はじめに
人々を惹きつける観光地の魅力には様々な要素が必要です。息をのむほど美しい自然風景であったり、伝統文化・芸術であったり、おいしい食べ物であったり・・・地域固有のものであればあるほど、その魅力は輝きを増すに違いありません。
最近、仕事で立ち寄った観光都市シドニーで、観光地の魅力の根底に必要なものとは何かを、あらためて考えさせられました。
シドニーとオペラハウス
いうまでもなくオペラハウスは、観光都市シドニーにとってシンボル的な場所で、シドニーを訪れる国内外の観光客でここに立ち寄らない人はおそらく皆無といえるほど重要な存在です。訪れたことがなくてもシドニーのランドマークとして知らない人はいないでしょう。
私も、このあまりにも有名すぎる観光ポイントに足を運んでみました。いわば、有名スポットの確認作業のつもりで・・・。
目の当たりにしたオペラハウスは、最近よほどのことがないと感動しなくなってきた(感度が落ちて感動できなくなってきた?)私が見ても、予想以上に見事な建造物でした。貝殻やヨットの帆を思わせる斬新な外観デザインのこの建物が、今から50年も前に着工されたことにも驚かされますが、国家プロジェクトとして設計コンペが行われ、一度は落選した当時無名のデンマーク建築家の設計案が採用され、紆余曲折を経て完成するまでの歴史ドラマにも興味深いものを感じます。2007年には、文化遺産(人類の創造的才能を表現する傑作)としてユネスコの世界遺産の中では最も新しいものとして登録されたのも素直に頷けます。
さて、オペラハウスを眺めながら、ふと考えてみました。「もし、オペラハウスがなかったら(あるいは今と違う姿のものであったなら)、シドニーの観光はどうなっていただろう?」オペラハウスのないシドニーが想像できないほど、人を惹きつけるマグネットとしての集客力は大きく、そしてそこから観光都市シドニーが得る経済効果は測りしれないものといえます。
加えて、オペラハウスを取り巻くウォーターフロントには、王立植物園やサーキュラー・キー(水上交通の発着所となっている埠頭)、シドニー・ハーバー・ブリッジなど、市民の憩いの場やショッピング街、ランドマーク等が集積し、市民や観光客が渾然一体となってその雰囲気を楽しんでいます。場所によって姿かたちを変えるオペラハウスを望みながらのこのウォーターフロントの散策は、実に心地のよいものです。ウォーターフロントが徹底的にパブリック空間として開放され、また巧みな空間構成をすることで、市民も観光客も、決してお仕着せでなく、それぞれの好きな場所を見つけて時間を過ごしているようにも見えます。
見る場所によって姿が変わるオペラハウス |
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オペラハウス周辺の水辺には 様々な時間の過ごし方のできる場所がある |
水上交通のターミナル「サーキュラー・キー」 |
もう一つのウォーターフロント「ダーリングハーバー」
シドニーシティに隣接するダーリングハーバー地区は、もともと貿易港として関連倉庫や工場が建ち並んでいたところで、オーストラリア建国200周年記念祭のために最新のショッピングが楽しめるエンターテイメントの中心地として1988年に再開発されたウォーターフロントです。この地区には、シドニー水族館、アイマックスシアター、シドニーエンターテイメントセンター、王立海洋博物館、スターシティカジノ、コッヘルベイワーフ(ショッピング)、パディスマーケット(中華街)、ハーバーサイト(ショッピング)等が水辺に集まり、多数のホテルがそれを取り囲むように林立しています。
ここでも、一番の魅力は、近代的な施設群ではなく、市民や観光客に自由度の高い場所として開放された水辺の存在にあるといえます。この地区は、ビアモント橋によって約1kmほどで一回りできるようになっていて、夕方から夜にかけては、ぶらぶら歩きや大道芸人達のパフォーマンス、ナイトライフなどを楽しむ市民や観光客で夜遅くまで賑わいが絶えません。
夕暮れ時のダーリングハーバーの水辺 |
水辺には夜景を楽しむ人々が集う |
「舞台装置」の出来映えが観光地の魅力を決める
観光地は、よく演劇にたとえられます。観光地にとって、観光客は見物客(観客)であり、演劇の主役たる役者は地域の人、そしてまちや施設は舞台装置です。それらが程よく融合したとき、分かりやすく言えば、舞台、役者、観客の三者が一つになったとき、その演劇は素晴らしいものに違いありません。
近年、観光地づくりの現場には、どちらかといえばソフト重視、ハード軽視の傾向がみられます。よくいわれる「ハコモノに金を使う」ことをよしとしない風潮です。もちろん、人を含めたソフトの大切さは否定しませんが、それだけでは片手落ちといえないでしょうか。良い舞台装置(環境インフラや施設)があってこそ、役者や様々なソフト(イベントなど)を活かすことができ、結果としてはるかに大きな価値を生み出すことができるのです。
観光地の皆さんも、身の回りの舞台装置をもう一度点検してみてはいかがでしょう。役者が引き立ち、観客を魅了する舞台がしっかりとできていますか?