2017年の静岡・山梨県の4登山道を合わせた富士山の登山者数(注1)は、約28.5万人で、前年同期間から約3.9万人の増加となりました。また、1日あたりの登山者数がもっとも多かったのは8月13日(日)で、8,201人もの人が富士登山をおこないました。そうした日には、写真のような混雑・行列が発生し、登山の安全性や快適性が損なわれていることが、近年の富士山の課題ともなっています。
そのため、静岡・山梨両県では調査による混雑状況の正確な把握や、混雑予想カレンダーによる情報発信など様々な対策をおこなっています。当財団では、両県の取り組みの一部を継続して受託、調査を実施してきました。
富士山における登山者アンケート
両県では、富士山登山者を対象に、登山道や山頂の混雑状況や、世界文化遺産としての富士山に対する認識などを尋ねるアンケート調査を毎年実施しています。対象は、富士山登山を終えた18歳以上の男女で、毎年1,000人以上の登山者から協力を得てデータを集計・分析しています。
調査方法は、2016年までは各4登山道の五合目(登山のスタート・ゴール地点)において、調査員が紙調査票を使って聴き取る形でおこなっていました(以下、「現地回収」方式と呼びます)。しかし、2017年は他の調査方法についても検討するため、「現地回収」方式に加えて2種類の調査を実施しています。
1つ目は、登山を終えた人に紙調査票の入った返信用封筒を渡し、登山後に回答してもらい、その後ポストに投函してもらう「後日回収」方式。2つ目は、同じく登山を終えた人にQRコードが印刷されたアンケート依頼用カードを配布し、登山者自身の携帯電話で特設のアンケート回答サイトにアクセスしてもらい、サイト上で回答をしてもらう「モバイル回収」方式です。いずれも配布は「現地回収」方式を実施している各登山道五合目でおこないました。
各手法による回答結果の違い
今回、各方式について、「現地回収」方式:1,254票、「後日回収」方式:855票、「モバイル回収」方式:752票の回答を得ました。以下グラフは各方式における、回答者の年代の違いです。男女ともに、「現地回収」方式、「モバイル回収」方式、「後日回収」方式の順に回答者の年齢がやや高くなる傾向が見られます。
図1 各方式における回答者の年代(男性)
図2 各方式における回答者の年代(女性)
次に、設問に対する回答傾向の違いを見てみます。今回分析対象にした設問は、以下の3つです。
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設問1.
富士山に登る前に、山麓の神社などをお参りしたり、湖・滝などを巡ったりしてから富士登山をすることが、富士登山の文化的伝統であることを知っていましたか。
(選択肢:以前から知っていた/今回の登山・訪問で知った/知らなかった)
設問2.
今回の登山を通じて、「富士山」に信仰登山の場としての神聖さを感じましたか。
(選択肢:感じた/少し感じた/感じなかった)
設問3.
今回の富士登山における山小屋のサービス・雰囲気における満足度を教えてください。
(選択肢:とても満足/やや満足/ふつう/やや不満/とても不満)
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図3 文化的伝統の認知
図4 神聖性に対する感覚
図5 山小屋に対する満足度
上記結果からは、「後日回収」方式と「モバイル回収」方式の回答結果の傾向がやや近く、「現地回収」方式の回答結果がやや異なるように見受けられます。
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なお、回答者属性(性・年代)の違いによって回答結果の違いが出ることを避けるため、上記の結果は回答者属性(性・年代)がいずれの方式も同比率となるよう補正をかけたものになっています。
結果の違いから推察されること
各設問の回答結果は、回答者属性による影響を除いているため、恐らく調査手法の違いによって傾向の違いが生まれているものと思われます。想定される要因としては、登山をおこなってから回答するまでの時間の差で、現地回収は体験してすぐの回答のために記憶や感覚がはっきりとしており、よりポジティブな方向に回答が寄ったこと、そして後日回収とモバイル回収の回答が少し似た傾向を示したのも、回答までの時間が両手法とも登山後で似たタイミングだったことなどが考えられます。ただし、確かな分析を行なった結果ではありませんので、今後この推察部分についてはより分析を深めた上で結論を導いて行きたいと思います。
注
(注1)環境省調べ(各登山道8合目付近に設置した赤外線カウンターで計測)