地場産品ビジネスの仕入範囲を考える ~第4回『たびとしょCafé』に参加して[コラムvol.267]
第4回たびとしょcafeの様子

『たびとしょCafe』ゲストスピーカーは産直ビジネスの達人

 『旅の図書館』では、観光研究者や観光の実務に関わる方々への自由な交流の場の提供を目的として『たびとしょCafe』(以下、同カフェ)を定期的に開催しています。先日、2015年8月20日に開催した同カフェのテーマは“地域を元気にする「農産物直売所」のしかけ”。和歌山県で農産物直売所『産直市場よってって』を経営されている(株)プラス取締役会長の野田忠氏がゲストスピーカーでした。

 当財団機関誌『観光文化』225号にて私が担当した特集“観光の経済波及効果を高めるには”において、『産直市場よってって』の事例を取材したことが今回の『たびとしょCafe』のテーマ設定のきっかけ。同カフェと機関誌の初の連動企画です。先に誌面を読んでくださった方にはリアルな情報交換の機会を提供し、カフェにお越しくださった方には機関誌をお配りしてさらに理解を深めていただく、といった相乗効果をねらったこの企画。当日は全国各地で地域活性化に取り組む方々にご参加いただき、当財団の複数の研究員も交えての盛況な会となりました。

 (株)プラスでは、農産物直売所のみならず業務用食品を扱うスーパーや不動産業など幅広い事業を展開されています。野田会長の企業経営者としての豊富な経験に裏付けられたお話には終始圧倒され、「地方創生は行政の補助金に頼ることなく地元企業が主導で実現したい」というお言葉には強い感銘を受けました。

農産物直売所の多店舗化で商圏のみならず仕入範囲も拡大

写真 田辺市周辺は日本一の「梅」の産地です!

写真2 田辺市周辺は日本一の「梅」の産地です!

図 「産直市場よってって」の多店舗展開

図1 「産直市場よってって」の多店舗展開(㈱プラスより提供)

 域外からの貴重な収入である観光客の消費。これを地域経済の好循環につなげるためには、観光事業者が地場産品を積極的に活用し域内調達率を高めることが求められます。しかし、観光ビジネスの現場では地場産品活用と収益確保の両立が難しいことも。そこで、機関誌『観光文化』で観光の経済効果を特集するに当たり、地場産品ビジネスの秘訣を探ろうと考え、今や地場産品の販売拠点として進化をとげた「道の駅」を複数取材しました。その取材先のひとつが、道の駅『柿の郷くどやま』(和歌山県)に出店している『産直市場よってって』だったのです。

 取材前に私が『産直市場よってって』で注目した点は農産物直売所の多店舗経営でした。道の駅は市町村単位で設置されており、その中にある農産物直売所は各市町村が出資する第三セクターによる直営が多いことから、単体店舗での経営がほとんどです。『産直市場よってって』の事例を知り、地場産品ビジネスで地元企業が稼ぐためには多店舗化が有効なのではないかという考えが頭をよぎりました。

 『産直市場よってって』第1号店(和歌山県田辺市)にオープンしたのは2002年(平成14年)のこと。その2年後に、第2号店、第3号店を開店しています。以降、和歌山県内に店舗網を年々拡大。2011年(平成23年)には大阪府、奈良県にも出店し、現在では16店舗を数えるまでになりました。

 店舗を増やすことで『産直市場よってって』全体の商圏が広がるのはもちろんなのですが、直売所の場合には販売商品の仕入範囲も併せて拡大していくことがポイント。近隣の生産者が自ら直売所まで農産物を運び入れる仕組みのため、買い物客のみならず仕入範囲も店舗周辺に限定されるからです。16店舗をつなぐ自前の流通網を整備することで、和歌山県のA店に出荷された農産物を大阪府のB店で販売したり、反対にB店の出荷商品をA店で販売したりすることが可能となりました。単体経営の直売所では品揃えが偏りがちですが、1府2県に仕入範囲を拡大することで販売商品の多様化を実現しているのです。

市町村設置の「道の駅」でも仕入範囲は所在県内が主流

図 道の駅における売上原価の域内調達率の分布

図2 道の駅における売上原価の域内調達率の分布(出典:(公財)日本交通公社『観光文化225号』p19)

 

 地場産品ビジネスにおける仕入範囲の適正規模はどのくらいなのでしょうか。 当財団が全国の道の駅を対象に実施したアンケート結果によれば、売上原価(販売商品や原材料など)の市町村内調達率(所在市町村内の生産者や卸小売業者から仕入れる割合)は平均71%。その分布にはばらつきがあり、市町村内調達率が50%を切る施設が2割を占めました。一方、仕入範囲を所在都道府県内に拡大した場合には、域内調達率は平均95%。アンケート回答施設の9割で域内調達率が90%以上という結果となりました。

 道の駅は設置者が市町村であり、市町村内生産品の販売を重視する傾向が強いです。したがって、一般の観光事業者に比べると道の駅の市町村内調達率は高いと考えられます。そんな道の駅においても、ところによっては仕入範囲を市町村内に限定することは現実的ではないのです。『産直市場よってって』の事例も踏まえると、地場産品ビジネスにおける仕入範囲は少なくとも1都道府県域レベルの規模が必要と考えるのが妥当のようです。

市町村の枠を越えた広域連携がカギ

 地方創生の拠点として市町村設置の「道の駅」に注目が集まるなど、観光振興を含めた地域活性化の推進役として基礎自治体である市町村に寄せられる期待はますます高まっています。しかし、地場産品ビジネスに必要な圏域は市町村よりも広域です。また、観光客にも訪問地を市町村単位で捉える人は少ないと考えられます。市町村行政において“地域”経済の活性化方策を検討する際には、その“地域”の範囲を市町村よりも広域で捉えることが肝要と言えるでしょう。

参考