年間2,000万人近く外国人旅行者が訪れるようになり、2015年はホテル不足やホテル料金の高騰が話題となりました。実際に、シティホテルやビジネスホテルの客室稼働率はここ数年7~8割前後で推移している状況です。その一方で、旅館の稼働率は平均を大きく下回り続けています。需給のマッチングがうまく行えていないことが推測されることから、今後も増加が予想される訪日外国人旅行者の受入れにあたっては、旅館の活用は最重要課題と言えます。
私たちはこれまでインバウンドの研究に継続して取り組んできました。2015年度は当財団と日本政策投資銀行が共同で実施した「DBJ・JTBFアジア8地域・訪日外国人旅行者の意向調査(平成27年版)」で旅館に関していくつかの質問項目を設けたほか、先進地のヒアリング等を行いました。そこから見えてきた、インバウンドにおける旅館の課題と対応策についてご紹介したいと思います。
外国人旅行者の日本旅館に対する意識と利用実態
まずは外国人にとっての日本旅館のイメージについて見てみましょう。「行ってみたい日本の観光地のイメージ」について、24の写真を提示し、複数回答式で選択してもらったところ、先日レポートで掲載した『温泉』が1位となりました。そして『日本旅館』は6位にランクインしており、人気の高さがうかがえます。
人気の高さはイメージだけではありません。日本旅行希望者に対して(将来の)日本旅行の際に利用したい宿泊施設を尋ねると、国・地域や訪日経験に関わらず『日本旅館』が68%でトップを占めています(図表1)。
しかし、直近の日本旅行の宿泊施設で『日本旅館』を利用した比率を見ると49%に留まっており(図表1)、利用意向と実際の利用率との間にギャップが生じていることがわかります。特に個別手配の旅行者(FIT客)で『日本旅館』の宿泊経験がやや低い傾向にあります。
FIT客の7割が宿泊施設をインターネットで予約
FIT客の旅館の利用率が低い背景には旅館のインターネット宿泊予約サイトへの登録が進んでいない現状があります。同調査の結果ではFIT客は宿泊施設をインターネットで予約する人が全体の7割と、大半がネットで予約しています(図表2)。
一方で、大手インターネット宿泊予約サイトで宿泊施設タイプ別の登録数を見るとホテルに比べて旅館の登録数は非常に少なくなっています。国内客向けのサイトと比較すると、外国客向けのサイトへの旅館の登録が進んでいないことがよくわかります。
そんな中、インターネット宿泊予約サイトへの登録をいち早く進めてきたのが長野の湯田中温泉です。2011年に掲載したレポート「地域のつながりを生み出す 世界が知る”Snow Monkey”(長野県山ノ内町湯田中渋温泉郷)」で触れていますが、地域の旅館がまとまって宿泊予約サイトへ登録したことで存在感を高めた事例と言えるでしょう。
インバウンド受入れを後押しするソリューション
それ以外にも旅館にとってインバウンド客を受け入れるにあたっては様々な課題がありますが、その中のひとつにクレジットカード対応が挙げられます。外国人はクレジットカードの利用率が高い一方で、小規模な施設がクレジットカードに対応するには機器の導入等の手間やコストが壁となり、導入がなかなか進んでいません。
こうした課題に取り組んだのが野沢温泉村です。野沢温泉村は小規模や宿泊施設や飲食店がほとんどを占めておりますが、スキー目的の外国人観光客が多く訪れており、クレジットカードへの対応が求められていました。そこで、「Square」という、スマートフォンやタブレットのイヤホンプラグに差し込むだけでクレジットカード決済端末として機能するサービスがあるのですが、野沢温泉村の商工会が中心となって「Square」を旅館や飲食店等に紹介する勉強会を開催し、導入が図られたそうです。導入コストは安価で、小規模施設でも導入しやすいサービスとなっています。
先進事例の水平展開のために
観光庁では2016年3月に宿泊施設を対象とした受入環境整備の補助金の公募を開始し、Wi-Fiの整備やホームページの多言語化などの支援を開始したように、訪日外客数増加の追い風を受けて国や自治体などの補助も充実してきています。また、前述の「Square」のようなソリューションも続々登場しています。
そうした中で求められるのは、先進的な取り組みの水平展開だと感じています。今後も、調査や先進地ヒアリングで得た知見を、本ホームページを始め、様々な形でみなさまにお伝えできるよう研究を進めていきたいと思います。
参考
Square公式ホームページ https://squareup.com/jp