地域の観光の活性化に取り組む際に「地域が持つ資源を改めて見直してみることが大切」とよく言われています。しかし地域で日々生活している人には「言うことは分かるけど、うちの地域にそんな良いものなんか無いよ、人に勧められるほどでもないよ」という気持ちもあるのでは、と思います。こうした状況について、私がお手伝いをしている新潟県胎内市での例を元に考えてみたいと思います。
■観光と農業で村おこしに取り組んだ胎内市(旧黒川村)
まず、胎内市について少しご紹介を。胎内市は平成17年に旧中条町と旧黒川村が合併して誕生しました。黒川村、と聞くと地域おこしや地域活性化に関わりのある方はご存じの方も多いのではないでしょうか。旧黒川村は1950年代より当時の村長の強いリーダーシップの元、村の若者が都会へ流出することを食い止め、企業誘致などの外部資本に頼らずに村を経営していくために、スキー場やホテルをはじめとする観光施設や、農畜産物の生産・加工・販売施設など多くの施設を村営で設置しました。特に農畜産物については、施設の若手職員をスイスやドイツの農業研修にも参加させて技術を習得させるなどの取組みを行い、高い品質の農畜産物を生産可能にしました。こうした取組みは80年代後半~90年代には地域おこしの先進事例としても評価され、全国から視察が訪れていました。
そして現在、「胎内リゾート」と呼ばれるエリアには、ホテルを中心にスキー場、ビール園、そば処、天文館、昆虫館など数多くの施設が集積しており、大きな観光スポットとなっていますが、近年の厳しい経済環境の中、胎内リゾートも厳しい運営状況となっており、何とか胎内リゾート、更には胎内市全体を活性化させていこうと一昨年より我々もお手伝いをさせて頂いています。
■見る人が見れば・・・
現地へお伺いするようになった当初、自治体の方や市民の方にいろいろと見所や特産品をご紹介いただきましたが、その際には「こんなものもあるんですけどね・・・。でもそんなに売れるものでもねえ・・・」という紹介のされ方だったと記憶しています(もちろん地域の風土としての「おくゆかしさ」から出た言葉だった部分もあったとは思いますが)。
例えば地ビールに関しても「そんなに旨いものでもないし、地元の人はそんなに飲まないよ。」というのが当時の地域の方々の全般的な評価だったと思います。しかし、地域の「外」の評価は違いました。今年になって、ビールにこだわりを持つ飲食店に胎内の地ビールを紹介する機会を得た所、「従業員一同がびっくりするほどのクオリティーのビールです」との反応が返ってきたのです。また、別のお店からも同種の反応があり、現在定期的に取引ができるまでになっています。
こうした反応により、少なくとも関係者は「東京のビール通にも評価されるもの」という自信がつき、「胎内市ではおいしい地ビールを作っています」とお薦め出来るようになりましたし、地域の人々の地ビールに対する捉え方が少しずつですが変わってきているように感じます。
ロイヤル胎内パークホテル |
ホテル周辺の風景 |
胎内高原ビール(ヴァイツェン) |
■今こそ”攻め”の姿勢で
「地域の活性化にこの地域資源を使おう」と地域の方々に話しても、なかなか賛同が得られず・・・今回例としてあげた胎内市に限らず、多くの地域で似たような状況が存在し、ご苦労されている方々もいらっしゃると思います。こうした状況の時に、地域の人々に良さを理解してもらうよりも、「外」で評価されることを先に進め、その評価を地域にフィードバックすることで地域資源を見直してもらう、といったやり方もあるのではないでしょうか。もちろんある一つの地域資源だけで全てがうまくいくようなことはありませんが、状況を変える一つのきっかけには十分になると思います。
また、そうした「外」の評価を得ていくためには、いわゆる「おくゆかしさ」をこのときばかりは脇に置き、多少の「厚かましさ」を持って取り組んでいくことも重要だと思います。良いものがあればそれはいずれ評価される、という”待ち”の姿勢ではなかなか結果にはつながりません。地域、特に地方部を取り巻く状況は厳しいですが、「こんなものがあるので一度見てみませんか」「これはおいしいのでぜひ一度味わってみませんか」と積極的に「外」に対して売り込んでいく”攻め”の姿勢で「外」の評価を獲得することが今こそ重要なのではないでしょうか。