コロナ禍3年目、祭りの復活に思うこと~東北6県の夏祭りに着目して~ [コラムvol.476]
2019年の青森ねぶた祭にて筆者撮影

はじめに

皆さんは、8月と言えば何を思い浮かべるでしょうか。東北・岩手出身の私は、「お祭り!」が真っ先に思い浮かびます。青森のねぶた祭、岩手のさんさ踊り、秋田の竿燈まつり、宮城の七夕まつり、山形の花笠まつり、福島のわらじまつりと、例年、8月上旬の東北は、祭りムード一色になります。東日本大震災直後の2011年夏でさえも、これらの祭りは中止されず、むしろ6県すべての祭りを同じ場所で開催する「東北六魂祭」(現・東北絆まつり)というムーブメントにまで発展しました。日本人にとって祭りは、単なる余興のためのイベント以上の意味を持つということがわかります。

ところが、新型コロナウイルスの流行により、2020年は上記の祭りは全て中止されました。また、2021年も中止または規模を極めて縮小しての開催でした。参加者だけでなく観衆の密集が不可避なことや、大きな掛け声が発生すること、地域外から人を集めてしまう等の祭りの特性を考えると、感染拡大防止のためには仕方のない判断かと思います。

そして、コロナ禍で3回目の夏となる今年、6つの祭りは観客を入れるかたちで、無事開催に至っています。全国各地でも、感染対策を講じた上で、様々な規模の祭りが復活し始めていると感じます。以下、東北各県を代表する6つの祭りに着目し、どのような感染対策が講じられた上で実施されたのか見てみましょう。

東北6大祭りの感染対策2022

下記の表では、6つの祭りの実行委員会HP等に掲載されている感染対策方針に関する資料から情報を抜粋し、「参加者に対するルール」と「一般の来場者(観覧者)に対するルール」の2つに分類して整理しています。

表 2022年における東北6大祭りの感染対策
出典:各祭りの実行委員会HP等をもとに筆者作成。出典元は本記事の下部に記載。

まず、参加者に対するルールについて見てみます。例えば、青森ねぶた祭のハネト(跳人)は、正装さえしていれば、誰でも、事前申し込み無しで、どこの団体のねぶたにも参加できる、というのが例年のルールです。しかし、今年はこのような自由参加を禁止し、事前にWEB申請のあった者から抽選を行い、参加人数のコントロールを行っています。また、盛岡さんさ踊りでも飛び入りの一般参加等を禁止したり、秋田竿灯まつりでは、一般客との交流が生まれる「ふれあい竿燈」や「市民パレード」を中止したりという対策が見られます。それぞれの祭りに欠かせない「掛け声」については、対応がわかれる部分のようです。例えば、ねぶた祭ではマスク着用を必須とする代わり掛け声はOKとしています。さんさ踊りでは、熱中症予防のためマスク着用を必須とせず、掛け声も禁止にはしていません。一方で、花笠まつりでは掛け声を一切禁止しているほか、竿燈まつりでは掛け声を禁止した上でCD音源を会場に流すという対応をしています。

来場者へのルールに関しては、酒類の販売を規制したり、飲食専用エリアを設けて沿道での食べ歩きを禁止する等が、各祭りに共通する対策となっています。また、観客からの掛け声は、どの祭りも禁止されているようです。

考察

一度中止された祭りを復活させるにあたっては、開催を市民が受け入れていく気運を醸成するため、感染不安を与えない開催のあり方を探る必要があります。一方、祭りの開催に関するルールは、政府や地方自治体からガイドライン等は出ているものの、全国で一元的に決めることは難しいものです。今回着目した6つの祭りだけを見ても、パレード形式なのか、参加者同士の距離の確保ができるか、観客との交流の場面は多いか等、それぞれ特徴は違います。実行委員会等を中心とし、各祭りの特性を踏まえて地域内で時間をかけて議論がなされ、「従来の祭りの姿」と「感染防止対策を講じた祭りの姿」の間で、許容できる妥協点を探った結果が、上の表に示すようなルールの違いに表れているものと思われます。

おわりに

私は、今年現地まで見に行くことはできませんでしたが、地元である盛岡さんさ踊りのYouTubeライブ配信を、仕事帰りの通勤電車の中で見ていました。見様見真似で踊る小さい子供たちや、エネルギー溢れる大学生チーム、熟練の身のこなしが美しいベテランチームなどを見ていると、さんさ踊りという地域の伝統芸能が、お祭り文化とともに子供達まで受け継がれていることに、安心と同時に感動を覚えました。祭りは、地域外から人を集め、経済効果を生むイベントとしての側面がありますが、3年ぶりの祭りを見て改めて感じたのは、地元の人の努力により文化が継承されることで、地域資源としての価値が高まり、その結果として人を惹きつけるイベントになるのだということです。だからこそ、東北の各祭りで見られているように、コロナ禍で多少その形を変えたとしても、途切れさせてはいけないものだと感じます。

ライブ配信で祭りに参加できるのはありがたい時代だと思いつつ、来年はぜひ現地に見に行きたいです。

出典