2017年 持続可能な観光国際年
2017年は、国連が定める「持続可能な観光国際年(International Year of Sustainable Tourism for Development: IY2017)」でした。国連が観光に関する国際年を定めるのは、1967年の「国際観光年(International Tourism Year on Tourism – Passport to Peace)」と、2002年の「国際エコツーリズム年(International Year of Ecotourism)」に次いで3回目。国際年であることを契機に、短期的な経済的利益を得るための環境利用を抑制し、地域固有の生態系や文化の保全を通じて長期的な経済的利益につなげていくための具体的な取り組みが世界各地で実行されました。
これら取り組みの指針となっていたのが「持続可能な開発目標(SDGs)」です。SDGsは、観光分野に限らず、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和と公正など多岐にわたる17の目標と169のターゲットを設定したものです(図1)。ただし、近年急速に規模が拡大し、今後も成長が見込まれる観光分野に対してのSDGsへの貢献の期待は大きく、①包括的で持続可能な経済成長、②社会的包括性、雇用創出と貧困削減、③資源効率性、環境保全と気候変動への対処、④文化的価値、多様性と伝統への配慮、⑤相互理解、平和と安全保障、に観光が貢献することがIY2017の目標にも具体的に盛り込まれています(図2)。
取組の見える化
こうした持続可能な観光に関する取組そのものが世界各地で進展している一方で、取組状況を“見える化”することで、取組を促進・支援する動きも拡がっています。例えば、IY2017の公式ウェブサイトでは、IY2017のフレームに基づいて実施される取組について実施者自身が同サイトを通じて登録できるようにしていました。登録内容は誰もが閲覧可能で、地図上やカレンダー上で検索することで世界各地でどのような取組が行われているかを把握でき、自地域で取組を行う際に参考とすることができます(図3)。
私は、このように各地域の情報を横並びで表示することは、取組の全体像を知ることにつながることの他、取組の当事者に対して「他(の地域)がこれだけやっているなら、自身(の地域)も頑張らなくては」と感じてもらう効果が大きいと思っています。
なお、他にも見える化の重要な取組として、「サステイナブル・ツーリズム国際認証(GSTC Criteria)」等の認証制度の話もあるのですが、今回は紙幅の関係上省略します。
持続可能な開発目標(SDGs)と観光に関する研究会
SDGsに関連して各地域の情報を横並びで表示している他のケースとしては、「SDG Index and Dashboards Report」があります。こちらは観光分野に限らないSDGsの達成状況を評価したものですが、その評価結果について17の目標ごとに世界各国の達成状況を得点化、緑~黄~橙~赤の4色で表示しています(図4)。このように視覚的に見やすく表示することで、どのエリアがどの目標に対して遅れているのか、あるいは先進的なエリアはどこなのか、が一目瞭然で分かります。
では、観光分野の貢献状況に限って見てみると、各エリア・各国の状況はどうなっているでしょうか。果たして日本の観光分野は進んでいるのか、遅れているのか。その見える化に取り組む研究が国内で始まっています。私自身も研究メンバーとして参加しているものですが、日本観光研究学会における研究分科会「持続可能な開発目標(SDGs)と観光に関する研究会」で、2018年度から新規設置されました。分科会としてはまだ立ち上がったばかりですが、観光地・観光事業レベルでのSDGs達成に向けた観光の取り組みを可視化する方法論を確立することを目標に、今後精力的に研究活動を行い、学会やシンポジウム等の場でも成果を随時発表していく予定です。SNS等、ウェブ媒体を活用しての情報共有・ディスカッションもできればと構想中ですので、進展があり次第、お知らせできればと思います。