コロナ禍を経た日本人の国内旅行市場のいま [コラムvol.494]

新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行から1ヶ月強が経過しました。この5類移行により、今年の夏休みは海外旅行においても本格的に再起動することが見込まれますが()、国内市場については一足先に再起動がはじまっています。今回は、コロナ禍を経た日本人の国内旅行市場のいまについてみていきたいと思います。

旅行再開の動き、旅行頻度はコロナ禍前の水準超え

観光庁「旅行・観光消費動向調査」によると、2022年の日本国内の宿泊観光・レクリエーション延べ旅行者数は1億4,483万人となりました。日本人の国内旅行市場はコロナ禍で半減しましたが、コロナ禍前の8割超の水準まで回復したことになります。

コロナ禍においては、旅行経験率(1年間に旅行を1回以上した人の人口に占める割合)が52%から28%へと大きく落ち込みました。行動制限やコロナへの不安などの影響によって、これまで旅行をしていた人の約半数は旅行を控えていましたが、2022年の旅行経験率は43%と大幅に回復、旅行を控えていた人たちが旅行を再開させる動きがみられました。一方、旅行実施者の旅行平均回数(旅行に行った回数の平均)はコロナ禍においてもさほど下がらず、2022年にいたってはコロナ禍前の水準を上回る勢いでした。

 

図1 国内宿泊観光・レクリエーション旅行における延べ旅行者数等の推移(性・年代別)

出典:観光庁「旅行・観光消費動向調査」をもとに筆者作成

回復が早い20代女性、遅い70代女性

旅行を控えていた人たちが旅行市場に戻りつつありますが、いまだ2割は戻ってきていません。前回のコラム(2021年データ)では、70代の離脱率が高いことについて触れましたが、その傾向は続いているのでしょうか。また、性別や年代によって、コロナ禍からの回復傾向は異なるのでしょうか。それを確認するため、コロナ前の2019年から2022年の旅行経験率と実施者の旅行平均回数の推移を、性・年代別にみたものを図2に示しました。

まず10代からみていきます。2019年から2020年にかけて男女ともに経験率・回数が大きく減少し、2021年はその状態がほぼ変わらず。2022年に両指標とも大きく回復したものの、コロナ禍前の水準にはあと一歩でした。この動きは、男女による差はあまりみられませんでした。

一方、20代は男女間で差がみられました。コロナ禍の影響をより受けたのは女性であり、経験率・回数ともに大きく減少したものの、その回復は早く、2022年の旅行回数はコロナ禍前の水準を上回りました。経験率も、コロナ禍前の水準と比べ女性は0.5割減、男性も1割減まで回復しています。なお、40~50代も、20代同様、男性に比べて女性のほうがこの間の変動幅が大きくなっていました。

30代は、男女ともに、2020年に経験率・回数が大きく減少、2021年は経験率はさらに減少したものの回数は回復傾向に、2022年は経験率も回復した、という状況でした。経験率は女性、回数は男性が高いという違いはありますが、経年の変化は男女によらず、相似形に近い形の動きがみられました。60代も同様の傾向でした。

最後は70代です。男女ともに、2020年に経験率・回数が大きく減少し、2021年はさらに減少が続きました。

2022年になって両指標ともプラスに転じ、旅行回数は急回復、コロナ禍前の水準を上回るほどでした。一方、経験率はコロナ禍前の水準と比べると男性3割減、女性4.5割減であり、他年代に比べて戻りが遅れています。

 

図2 国内宿泊観光・レクリエーション旅行における旅行経験率×実施者の旅行平均回数(性・年代別)

※原点は2019年~2022年の全体平均
出典:観光庁「旅行・観光消費動向調査」をもとに筆者作成

 

おわりに

今回は、コロナ禍を経た日本人の国内旅行市場のいまをみてきました。コロナ禍において旅行を控えていた人たちの旅行再開の動きに加え、旅行に行っている人がこれまで以上に高頻度で旅行に行っていることが、旅行市場の回復に繋がっています。旅行実施者が旅行回数を増やしている要因のひとつには、全国旅行支援の影響もあるでしょう。一方で、この支援を上手く使えていない、旅行を再開できていない層も一定数存在します。特に70代女性は、旅行に行く人はより行くようになっていると同時に、半数が旅行市場から離脱したまま、といった二極化がより進んでいます。この層の回復にはもう少し時間がかかると考えられます。

今回は観光庁「旅行・観光消費動向調査」のデータを用いましたが、公益財団法人日本交通公社では、新型コロナウイルス感染症の流行が旅行市場におよぼした影響把握を目的に、定期的に実施している「JTBF旅行実態調査」や「JTBF旅行実態調査」の調査内容を拡充し、分析を進めています。旅行市場にどのような変化があるのか、今後も引き続き注視していきたいと思います。

 

参考

※ 公益財団法人日本交通公社『観光文化257号 特集:ポスト・コロナで再起動する海外旅行』
https://xb069601.xbiz.jp/book/tourism-culture/tourism-culture-257/