭り)(岡山) 壬生の花田植(広島) 長崎くんち(長崎) 高千穂夜神楽(宮崎) 沖縄のエイサー(沖縄) 那覇大綱挽まつり(沖縄) 八重山の豊年祭(沖縄) |
資料:『美しき日本~旅の風光』(2014,JTBパブリッシング)