■今回のテーマ

今年1年の観光の動きを概観し、観光立国基本計画の策定により大きく前進しつつある観光統計の整備に期待するとともに、これからの統計の整備について考えてみます。

■需要動向

 2007年は3月に能登沖地震、7月に新潟県中越沖地震が発生し、北陸、新潟地域は観光面で風評被害を受けましたが、日本全国でみると比較的安定した年だったと思います。去る12月19日、経団連ホールで当財団の主催する旅行動向シンポジウムが開催され、今年と来年の旅行動向についての発表がありました(詳しくはホームページを参照して下さい)。2007年の国内旅行は+1.9%、海外旅行は?0.9%、訪日外客は+13.5%と推計しています。国内旅行は2000年以降宿泊観光旅行の参加率が低減傾向にありましたが、2007年年は若干の上昇となっています。しかし、2006年は愛知万博後の影響もありそうで、まだまだ楽観できる状況ではなさそうです。訪日外客は韓国や中国の大幅な上昇が続いており2010年1000万人の目標も視野に入ってきました。今後さらにのばしていくためには、外客が個人でも手軽にできる旅行環境づくりが重要になってきます。最近の訪日外客の増加により、日本人が日本の魅力が再認識させられ、秋葉原や築地市場をはじめとして地方の観光地など魅力の再発見にもつながっていそうです。

■観光立国基本計画と観光統計の整備

 2007年の観光面での1番のトピックスは6月に閣議決定された「観光立国基本計画」の策定でしょう。中でも数値目標を挙げて計画づくりをしていることに強い意気込みが感じられます。(1)2010年までに訪日外客を1000万人(‘06年733万人)、(2)2010年までに海外旅行2000万人(’06年1753万人)、(3)2010年までに国内観光旅行消費を30兆円(‘05年24.4兆円)、(4)2010年までに国民の宿泊旅行を4泊(’05年2.77泊)、(5)2011年までに国際会議5割増(‘05年168件)。かなり高い目標数値もありそうですが、これらの数値目標に向けた施策が計画、実施されていくものと思われます。しかし、数値目標は数値達成だけに重点が移る危険性があり、長期的に持続可能(サスティナブル)な展開が期待されるところです。

 この基本計画の中で特に注目されるのは観光における統計の整備です。これまで我々調査機関が地域の観光計画を策定する場合、観光統計の信憑性が疑問視されるため、数値目標を挙げて計画策定することは現実的でありませんでした。また観光分野における研究においても数値の信頼性の問題から、科学的な研究が進んでおらず、体系だっていないのが現状です。基本計画には旅行・観光消費動向調査、宿泊旅行統計調査の実施、都道府県の観光統計の共通基準づくり、訪日外客統計の見直しなどが掲げられている。この中でも今年から始まった<a href="/investigation/index.php?content_id=110″>宿泊旅行統計調査(研究員コラムvol.11参照)は、わが国においては画期的なもので、長年の課題でもありました。

 財団法人日本交通公社は、40年前から1970年代ヨーロッパのOECD加盟国の観光委員会の発表した年次報告書(Tourism in OECD Member Countries,1970)を日本語に訳し、欧米での観光統計に多くのことを学びました。特に各国で発表している宿泊統計は国ごとに比較可能な制度の高い統計であり、またそれに基づく分析には目を見張るものがありました。ぜひわが国でもこうした研究を進めなければいけないと気がつかされ、こうした統計調査の必要性を私どもは事あるごとに提案してきただけに感慨深いものがあります。この統計が今後積み重ねていくに従って、マーケティングデータとしても、あるいは研究のバックデータとしても有効に活用できることが望まれます。

 本年は観光統計元年ともいえそうですが、今後継続して統計をとり続けることの重要性と、地域における観光統計の充実が望まれます。その第一歩として「観光」の定義からきちんと整理していく必要がありそうです。UNWTO(世界観光機関)では「観光旅行」の定義づけを厳密にした上で、各国の事情、統計のとれる範囲で裁量にまかせています。最近のアウトレットやショッピングセンターなどでの行動は、観光に該当するのか否かのなどの議論を積み重ねていくことが望まれます。また統計の正確性、中立性、透明性を確保していくことも重要で、統計をとる責任個所を担当分野からきりはなして統計行政を一元化することも検討に値すると思います。海外では英国やフランスなどの国において、統計行政が一元化されているそうです。